5話 鍵
「おいおい・・・色々とツッコミどころが多過ぎじゃないか?」
黒の魔道書に書いてある事が本当ならば、ジンは知らぬ間に不老不死となった事になる。
しかも、黒の魔道書が破壊・消滅したらジンも死ぬと言うオマケ付きだ。
(・・・不満か?)
魔道書は不満そうに聞く。
「いきなり不老不死にされて不満じゃない方がおかしいだろ。」
当然だ。
覚悟もしてないのに、いきなり不老不死になりましたって言われて、ハイそうですかと納得出来る人間なんてそうそう居ない。
特に不老不死なんて日本文学では不幸な結末を迎えるマイナスなイメージが強いから尚更だ。
周りが歳を取っていくのに、自分だけが若いまま、そして周りだけが死んでいく孤独、それは常人には耐え難い苦痛を伴うはずだ。
とは言え、決してデメリットだけでは無いと言う事もジンは理解していた。
死の恐怖からの解放、永遠の若さ、人間の寿命では叶えられない様な野望の達成・・・上げればキリがないほどのメリットが不老不死にはある。
だが、最も不満なのは、それらを天秤にかける事すら無く、不老不死の道を強制された事だった。
(ふむ、泣いて喜ぶと思っていたが・・・人間とはそう言うものか?)
魔道書は些かガッカリした様に声のトーンを落とした。
「それにだ。 この能力は何だ?全然使えないじゃないか!」
そう言うと、ジンは右手に魔力を込める。
すると、掌に50㎤の四角い黒い物体が生成された。
(そう!それが暗黒物質だ! 覚えが早いじゃないか。)
「これでどうしろって言うんだ?まさか、壁でも掘れって言うんじゃ無いだろうな?」
ジンは、掌の暗黒物質に意識を集中し、杭の様な形をイメージする。
すると、暗黒物質が徐々に形を変え、杭の様に変形した。
ジンは、それを掴むと右側の石の壁につきたてる。
ガンッ!
石の壁は僅かに削れて、亀裂が生じる。
暗黒物質の杭も先端が砕けてポロポロと落ちた。
(ふむ、大分能力を使いこなしておるな。お主、なかなか才能があるではないか。)
「とにかく、どうにかしてここから出る方法は無いのか?」
せっかくの金曜日、ほろ酔い気分で久しぶりに家に帰ってゆっくり出来ると思っていたのに、とんだトラブルに巻き込まれた。
こんな場所からはさっさと脱出して家に帰りたい。
(まあ、落ち着け、脱出は簡単だ。黒の魔道書が置いてあった台を見るがよい。 ついでに、黒の魔道書は剥き出しに持って居るのは危険なので、体内に戻して置いた方が良いぞ。)
この魔道書が破壊されたらジンは死ぬ。
つまり、今は心臓を剥き出しにして左手に持っている様なモノだ。
そう思うと怖いな。
ジンは左手に持っていた魔道書を閉じ、胸に押し当てる。
すると、魔道書は吸い込まれる様にして消えた。
頭の中にある知識がそうすれば魔道書が心臓に戻る事を教えてくれた。
ジンは言われた通りに、魔道書の在った台をみる。
スマートフォンのライトで照らして見ると、真ん中に小さな鍵穴の様なモノがある。
「何だこれは?」
(暗黒物質をその穴に入れて見るが良い。)
ジンは言われた通りに、暗黒物質を穴に入るくらいの細さに変形させて差し込んだ。
その瞬間、台全体が黒い光を発し始める。
(さあ!初めて扉が開くぞ!)
魔道書は興奮を抑えきれないとばかりに声が大きくなる。
黒い光が部屋全体を包み込むと、前方の壁全体に亀裂が入った。
ビキッビキッ!
そして、壁が崩れると、その先には通路が続いていた。
「やった!出口だ!」