18話 魔女
奇妙な黒いとんがり帽子を被り、黒いローブに身を包んだ魔女は長い鼻と長い白髪が特徴的な老婆だった。
その横に並ぶのは、美しく精巧な作りの漆黒の全身鎧に身を包んだ黒騎士だ。
背中には巨大な両手剣を背負っており、フルフェイスのヘルメットで顔は見えない。
2人の纏うオーラは凄まじく、圧倒的な威圧感を放っていた。
「何だテメェらは!?」
手前にいたオークが剣を構えて警戒する。
「う、うわああああ!?」
その瞬間、オークは全身が腐り落ち、硫酸でもかけられたかの様に泥々に融けて液状化した。
「邪魔なゴミ共だねぇ・・・私がまとめて掃除してあげるよ。」
魔女が人差し指を立てると、凄まじい邪悪なオーラが噴き出し、突き刺される様な殺気で誰もが身動き1つ取れなくなる。
まるで、金縛りにでもあった様な感覚だ。
ジンは足が震えるのを止められずにいた。
これは恐怖?
次の瞬間、視界が紅く染まる。
そこで一度、意識が完全に途切れた。
一瞬なのか永遠なのか・・・。
虚無の中を漂ったジンは、痛みで目を覚ました。
「あ〝ああああああああ!!!???」
それは全身の皮を剥がされて熱した針を身体中に刺したような痛みだった。
ジンの身体は全身焼け爛れて原型を留めてはいない。
皮膚は融けて無くなり、筋肉の繊維が剥き出しに見える。
顔や頭は更に酷く、喉も肺も焼け焦げて呼吸もままらない。
一体、何が起きたのだ!?
上半身を起こすだけで、全身に激痛が走る。
これ程のダメージを受けても、身体は徐々に修復を始めていた。
焼けて潰れた瞳が回復すると、暗闇に光が射す。
「な、何だよこれは!?」
直径100m程が更地になっていた。
周りには黒焦げの死体がそこら中に転がり、草木の燃えかすからは、黒い煙がモクモクと立ち昇っている。
塾の建物も完全に倒壊しており、墨状になった残骸しか残ってはいなかった。
ジンはゆっくりと立ち上がると、建物の方へと歩き出した。
もう、大分傷は癒えているが、衣服は燃え尽きたので、全裸の状態だ。
「な、なんて事だ。」
ジンはその場に崩れ落ちた。
建物のあった場所には、無数の死体の山があった。
どれも黒焦げで原型を留めていない。
だが、死体の首にはどれも鉄の首輪と鎖が繋げられていた事から、それが救おうとしていた少女達だと分かった。
ジンは誰も救う事が出来なかった無力感に打ちひしがれる。
この子達はどれ程、恐怖し苦しんだのだろうか?
突如、この地に転移し、オークに襲われ、囚われ、理由も分からないまま殺された。
若者達の未来がこんな理不尽な形で奪われたのだ。
誰がこんな現実を望んだのだろうか?
「イーヒッヒッヒッヒ、何だい?生き残りがいるじゃないか。」
黒煙の中から姿を現したのは、先ほどの魔女と黒騎士だ。
「・・・これは、お前達がやったのか?」
ジンは立ち上がり、2人に問う。
既にその答えは分かっている。
「イーヒッヒッヒッヒ!ああそうさ!ゴミは燃やしちまうのが一番だからねぇ!」
魔女は意地悪そうに目を細めて笑う。
隣の黒騎士は無言でジッとジンの事を見ている。
「何でだ? お前達には、何にも関係無いだろ!この子達がお前達に殺される様な事をしたとでも言うのか?」
「何だい面倒臭いねぇ。 理由なんか無いよ!まあ、強いて言うならそうだねぇ、私達の道の上に居たから?イーヒッヒッヒッヒ!」
こいつら・・・。
魔女の言葉にジンは怒りが込み上げる。
「そんな理由で、罪もない子供達まで殺したのか!?」
ジンの全身を暗黒物質が包み込んでいく。
爪先から頭の先までスッポリ暗黒物質に覆われると、鎧の様に変形していく。
今のジンの怒りを表す様な悪魔の様な顔をした全身鎧へと変わる。
その右手には漆黒の刀身を持つ大剣を創造し、魔女へと剣先を向けた。
「罪の無い人間? 笑わすんじゃないよ! お前達人間は生まれてきた事が罪さ!イーヒッヒッヒッヒ!」
魔女は馬鹿にしたように笑う。
「もういい・・・お前の罪はここで償ってもらう!」
ジンは剣を構えると、魔女へと走り出した。
「イーヒッヒッヒッヒ、面白い!きっちり消し炭にしてあげるよ!」
魔女が人差し指を立てようとすると、黒騎士が右手でそれを制した。
「何だい?」
魔女は不機嫌そうに黒騎士に問う。
「俺がやる。」
黒騎士の言葉に魔女はやれやれと肩を竦め、後ろに下がった。
「好きにしな。私は、後ろで見てるよ。」
「・・・」
黒騎士は、背中の剣を抜いた。
ジンの身長以上もある巨大な両手剣は、禍々しいオーラを纏っているにも関わらず、妖艶な美しさを兼ね備えていた。




