トゥラ・ブランドー
俺の頭の中で聞こえた声の主は誰だ? どうしてお前の名前を呼ぶんだ?
そう疑問に思うとまた声が聞こえて来た。
(アナタヲタスケルタメヨ)
(た、助かるのか・・)
「ティ・・・・・」
「ドスン! 」
天から杖が降ってきて地面に突き刺さった。
その杖の上にフワリと白のフード付きローブの人? が立った。
「あらあら、救世主がこんなところでくたばってちゃ洒落になんないわ」
「な、なんだ!? お前は!? 」
「救世主の救世主ってところかな? 全員そこから動くんじゃあないよ」
「派手な登場しやがって、7対1で勝てると思うなよ!」
「それくらいハンディにもなりゃしないね」
ローブの人物が右手を翳すと七本の氷の矢が男達の頬を掠め壁に刺さった。
「ヒイ! 」
「ほうら、動いてたらあぶなかっただろう? 」
「す、すみません! どうか命ばかりは! 」
「ふむ、空閑満月、ミツキは大丈夫そうだね」
「奪った荷物と金品全ておいてきな! そこのお前、それも置いて行くんだ、わかるな?」
その言葉にチンピラどもは俺から奪った荷物と有り金全てを置いて逃げ出していった。
その一部始終を見て俺は訳の分からない世界と急激な疲労感から気絶した。
気が付くと俺はベッドに寝かされていた。ふと横を見るとさっきの白いローブの人が此方を観て
目が合った。
「ミツキ、何かあったら教会に来いと言っておいたじゃないか、解っているのか?」
「ええと、、、?」
よく見ると教会で俺を召喚したと思えるトゥラ・ブランドーだった。
「トゥラ・ブランドーさん? 」
「そう、トゥラ・ブランドーだ。トゥラでいい。」
「じゃあトゥラさん、貴女はあの教会のシスターですよね? 」
「いいえ違うわ。私は貴方を召喚するためにあの教会を使っただけよ」
「え!??そうなんですか? それじゃなんであの路地で助けてくれたのに教会じゃあんな風だったんですか?
それに口調も随分と違うし」
「まあ、教会じゃ色々と縛りがあるし私が召喚した者がどれほどの者か見るために情報を最小限に
伝えただけだったんだけど、教会出て直ぐにあんな雑魚どもにやられちゃうなんて思わなかったからな」
「思わなかったって?!俺死んじゃうとこだったんすよ! それにここは何処ですか? 」
「うるさいなぁ、ここは町の宿屋だよ、ぶっ叩いても起きないから連れて来てやったのよ、もう」
「ぶっ叩いたって! 俺のとどめさすつもりだったんですか!?」
「ちゃんと回復魔法かけてからぶっ叩いたわよ、それよりも聞きたい事あるんでしょ? 」
「そうでした、俺の事『救世主』って言ってましたけど、それってどういう事ですか? 」
「そうねぇ、古より災害がもたらされた時、召喚されし者が救世主として世界を救うであろうってのが
伝説として残っているのよ。そして三年前、東の大地で大崩落がおこり
この世と魔界が大きく繋がってしまったのよ」
「それでその魔界からの者達に今苦しめられていると言う訳ですか? 」
「そうね、最終的には大崩落した穴は『あちら』と『こちら』の術氏の結界によって止められたけど、止められただけで元には戻らなかったわ」
「じゃ、俺がこの世界を元通りに出来るんですか? 」
「うぅん、救うって言うのも・・・・・・・・ん!?」
トゥラさんがいきなり両手で俺の両眼を見開らかせた!
「あいたたた! 」
「ミツキィ! これ「神の赤眼」じゃないか!
これが君への女神からの祝福かぁ・・へぇ、初めてみた。
たしか伝承によると動体視力や幻術、魔術にも特殊なものが使えるようになったりするんだよね、はー
こうゆう模様しているんだ、へー書物だけじゃ分からなかったなこりゃ、しかしまてよ
普段は通常と変わりなく自身の意思で発動するはず、なにかきっかけが・・・チンピラに絡まれた時だろうか?」
「す、すみませんがトゥラさん、瞬きさせてください・・・」
「おっとと、ごめんごめん」
トゥラさんはやっと俺の両目から手を放してくれた。
俺の眼はその赤眼とやらのせいではなく赤くなっていただろう、充血のせいでね。
「痛、あと聞きたいことが三つあるんですけど」
「なに? 」
「トゥラさんは何者ですか? それと俺は元の世界に戻れるんでしょうか? 」
「私は大崩落に結界を張った賢者の一人よ、それとミツキが元の世界に戻れるかは分からないけど
来られたんだから戻る方法もきっとあるはずよ・・・・多分」
(多分っていったよこの人)
「三つ目ですけど俺は何をすればいいんですか? 」
「この世界には魔王と呼ばれる者達が複数人いる。大崩落も魔王たちの仕業だと推測しているわ。
だからその魔王達を倒せえば少なくとも大崩落は元に戻るはず」
「そんな、からまれていたのを見ていたんなら分かっていると思いますが
俺なんかが相手になるわけないでしょう?
