17話 交渉
それは圧倒的な数の暴力だった。
100を超える武装したオークの軍勢が一斉にジンへと群がり、剣や槍で切り裂き、ハンマーや斧で叩き付ける。
しかし、どの攻撃もジンには大したダメージを与えてはいない。
オーク達はまるで鋼鉄の塊を攻撃している様な違和感を感じていた。
斧を振り下ろしても、ジンの皮膚を多少傷付ける程度で、刺さりもしない。
代わりに叩いた自分の手が痺れる始末だ。
そして、ジンの身体から流れ落ちるのは紅い血では無く、ドス黒いナニカだった。
ジンが拳を振るえば、オークは肉を潰され骨は砕かれる。
更に、ジンは右手に暗黒物質で大剣を創り出す。
それは身の丈を超える長さの巨大な剣だった。
漆黒の刀身を天に掲げる様に振りかぶると、密集するオークの隊列へと振り下ろした。
粗悪な鉄の鎧はベキベキに凹み、肉は裂け、骨が砕ける。
一撃で数体のオークが戦闘不能になる。
ジンはそんな大剣を軽々と振り回し、更に横一文字にオークを切り裂いた。
腕や足がぼとぼとと地面に落ち、血の雨に染まる。
既にオークの数は半数を切っていた。
血塗れで大剣を振るうジンの姿にオーク達の士気は落ち、逃げ出す者まで出始めていた。
ガンッ!
「ゲハハハハハ!活きがいいじゃねぇか!だが、そこまでだ!」
一際身体のでかい立派な鎧のオークがバトルアックスを地面に叩き付けてジンの注意を引く。
「嫌!話して」
「助けて!」
バトルアックスを持つオークの左右には2体のオークがそれぞれ裸の少女を抱えて、喉元に剣を添えていた。
「・・・人質か。」
ジンは大剣を下ろして、バトルアックスを持つオークへと向き直る。
「そう言うこった。どうだ、この辺でやめにしないか?」
「やめる?」
「ああ、どうやら俺達の戦力じゃお前を倒すのは無理な様だ。お前の目的はこの雌達だろ?」
「だったら何だと言うんだ?」
バトルアックスを持つオークはニヤリと笑う。
「俺達は数を増やす為に異種族の雌を奪う。だが、それが原因で仲間の半数を失ってちゃ笑い話にもならねぇ! そこで交渉だ。お前が黙って引き下がると言うのなら、雌の半分をお前に渡してやる!」
オークの馬鹿げた提案に、ジンは眉を寄せる。
「半分?」
「おっと!欲を出すんじゃあねぇぞ!俺達は数を増やさなきゃならねぇんだ!お前の所為で更に減っちまったからな!半分は置いて行ってもらうぜ!それが嫌なら、人質は皆殺しだ!半分救うか、全部失うか!選 べ!」
オークの提案にジンは悩む。
すぐ近くに救いを求める子供達がいるのに、それを見捨てて引き下がる?
到底、そんな決断はできない。
しかし、引き下がれば半分の子供達は救う事が出来る。
逆にここで戦えば、全てを失うかも知れない。
半分救うか全部失うか。
こんな二択を迫られるとは思ってもいなかった。
「さあ、どうする?答えろ!」
「イーヒッヒッヒッヒ、何だいこのゴミどもは?」
そんなジンとオークの空気をぶち壊すような奇妙な笑い声が響く。
森の中から現れたのは、如何にもって格好をした魔女と漆黒の全身鎧に身を包んだ黒騎士と言う奇妙な組み合わせの2人だった。




