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「少々、結婚式について確認があるのですが…」
「あっ…今、レンティル様は……」
口籠る侍女達を見て、わたくしは首を傾げました。
わたくしは今、自分の婚約者であるマベール侯爵の嫡男であるレンティル様の元を訪れています。
レンティル様は月の貴公子と呼ばれ、女性に常に囲まれているような方でした。
月のように輝く金色の髪と琥珀色の瞳は、見るものを虜にするそうです。
わたくしには縁遠い方だな…と、いつも遠くから眺めておりました。
しかし、父から「そろそろ婚約者を決めてはどうだ?」と言われたわたくしは、気の進まない縁談を受け入れました。
その相手というのが、レンティル様でした。
レンティル様はわたくしを気に入ったと言って「結婚してくれないか?」と跪いて告白して下さいました。
わたくしはレンティル様に問いました。
「わたくしで、いいのですか……?」
するとレンティル様は優しい笑顔で言いました。
「恥ずかしながら、貴女に一目惚れをしてしまいました。その栗色の絹のような髪も可愛らしい薄桃色の瞳も、一目見たその時から心奪われました」
それを聞いて気を良くした父はレンティル様は結婚相手として相応しいと言いました。
わたくしは、そこに愛情のようなものは感じておりませんでした。
付け加えますが、わたくしは絹のような髪ではなく軽くウェーブがかかっておりますし、瞳を可愛いというレンティル様の頭は大丈夫かと不思議に思っていました。
けれど、わたくしの家……ペルーシャ子爵家は父の言うことは絶対なのです。
わたくしには兄や姉が居ますが、わたくし以外は婚約者が決まっています。
ペルーシャ子爵家は主に金銭の貸し付け等で、成り上がって爵位を買った新参者の貴族です。
勿論、古くからある歴史ある貴族は、わたくし達をよく思わないそうです。
けれどペルーシャ領はとても豊かで活気があります。
お父様は一代で貴族になった成金だとよく言われてますが、それを捩じ伏せて木っ端微塵にする力を持っています。
なので、大体お金目当てで婚約者になりたいという方達が殆どなのです。
兄や姉は自分の想い人と婚約していました。
わたくしも婚約に憧れはありましたが、なかなか婚約者が出来ませんでした。
何故わたくしだけが婚約者が居なかったかと言うと、末っ子のわたくしは父に溺愛されているせいか、婚約者が決まりませんでした。
そんな中、柔らかい笑顔で父の心を掴んだレンティル様は見事と言えるでしょう。
それがわたくしが十五でレンティル様が二十五歳の時でした。
そしてわたくしが十六歳の時に結婚する事となりました。
幾つかの契約を交わしたのち、わたくし達は婚約関係となりました。
その中にはわたくしに結婚までは、手を出してはいけないといった内容も含まれています。
レンティル様はわたくしに優しい笑顔を向けて下さりますが、やはりそれは恋愛感情が伴ったものとは違う気がしました。
わたくしは何故かこの婚約が上手くいかないような気がしていました。
けれどそれを話したところで、父が意見を変えるとは思えませんでした。
そしてこの婚約は、私の予想通りの展開を迎える事となります。