追放
鬱蒼とした、青々しい木々が立ち並ぶジャングルの中、僕たちは足を進めて行った。
僕たちはモンスター討伐ギルドの「ランドスケープ」。
ギルドの中で有名な方で、一応ギルドランキングでも24位という上位に位置している。
今日は毎週御礼、モンスター討伐の日。
僕の周りの人々は四方八方から迫り来るモンスター達を斬ったり、殴ったり、魔法でやっつけたり、とにかく様々な方法で邪悪なモンスター達を討伐していっていた。
え?僕はどんな方法でモンスターをやっつけているのかだって?
ごめん、僕、1匹もモンスターを倒していない。
理由は沢山あるが、その中でも大きなウエイトを占めているものが、「元々戦えるような技術を僕は持ち合わせていないから」というものだ。
で、何故そんな僕が危ない戦場に前線として駆り出されているのかと言うと、それは一重に僕のスキルが貴重だからである。
「おい、ジュスト。回復させてくれないか?」
最前列でモンスターを倒しまくっていたエブラールは突然、僕の前まで下がってきた。
「あぁ、分かりました」
見た所、エブラールの負傷具合は相当酷くて、腕の肉がもろ露出していた。
それ相応にグロいが、スキルの関係上、何回もこういう光景を見てきたので最早何も感じなくなってしまった。
サイコパスの一路を辿っているのだろうか……
僕はそのグロい腕に手をかざして、目をつぶった。
すると僕の手のひら周辺は、たちまち明るい光を放ち始める。
そして、あれよあれよという間にエブラールの腕は元通りになっていった。
まるで、逆再生しているかのように。
「ありがとなジュスト」
そう言ってエブラールはまた、最前列に進出していった。
そう、これが僕のスキル。
その名も【回復】
何も特殊でもなんでもないが、とにかく回復スキルというものは使える者が少ない故に重宝されるのだ。
だから、例え僕のように片腕がなかったりしても【回復】を持っているというだけで待遇されるのだ。
これ以上に都合のいい話はない。
スキルというものは生まれついた頃にしか付与されないので、本当に僕は運が良かったのだと思う。
僕はギルドの仲間たちと共に先へ進んでいった。
モンスター討伐の仕事も終わり、僕は仕事終わりの打ち上げに赴いた。
約18名程のギルドの仲間たちは皆、木製の机に座って酒を交わしている。
僕もあまり好きではない酒をゴクリと飲んだ。
飲んでいると、1人の男が酔った勢いでみんなの前に出しゃばってきた。
その男はエブラール。
僕が今日戦場で傷を治したこのギルドの長だ。
少し強引なところもあるが、それも含めてみんなに愛されている者だ。
そんなエブラールが突然、しゃしゃり出てきたのだ。
「おい、みんな!」
酒場の盛り上がりが一転、エブラールの声と共に場は静まり返った。
エブラールは酒のせいかフラフラとしている。
「今日はお前らに言わねばならない事がある!」
周囲からは「なんですかー」や「なんでも言ってください!」などという言葉が飛び交ってくる。
何を言い出すのかと思っていたら、エブラールは暇なく口を開く。
「この中で、俺がいらないと思った奴を今日1人、ギルドから追放する!」
エブラールは平然とした顔、否、酒に酔ってほんのり赤くなっている顔でそう言った。
ギルドの皆は一気に血の気が引いていた。
あたりは葬式のように静まり返る。
そりゃ、そうだろう。
なぜなら、このギルドの長が1人をクビにすると言っているのだから。
そのロシアンルーレットに例外はない。
もちろん、僕だって追放される可能性があるのだ。
可能性があるとは言っても、僕は【回復】という非常に貴重なスキルを持ち合わせているので多分、追放はされないと思う。
そうだと分かっていても、やっぱり居心地が悪い。
困惑しているギルドのみんなを差し置いて、エブラールは勝手に話を進める。
「じゃあ、早速発表する。今日、追放する奴は……」
エブラールは執拗に語尾を伸ばして、皆の気を引かせた。
僕の心臓の脈打ちはどんどん早くなっていく。
一体、誰が追放されるのか……?
「ジュスト、お前だ」
ジュスト……ジュスト?
なんか……その名前、どっかで聞いた事があるけど……
はっ!!それ、僕の名前じゃんっ!!!!!
「え!僕!?」
「ああ、お前だ」
エブラールは黒い笑顔でこちらを見てくる。
「な……なんでですか!?」
意味がわからない。
僕は何もリーダーの気に触れることなどは1つもしていない。それどころか、戦場でいくらか助けてあげた命の恩人だとも呼び声高いはず……
それなのに……なぜ……
「理由は2つある」
エブラールはチョキの手で2つという数字を表していた。
なんで、ギルドのみんなは何も言わないで黙っているんだ?
もしかして、「刃向かったら自分も追放される」とか思っているからみんな知らん振りして、酒を飲んでいるのか?
ひどいじゃないか……