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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

血鏡~願うなら~

血鏡~願うなら~第7話

作者: SAY

 父を説得すれば、話し合えば、柳子が恐ろしい考えをすることは無かった。

 柳子と政貞の関係を知った時、縁談の話の前に二人と話していたら、未来は変わっていたかもしれない。

柳子が変わることは無かったのかもしれない。


 朝になり、柳子は父を呼び 縁談を受けると伝えた。


「そうか、柳子は賢い子だ」


 父の喜びに柳子は笑顔を見せる。


 縁談を受ければ政貞の命は守られる、護衛隊で頑張り官位を上げば政貞の家族の家も大きくなる。

 政貞が幸せになるなら私は闇に落ちても構わない、柳子の心は政貞への愛と父への憎しみで偽りの笑顔を作らせた。


「それでお父様。相手の方には明日 会って伝えたいので、今夜は私と月見をいたしませんか?お母様には、お兄様のところに泊まっていただいて。嫁ぐ前に、お父様とお話を沢山したいのです」


「そうかそうか。柳子は優しい子だ、寂しくなる前に沢山話そう。そうと決まれば……」


「出来れば お兄様とお母様には内緒で、私から縁談の話を伝えたいのです。私の願いを聞いて頂けますか?」


「分かった、お前の言う通りにしよう」


 柳子はニコリと微笑んでみせた、心のうちを隠すように。


 夜の月見。使用人も外へ出払い、屋敷は柳子と父だけになり、お酒を父が飲み柳子が酌をして月見を楽しんだ。

 母との馴れ初め、身籠ったと知った日、産まれた日、柳子との数年間の話をする父。それを聞いて盃に酒を注ぐ。


月が上に上る頃には、父はお酒で酔い潰れて寝ている。


「お父様。こんな所で寝てしまっては、夜風に当たって風邪をひいてしまいますよ」


 揺すって起こしてみると、父はフラフラと視界が定まらず立ち上がることが出来ない。


「んー…。柳子、手を貸してくれ」


「はい、お父様」


 すっかり酔い潰れた父は柳子に支えられ、寝室へと戻った。


「今夜は飲み過ぎてしまったな」


「本当に。でも私には、都合が良いのです」


柳子はそれだけ言うと、父親から奪っておいた刀で後ろから刺した。


「ぐっ・・・」


 突然の背中の痛みに、直ぐには刺されたと理解出来なかった。

 畳の上に倒れ、後ろにいた柳子を横目で見る。柳子の手には、刃が赤く染まった刀が握られている。


「やはり、女の力では無理ですね。でも お父様を刺しても手が震えない、これなら」


「グハッ・・・りゅ・・・こ。止めろっ!」


 背中、腕、足、柳子は迷うことなく何度も何度も刺していく。

倒れた父から刺した刀を抜き、踏みつける。もう痛みなど感じない、意識も朦朧として何も考えられない、助けを求める声も届かない父。


「お父様に、私の政貞への愛は分からないわ。お父様なんて嫌い、こんなに憎く思えるなら居なくなればいい」


 今度は首に刃を降り下ろした。

 その瞬間 柳子は血飛沫を浴び、部屋も血で赤く染まる。


 動かなくなった父が息をしていないことを確かめ、部屋に火をつけた。

 通路にも燈盞に入れた油を撒いて火を放ち、羽織を脱ぎ捨て、鏡のある牢に戻った。


 風向きを考えると離れた場所にある牢なら火が回ってくるのは遅い。誰かが気付けば救出してもらえる、火の手が上がり燃えてしまうなら それも運命。


 これは賭け、柳子が父と共に命を落とすかの。


「自分の手で父を殺めた。理由が子供と言われても仕方ないわね」


 鏡に自分の姿を写し笑う、そこには普段の柳子は居ない。

 心に鬼を宿した様に、後悔することも無い柳子がそこに居た。


 ******


 あまりのリアルな感覚に目を覚ました私は起き上がり、トイレに向かいドアを開け吐いた。


 いつもは所々が抜けていて、吐くほどの夢は見なかったのに、今夜は違っていた。それに、女性からの語りかけは無く目覚めた。


(何なのアレは?あの女性が父親を殺したの?)


 この夢には、続きがある。


 燃え盛る炎の中で左腕に大きな火傷を負った柳子を誰も犯人だと思うものは現れず、噂となっている賊の犯行として片付けられた。

 縁談も父の死で破談となり、傷のある柳子を妻に迎える貴族は現れることはなく、跡を継いだ兄は柳子が愛した政貞の元に嫁ぐことを許した。


 出世した政貞は柳子を妻として迎え、二人は子宝に恵まれた。二人にとって幸せな日々を送る。

 これからも幸せな人生を送れると思われた矢先、柳子は旅先で体調を崩し亡くなった。


 残された鏡は柳子を映し、語りかける【願いは何?】と。


(いつもなら牢に閉じ込められ炎が立つまでの間の夢は抜けていたのに、今回は声が聞こえた。名前と父親殺害も夢に出た。いったい、アノ鏡は何?本当に博物館に有る鏡と夢の鏡は同じなの?)



 夢に意味が有るなんて思ってない、正夢なんて1度も無かったんだから有るわけがない、それても1度見た恐怖は消えない。柳子と呼ばれた女性は私に何をさせたいのか考えてしまう。


《人間の命を》


 耳を塞ぐように、聞こうとしなかった言葉が浮かぶ。鏡を見て何日目だったかは忘れた、1度だけ願いを叶えたいなら人間の命を捧げろと言われたことがある。


「そんなこと出来ない……出来ないよ」


 出来るわけがない、恐ろしいことを私がするなんて。

 どうしたらいい?どうしたら鏡から解放されるかな?……千里。


 解決策を見つけたくて鏡について噂がないか調べた。古い鏡なのだから今回が初めての現象とは思えない、私と同じ体験をした人が必ずいるはず。


最初に調べたのは、鏡がこの博物館に来ることになった理由。別の理由で此所に来たのではと思っていたが、いたって普通の博物館で評価も此所と変わらない。

 古い建物の内装を変えることになり【休館します】と書かれているだけ。


(掲示板もネットブログにも、悪い話は無い。前の博物館では、変な現象は起きなかったのかしら?)


「ーーくん」


(絶対何かあるはず。こんな夢を見始めたのは鏡が来てから、経緯を辿れば)


「ー井くん。聞いてますか?平井君」


 誰かに呼ばれていることに気付き振り返ると、館長が私を睨み付けていた。


「仕事中に何をしているのですか?予約者とキャンセルのチェックは?イベントの企画書は?」


「いえ、まだ予約のお客様との日程調整の方が終わってません」


「仕方ないですね。そちらは私がやっておきます。平井君にお客様です、二宮さんって男性」


二宮、その名字に私は血の気がひくのを感じた。

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