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バイトの時間

 パピコは働き者だった。

 大学の費用はもちろんのこと、膨大な食費を含む二人分の生活費を確保した上で、デート費用の工面もしなければならず、パピコは家と大学にいるとき以外はバイト先の教会に出没していた。

 午前の結婚式が終わり、更衣室で休憩をとっていると、聖歌隊仲間に魔法の言葉をかけられた。


「パピコ、痩せた?」


 にたぁ、と笑いながらパピコが振り向いて声の主を見ると、一つ上の先輩、ジュリエットが着替えていた。


「聞いてくたさいよ、ジュリ姉さん」 


 パピコはジュリエットの白いモチモチの肌に吸い付いた。


「え? あんた午後の式もでるんじゃないの?」 


 面倒に巻き込まれるまいと、ジュリエットはパピコにウォーミングアップを命じる。


「一人くらいいなくったってバレやしませんよ」


 パピコは悪い顔を作る。サボりも辞さぬ構えだ。


「ばかね、何いってんの」


「私は正気です」


 真顔でいうと、パピコは更衣室で茶を沸かし始めた。


「実は、言いにくいんですが、食生活が不協和音中なんです」


 パピコは一日の食事を和音で表している。パピコに言わせれば、パン、麺類、お米を欠かすことなく毎食摂るのは美しい和音であり、どれか一つでも欠けると不協和音になるらしい。

 このことはジュリエットしかり、パピコの周囲の人間には周知の事実だ。

 そしてパピコにとって不協和音になると言うのは、少し恥ずかしいことのようである。


「そうなんだ」


 早く帰りたいジュリエットは、パピコが淹れてくれたお茶も一気に飲み干した。ジュリエットは午後の式には出ないシフトになっている。


「まぁ、不協和音なのは、食生活だけじゃないんですけどね」


 パピコの聞いて欲しいオーラに耐えきれなくなったジュリエットは、何があったの? と観念して聞いた。


 パピコはパートナーの変わり果てた姿を話し、目一杯うろたえてみせ、それから変わってしまったパートナーに対するありったけの思いをミュージカル調で伝える。


「彼が目標に向かって頑張ってるんだから、あんたも家事をがんばんなさいよ」


 ジュリエットはもっともらしく言う。


「一食に三種類の炭水化物なんて用意できるわけないじゃないですか。それに彼には別で、サラダとササミを作らなきゃならないんですよ? どう思います?」 


「どうって言われても。それを彼はやってきたんでしょう?」


「彼には時間も金もありますから」 


 パピコはびしっと言ってのける。


「じゃあもう、いっそのこと追い出しちゃえば?」


「何を言い出すかと思えば! 私は別に彼を用なしだと言ってるわけじゃないんです。前みたいに美しい時間を過ごしたいだけなんです」


 教会の鐘がなる。ジュリエットが他の聖歌隊仲間に目配せをする。

 彼らは物を飛ばし始めたパピコを数の力で押さえ込み、式場に連れていった。

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