第1章「今宵、始まる。異物語」
スマホからバイブ音と好きなアーティストの音楽の音が部屋の中に響き渡る。
それをうっとおしく感じて、一度スヌーズボタンを押すが、またもう一つの目覚まし時計がジリジリと音を立て、ついに目が覚める。
その時、僕は察した。
「夢オチ!?え?マジで?異世界召喚されたと思ったのに、まさかの夢オチ?」
あまりの衝撃で、朝からやる気がでない。
寝起きの頭で夢のなかのお話を要約するとだ。
僕は7歳で国を守ろうと戦っていた。
うん。これしか覚えてない。
漫画やアニメだと、実は今見た夢が未来を暗示していたり、魔法少女になったり、異世界に召喚されたりするのだけど、今回見た夢だと僕は7歳。
つまり未来の暗示でもなければ魔法少女にもなれないし、異世界に召喚されることもない。
7歳の頃か。確か、僕はヒーローに憧れていたんだっけ。
まあ子供だったし、男だし。
皆もヒーローになりたかった頃はあったよね!
確か7歳位の頃に同じような夢を見たことがある気がする。
脳があの頃を懐かしく感じて、再びあの頃の記憶を呼び覚ましてくれたのか?
「まさか、世界がまだ僕にヒーローになる夢を諦めるなと言っているのではないだろうか?」
言っているうちに馬鹿らしくなったため、僕は明日の予定の準備をする。
「えっと、今日は暇で、そして明日が来來々(くらら)とデートか。ひゃっほー!!」
来來々と言うのはもちろん、僕の幼なじみにして彼女。
こういっちゃなんだが、僕はけっこうモテる。
自信過剰ではない。たんなる事実。
男に使うべき言葉ではないかもしれないが、僕は女子曰く「高嶺の花」というものらしい。
異常なほどに整った凛々しい顔立ち。
どこかの国のハーフらしく、淡い青色の目。
髪はどちらかと言えば長めで、こちらは暗い青色をしている。
よく見なければ黒にしか見えないけれど。
身長は183cm!と言いたいところだが、残念ながら平均身長より若干低めの173cm。
さすがに神様も高身長にはしてくれなかったみたいだ。
「僕って、罪な男だ」
鏡の前で言いながらキメ顔を決め込む。
簡単に髪の毛をセットしているのだが、生憎デートは明日。
今日はやることがない。
学校から課題が出ているけれど気にしない。休みは2日もあるんだ!
「そうだ。今日は自由なんだ!!」
こうして僕は髪の毛をセットし終えると、再び寝床についた。
土曜日は、特に何もすること無く過ぎていった。
本当に何もせず、ほとんど寝ては食べて寝ては食べての繰り返しで深夜24時に本日5度目の就寝。
明日に控える来來々とのデートを楽しみにしつつ、僕は眠りについた。
明日から待ち構える、物語はどこに行き着くのか。
絶望か。希望か。
どちらに転ぶかは分からない。だが、避けることは出来ない。
さあ。ここから。今夜から。
そう。今宵、始まる。異物語を