3話 魔力
再び目を覚ますと、やはりジンは暗い石の部屋の中に居た。
今までの事が全て夢だったらなんて淡い期待を持ったのだが、現実は厳しい。
「結局、振り出しに戻ったな。」
ジンは起き上がると、右手で左胸を摩る。
特に変わった感じは無い。
だが、確実に何かが変わった事だけは分かった。
心臓を起点に、全身へと巡る力の流れが分かる。
「これが・・・魔力と言うやつか。」
魔力なんてついさっきまではファンタジーの中だけの事だった。
しかし、今ならそれが現実であると分かる。
頭の中に流れ込んできた知識がジンの常識を塗り替えた。
(力を手に入れた気分はどうだ?)
また、頭に声が聴こえてきた。
「気分が良い様に見えるのか?」
色々と理解不能な現象の連続で、流石にジンの顔にも疲れが出ていた。
(ふむ、体調が優れないのか?まあ、膨大な知識と魔力が汝の身体に流れ込んだのだ、無理もない。だが、直ぐに馴染むであろう。)
力や知識とは言われても、正直よく分からないって言うのが実情だった。
漠然とした大きな知識を得た気はするのだが、データ量が巨大過ぎて整理出来ずに放置されてる感じだ。
それに魔力も確かに感じはするものの、使わなければいまいち分からないレベルだ。
「それで・・・どうやってここから出れば良いんだ?」
ジンは起き上がると壁に手を当てて押してみる。
当然だが、硬い石の壁はビクともしない。
魔力とやらで肉体が強化されたりしてないかと期待したのだが、そう上手くはいかない様だ。
(無駄だ。 確かに身体強化の魔法などもある事はあるが・・・魔法を使うと言うのはそれ程簡単な事では無い。)
「じゃあ、どうすれば良いんだよ。」
(では、汝に我が力を説明しよう! 先ずは左手を出して、掌に魔力を流し込むのだ。)
ジンは、言われた様に左手を上げて、掌を上に向ける。
全身に流れる魔力に意識を向けると、左手へ集める様に念じてみる。
しかし、あまり集まりが良くない。
むしろ魔力は頭に向かって集まり出した。
(違う、そうではない。魔力とは生体エネルギーの一種であり、血液と共に全身へと巡っている。だがら血液の流れを意識するのだ。 血が集まる場所には強い魔力が集まる。)
「血・・・ね。」
ジンは、左手に力を入れる。
腕、掌、指先まで血が行き渡る様なイメージで左手に力を込めた。
すると、体内を流れる魔力が血液の流れと共に左手に集まるのが感じられた。
(そうだ、手に意識を集中して・・・黒の魔道書、汝の心臓をその手にイメージするのだ。)
ジンが魔道書をイメージすると、左手から黒い光が発せられる。
その瞬間、掌に黒の魔道書が生成された。
「おお!?・・・本当にできた!」
(そうだ、それが黒の魔道書であり、汝の心臓でもある。最初のページをめくって見るがよい。今は汝も読める言葉に変換してあるはずだ。)
「・・・心臓?」
ジンは、魔道書の言葉に引っかかるが、取り敢えず言われた通りに、1ページ目を開いた。
すると、確かにそれは日本語で書かれていた。