27話 燃える狼
ジンの瞳に映るのは赤く燃え滾る狼。
大きさは大型犬の中でもかなり大きい部類に入るサイズだ。
そして、何より燃えている。
体から炎を出していると言うよりは炎そのものに近いイメージだ。
炎がそのまま狼を形取った様な姿。
「まさに異世界の魔物って感じだな。」
ジンは黒刀を脇構えにしながら迫り来る燃える狼を迎え撃つ。
狼との戦闘経験は無いが、こちらには武器がある。
武装したオーク達に比べれば、単調に襲って来るため、まだマシだ。
ジンは飛び掛かって来た燃える狼の腹へ黒刀を振るった。
黒刀の刃は容易く燃える狼を両断する。
所詮は獣、刃物に対する警戒心が薄い。
その直後、凄まじい轟音と共に高熱の嵐がジンの身体を包み込んだ。
気付いた時には数メートル程離れた地面で転がっていた。
燃える狼が爆発したのだ。
千度を超える高熱の嵐は、ジンの全身の皮膚を焼き、右腕を消しとばした。
それでも、暗黒物質の肉体に痛みは無い。
「一体・・・何が!?」
一瞬、何が起きたのか分からずジンは混乱する。
それは自爆だった。
燃える狼を黒刀が切り裂いた瞬間、燃える狼は体内から大量の爆炎を発生させて爆発を引き起こした。
地面が抉れる程の威力の爆発だ。
「何!?何が起きたの?」
今の爆発音でハルカも目を覚ました様だ。
だが、状況が理解できていない様で混乱している。
この状況で外に出られたら危険だ。
パニックを起こされても困る。
狼の数が多い今、ハルカを狙われたら守り切る事は出来ない。
「テントから出て来るな!魔道書を持って奥に隠れていろ!」
ジンはハルカに指示すると、暗黒物質を操りテントの入口を塞いだ。
かなり頑丈に作ってはいるが、さっきの爆発を何度も受ければ破壊されてしまう程度だ。
ジンは周囲を見回す。
黒い犬が6匹と燃える狼が9匹だ。
「・・・多いな。」
あんな爆発を何度も受けていたら、身体が破壊されている間に、ハルカが狙われるかも知れない。
幸い狼達は刀で切れば死ぬ程度の強さだ。
ならば攻撃よりも防御に力を集中した方が良いだろう。
ジンは身体を暗黒物質で覆い尽くすと、西洋風の全身鎧を創造する。
あの爆発は威力は有るが、分厚い装甲で身を守れば大したダメージにはならないだろう。
ジンは右手に身の丈を超える大剣を創造すると、狼の群れへと突き進んだ。
ジンが大剣を振り下ろすと黒い犬が真っ二つに両断される。
2匹の黒い犬が飛び掛かって反撃をして来るが、分厚い装甲で守られたジンにはダメージを与える事は出来ない。
ジンは蚊を振り払うかの様に、2匹の黒い犬を大剣で吹き飛ばした。
間髪入れずに燃える狼達が向かって来るが、ジンの大剣が横薙ぎに振るわれ、3匹の燃える狼が横一文字に切り裂かれ、爆発した。
凄まじい爆風と爆炎に包まれるが、全身鎧の装甲により、大したダメージは無い。
鎧の傷も直ぐに修復される。
もはや、戦況は圧倒的だった。
残る狼達も、次々と斬り伏せられていき、全滅した。
「こう何度も戦闘を繰り返していると戦いにも慣れてくるな。」
ジンは狼達の死骸に囲まれながら、大剣を見つめる。
その顔はどこか哀しげな表情をしていた。
これだけ戦闘が多いって事は、この世界に来た普通の人間には生き残る事が相当困難である事を意味していた。
ジンは家族や友人が今何をしているのだろうかと思うと胸が締め付けられた。
「こんな世界にした奴を・・・俺は絶対に許さない。」
ザクッ!
その瞬間、巨大な黒い影がジンを襲う。
一瞬、黒い犬の生き残りかと思ったが、明らかにサイズが違った。
ジンに振るわれた黒い腕は丸太の様に大きく、鋭い爪は容易くジンの鎧を剥ぎ、腹の肉を抉った。
それは巨大な狼だった。
大型犬なんてレベルじゃない。
象よりも大きい黒い狼だ。
20mはあろう巨体が、軽い身のこなしで飛び跳ねると、ジンの正面に対峙する。
全身の黒い毛を逆立てて威嚇するその迫力は、凄まじい殺気に満ちていた。
「何だよ、ボスの登場か?仲間をやられて怒っているのか?」
ジンは、身体を修復しながら、大剣を狼へと向ける。
だが、言葉とは裏腹に、その顔に余裕は無い。
狼は、ジンの鎧を容易く切り裂いた。
つまり、ハルカを守る暗黒物質のテントも破壊する事が出来ると言う事だ。
何より、強い。
コイツにハルカを狙われたら、守り切る事が出来ないかも知れない。
だから今、コイツの注意を自分から逸らすわけには行かない。
ジンを凄まじいプレッシャーが襲う。
「グルアアアアアアアアアアアアア!!!」
腹底を打つ様な狼の咆哮が夜の森に響き渡る。
怒りに満ちた表情で、口から凶暴な牙を覗かせた狼がジンに襲い掛かった。




