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白い世界
何も無い。
ずっと彼方まで白い景色が続いている。
距離感を分からなくさせるその白は、自分がどれだけ歩いてどれだけ前に進んだのかも教えてくれない。前がどちらなのかと言われると、それも分かったものではないのだが。
何の音も聞こえない。
自分は歩いているはずなのに、足音一つ聞こえない。
声を出してみようとしたが、自分の口が開いているのかも分からない。手を口元に当ててみても、手も口も何かが触れたという感覚を伝えてはくれなかった。
何の目的も無い。
何故ここにいるのか、どこに向かって歩いているのか、どうなりたいのか、考えていることなど全く無い。
過去も、今も、未来も、自分自身も、ここには何も無い。
……私は本当にここにいるのだろうか。
本当はいないのに、いないと思い込んでいるのだろうか。
どちらが正解かは分からない。どちらが正解であろうと関係無い。
人間だろうと幽霊だろうと、私はただただ歩き続ける。