1 前世の記憶
お読みいただきありがとうございます。
ふと自分の姿が映った鏡を見た時、違和感を覚えた。自分が自分ではないようなそんな感覚。そんな時ふとある文を思い出した。
ミーティア・ラーダ伯爵夫人。ただし、後妻で夫婦間の愛はない。
子どもは1人。ただし、夫と前妻の子であり、血縁はない。
容姿は一般的に美人と呼ばれる類。ただし、性格は悪い。血縁がないため子どもを嫌っている。
どんなことにも、"ただし" が付き、必ずマイナスイメージがある女性。
これが、ミーティア・ラーダという人物。そう、乙女ゲーム「恋と雨の舞踏会〜運命の君へ〜」に出てくる悪役キャラである。
今の容姿はそのミーティア・ラーダに似ていた。というかそっくりである。少し私の方が若い気がするが。
ちなみに、メインの悪役キャラは他にいる。王道の縦パーマの公爵令嬢が。
一方私は、とある攻略対象を選んだ時のみに現れる悪役である。もちろん、その攻略対象とは夫の連れ子、ライのことだ。ライルートに突入するとヒロインとの仲を深めるにつれ、だんだんと私の悪事はばれていく。
ゲームでは、このミーティアは領民から不正に金をもらっていたり、ライについても嫌がらせをし女性恐怖症を植え付けた張本人だったりする。最終的には離縁されたのちに投獄という結末が待っている。これが私のこのゲームに対する前世の記憶。
なるほど、なるほど、私は悪役キャラに転生したらしい。
冷静を装ってはいるが、実は、心臓のバクバクが止まらない。冷や汗も止まらない。足の震えも止まらない。
先日結婚式を終え、まだ埃一つない新しい我が家に着いたばかりである。私は自室にあるの鏡で前世のことを思い出したのだ。
つまり、今日は旦那様との夫婦生活が始まる日だったのだ。