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婚約関係は順調でした。
表向きは……。
レンティル様はとても女性の扱いに長けていて、エスコートもとても上手でした。
わたくしから見て、レンティル様はとても大人に見えました。
「今日も君は可愛いね」
「……ありがとうございます。この後、ご予定は大丈夫ですか?」
「あっ…今日はちょっと」
「そうですか。結婚式のことで話したいことがあったのですが……」
「ま、また後日、ペルーシャ子爵邸に向かうよ」
「分かりました…では後日」
レンティル様はホッと胸を撫で下ろしています。
わたくしは初めからレンティル様の後ろに女性の影を感じていました。
バレていないと思っているのか、レンティル様は何事もなかったようにわたくしの元に来て、素晴らしい婚約者を演じては去っていきます。
「君の雪のように白い肌もサファイアのような……いや、ピンクダイアモンドかな?と、とても素敵だよ!」
「……」
「本当に可愛らしいよ!まるで兎のようだ」
最近は、気が抜けているのか明らかに言い間違いも増えてきました。
どうやら、レンティル様はバレていないと思っているようですが、流石にバレバレです。
それにしてもレンティル様は何かに例えて褒めることが好きなようです。
わたくしはニッコリと微笑みました。
最初からそうでしたが、この人に一ミリも興味が湧かないのです。
けれど貴族の結婚とはそういうものらしいわよと、姉に聞いたことがありました。
「君と居ると心が洗われるようだ」
「……そうでしょうか?」
「ああ、そうとも!」
そう言ってレンティル様は私の頭を優しく撫でました。
恐らくレンティル様は、わたくしを子供扱いしているのでしょう。
確かに十も離れているので、そう思われても仕方ないかもしれません。
わたくしに手を出してはいけないという約束はしてますが、女性としては余り意識されていないようです。
わたくしもレンティル様を男性として意識することはありません。
上辺だけのお付き合いとは虚しいものです。
それでも結婚式の日は近付いていきます。
わたくしは仕方なく招待客に送る招待状の準備をして、会場や何の料理をお出しするのか…それに衣装はどうするのかと、とても忙しい毎日を過ごしておりました。
そして結婚式があと二ヶ月と迫った時でした。
どうしても本日中に確認しなければいけない資料を持って、わたくしはマベール侯爵邸を訪れたというわけです。
慌てるマベール侯爵邸の侍女や執事は、レンティル様は居ないと言って、わたくしを追い返そうとしています。
わたくしは直感的に何かあると思いました。
女の勘というやつでしょう。
わたくしはニッコリと微笑みながらレンティル様の部屋へと向かいました。
――そこには
見知らぬ令嬢とベッドの上で抱き合いながらキスをするレンティル様の姿。
衣服は淫らにはだけて、肌が露わになっています。
わたくしがその姿をぼーっとしながら見ていると、わたくしに気づいたレンティル様の顔がみるみる青褪めていきます。
「リ、リディア!?何故ここに……!!」
「ごきげんよう、レンティル様」
申し遅れました。
わたくしはリディア・ペルーシャでございます。