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アニマリア  作者: 山中走馬
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プロローグ

                   

 第1話

 

 俺は秋葉原の電気街の改札を出ると駅前の広場を中央通りのほうへと歩いた。目的地は別にない。ただ賑やかのほうへと向かっただけだ。

 新橋駅で降りるはずのところを乗り過ごして秋葉原まで来てしまった。今戻ったところで営業先との約束の時間にはもう間に合わないし、そうなると取り合ってももらえないだろう。早々に俺は諦めて秋葉原で時間をつぶすことにしたのだ。我ながらダメな社員だと思う。


 すぐに中央通りまで出た。信号が赤だったので、道路を渡らずにそのまま中央通り沿いを末広町のほうに歩いた。

 秋葉原のにぎやかな人通りと派手な店の看板を眺めながら歩き続けた。平日の昼間だが多くの観光客がのんびりと歩いている。ところどころでメイド服姿のメイドカフェの店員が客引きをしている。

 途中にいくつかある家電量販店などに入ることもなく、あてもなく歩き続けた。6月だがすでに初夏のような暑さで日差しが厳しく、次第にじんわりと脇から汗が出てくるのを感じた。

 そのとき、ふとわき道が日陰になっているのが目に入った。俺は強すぎる日差しを避けるようにしてそのわき道へと入っていった。


 店先に多くの自販機が並んでいた。何か冷たい飲み物を買おうかなと考えながら自販機を眺めながら歩いていく。アイドル関連のグッズを販売しているものが多いようだ。そういったものにはあまり興味はない。

 駅の反対側にある巨大量販店に行ったほうがよかったか、そんな考えを抱き始めたころ、自販機の列が途切れたあたりで不意にビルとビルの間の狭い空間に古い小さな日本家屋があるのが見えた。

 こんなところにまだこんな建物が残っていたのかと思い、なんとはなしに興味をそそられてその建物に近づいていくと、建物の玄関の上には『独狐奄』そして脇には『骨董』の文字が彫られた木の看板が見えた。

 ガラス越しに店内が見えた。明かりがついている。店は営業中のようだが人の姿はみえない。少し入りづらい雰囲気もあったが、興味のほうがまさって思い切って引き戸を引いて中に入った。



 店内は中央に大きな丸テーブルがあってその上にもいろんな小物が置かれている。壁際の棚にも所狭しとさまざまな骨董品が並べられている。


「いらっしゃい」


 店の奥から声がした。

 声のほうを見ると、棚の陰になって外からは見えなかったが店の隅に事務机があってその奥に白髪の老人が座っていた。表情は硬く、なんとなく気が難しそうな老人の印象だ。


「ゆっくりしていってくれ」

 俺のほうを睨むような眼で見ながら老人は言った。


 少し気まずさを感じながら俺は小さく頭を下げた。


 壁際の棚をゆっくりと見て周った。多種多様な骨董品が雑多に置かれている。仏像の隣にマリア像があったり、茶碗の隣にヨーロッパ風の花瓶があったり。

 そんな中で、棚の奥、花瓶の後ろに置いてあったある小さなブロンズ製らしき像に目を留めた。外国風の甲冑に身を包んで突き立てた剣を右手で杖のように押さえて勇ましく立つ像だ。ただし、それは人間ではない。猫だ。よく見ると後ろには尻尾が付いている。俺はその像に手を伸ばした。


「あんたいいものに目を付けたな。どうだ、いいだろう」

 俺がその猫の像を手に取って眺めていると店主が話しかけてきた。


「ええ、そうですね」

 何の像なのかわからないが、とにかくかっこいい、と思った。

「俺は骨董品にぜんぜん詳しくはないけれど、こんなの見たことがないですね。どこかの国の神様の像とかですか?」


「そいつは()()()()()の英雄の像だ」


 とある世界。この店主は妙な言い方をする。まあ遠く離れた国のことを遠い世界とか、別世界とか新世界とか言ったりすることもあるから、店主はそういうつもりで言ったのだろうか。

 それにしても英雄、か。妙に心惹かれる像だ。


「気に入ったようだな。欲しいかい」

 俺がなおもその像を見ていると店主が訊いてきた。


 像を裏返してみたが、どこにも値段は書いていない。欲しいと言えば欲しいがいくらくらいなんだろうか。


「値段はどれくらいですかね」


「条件次第では譲ってやってもいい」


「えっ」思わず声が出た。「譲るって、ただですか?」

 この店を近々閉めるからとかそういったことなのか。思いがけない幸運を期待して胸が躍った。


「ああ、もちろん。ただしひとつ条件はあるがな」


 条件、それはそうだ。一瞬にして弾んだ心は鎮まった。


「条件ってなんですか?」


 そんな甘い話はそうそうにあるはずがない。只より高い物はないのだ。そう思いなおして身構えた。

「あるゲームをクリアしてくれれば譲ってもいい」

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