それよりも大崩落を結界で防いだ人達がいるじゃないですか」
「それが駄目なの、結界を張った人達は皆その結界を維持する為に石化してしまったわ」
「じゃ、なんでトゥラさんは無事なんですか」
「私は双子の姉妹だったのよ、二人共精霊と契約した賢者だったから
大崩落の日私と姉は東の地へ向かい二人で結界の術式を発動させてたわ
そして結界が安定したところで姉が『維持する事だけならら一人でできるわ
トゥラは自由になりなさい』って私を跳ね除けてしまったの」
「そうだったんですか、でも神の赤眼といわれても何が出来るかわかりませんし、喧嘩も弱くて、ましては剣術なんて・・・」
「自覚がないっていうのも問題ね・・・・ミツキいい?
今から寸止めで思い切りミツキの顔面を殴りに行くわ、それを避けてみて」
「は、はぁ、分かりました(って、おい!本気で殺す気でくるんじゃないよな?)
「じゃあいくわよ、立って」
トゥラさんが素手で俺の前で構えをとった、その瞬間ボクシングのジャブ? と言うのか、ノーモーション
からのパンチが俺の顔面に目掛けて突き出されて来たが、さっきチンピラに絡まれていた時と
同じようにスローモーションのように見え、俺はそのパンチを体を傾けて避けたが、少しトゥラさんの
拳は俺の頬を掠めた。
「どう? 」
「「どう?」」じゃないですよ! 寸止めって言いましたよね?
思いっきり振りぬいてるじゃないですか! 」
「いや、寸止めって言っておかないとちゃんと構えもしないで逃げると思ったかさ」
「たしかにそうだったのかも知れませんが、殴るつもりなら最初からいっておいて下さいよ! 」
「で? どうだった? 」
「あ、はい、トゥラさんの動きがとても良く見えました」
「でしょうね、素人に避けきれる突きじゃないもの、これで少しは赤眼の力が分かった? 」
「はい、『見る』事は出来ると分かりましたがまだ体が追い付かない感じです」
「それはこれからミツキが経験値を積んで体を眼に追いつかせるしかないわね」
「やっぱりそういうもんですかね」
「あとは、取り敢えずミツキのいた世界から持ち込まれた物を確認しよう」
「な、なんでですか!? 」
「こっちにミツキと召喚されて来た物って事はミツキに必要な物って事でしょう? 」
「そ、そうなんですかね? 」
「じゃ、バッグの中身はぁ、なんじゃ?っこの四角い板は? ・・・ん? これはお守りかぁ? 」
「四角いのは携帯電話っていうこちじゃなんの役にも立ちません」(電気もないし充電できないし)
「ん? じゃぁ、バッグの取っ手に着いてる袋がお守りか? 開けてみよ」
「あ! お守りは開けちゃダメって婆ちゃんが! 」
と言っている間にお守りの紐を解かれてしまった。
「?? 赤い宝石の埋め込まれた指輪が入っているなぁ、はめてみようかな?」
「なんで人の物を勝手にいじるんですか! 」
「じゃ、ミツキがはめてみなよ」
トゥラさんが指輪を俺に手渡した。
「え? あ、うん」
俺は右手の中指に指輪をはめてみた。
(ちょっと大きいな)
すると指輪の赤い宝石が強く光り俺の指にフィットした。
「あれ? さっき迄ブカブカだった指輪がぴったりだ」
「さっきの光、少し魔力を感じたわ呪われてんじゃないの? その指輪」
「滅多なこと言わないで下さいよ、直ぐに外せますよ・・・・あれ? 」
「取れないの? 」
「は、はい! こう何ていうか皮膚に吸い付いているような感じで」
「あなたのいた世界って何か特別な力とかがあるの? 」
左手で右手の中指から指輪を外そうとしながら答えた。
「強いて言えば電気ってやつでしょうか?! 」
「電・気? ってなに? 」
「・・・・カミナリ見たいなものです」
「カミナリねぇ」
「今の現状とは関係ないんですけどね」
「体調の方は大丈夫か? 」
「はい、大丈夫です」
俺は指輪を外すのを諦めた。
(後で石鹸でもためしてみるか)
「あら! 目が普通に戻ってる。平常時は赤眼にはならないのね、
じゃ私は教会へ戻るわ、今度は最初に武器でも買っておきなさいよ」
「あ、ここの宿代は! 」
「チンピラどもからの贈り物よ」
そうしてトゥラさんが宿屋を出た後、俺は一晩休んで次の日に武器屋を探しに宿屋を出た。