1話 転移
それは美しい光のカーテンだった。
東京の眩い夜景が霞んでしまう程の巨大な光のカーテンは夜空を白く染める。
まるで昼間の様に明るく世界の隅々まで照らす光景に誰もが心を奪われた。
黒鉄仁もその例外では無かった。
それは金曜日の夜の事。
今年で25歳の誕生日を迎えたジンは、3回目の年度末決算を終えようとしていた。
大手食品メーカーに勤務し、社会人として経験を積み、一人前になってきたという自覚が芽生え始めた時期だ。
今週は決算期で激務が続いていた事もあり、ジンは久しぶりに夜の繁華街でフラフラとほろ酔いでぶらついていた。
同期で仲の良い中嶋と飲んだ後、自宅を目指して歩き始めた所だ。
今週は毎日ホテルと会社の往復が続いていたから、今日は一週間ぶりの帰宅のはずだった。
この時はまだ、それが永遠に叶わなくなるとは思っても見なかった。
連日の残業で目がおかしくなったのかと、何度か目をシバシバしてみるが、やはり見間違いでは無い様だ。
周囲はザワザワと騒いでいるし、スマホでパシャパシャと写真を撮っている者もいる。
「何これ?なんかのイベント?」
「すごーいキレー!」
「ってかヤバくね?太陽でも爆発したとか?w」
「宇宙スゲー!」
周囲の反応を見る限り、これは現実だ。
超常現象?科学兵器の実験?隕石?
色んな考えが頭に浮かぶ・・・しかし、どれも外れている気がした。
ただ、何となく・・嫌な感じがした。
何か、良くない事が起きる前触れの様な感じがしてならなかった。
次の瞬間、一層強い光に包まれて、ジンは目を閉じる。
すると、何とも言えない浮遊感の様なモノに包まれた。
暫くして目を開けると、ジンは薄暗い部屋の中にいた。