21話:砂原の上の決戦(後編)
そう呟いてユーが腹部に取り付けたポーチに手を伸ばした。そこから『雷薬』を4つ取り出す。ユーは『雷薬』の一つを左手に運び、残りの3つを右手で握った。
「俺の技は『バーンナックル』だけじゃない。
とっておきを見せてやるよ」
『長』に向かって宣言するユー。そして『雷薬』を両手に持ったまま、ユーが駆けた。
ユーと『長』との距離はおよそ30メートル。
ユーはたったの1歩で、その距離の半分を進んだ。その動きは走るというよりも、宙を飛んでいるのに近い。
一瞬で距離を縮めたユーに対して、すかさず『長』が爆炎を放った。
灼熱の吐息がユーに襲いかかる。
「無駄だ!」
放たれた爆炎に対し、ユーが左手を振りかざす。黄色と赤色の閃光が拳を覆った。
そして『爆雷』を纏った拳が爆炎とぶつかった。
灼熱の吐息と『爆雷』の雷が空中でせめぎ合い、その2つの力が混ざり合う。
空中で巨大な爆発が発生する。ユーと『長』、その両者を包み込むほどの爆風が放たれる。
爆炎が舞い上がり、大量の粉塵が溢れ出す。
灼熱の熱風と目の粗い粉塵に晒されて『長』が顔をしかめた。
『長』はユーの姿を見失った。
それが『長』の運命を決定した。
「よお……」
『長』の左側、丁度首の位置からユーの声がこだまする。
しかし『長』は左目が潰れていた為に、ユーの姿をすぐに視認する事ができなかった。
3つの『雷薬』を握ったユーの右手が輝く。今までのどの一撃よりも強大な閃光がユーの拳を覆っている。
唐突にユーが唐突に拳を開いた。用済みになった『雷薬』が地面に落下する。
そのままユーは右手を指を真っ直ぐにそろえ、手刀の構えに移行した。
そして右手を持ち上げて。
「さらばだ」
そう呟いたユーが膨大な『爆雷』を纏った手を『長』の首に振り下ろした。
ユーの手刀が『長』の首に食い込む。
その瞬間、目を焼くほどの閃光が周囲に放たれた。
『長』の首筋から炎が噴き出した。
――かっ!
『長』が断末魔となる短い悲鳴を上げた。
ユーが右手を振り切った。火花と炎が空中に漂う。
胴体から切り離された『長』の頭部が宙を舞った。
「『バーンエッジ』」
頭部を失った『長』の胴体を『爆雷』が包み込む。そのまま『爆雷』の輝きが増すと、『長』の胴体が激しく燃え上がった。首筋から噴き出す前に体の血は、炎によって蒸発する。
そして『長』の体が地面に崩れ落ちた。
同時に数メートル離れた先で、『長』の頭が地面にぶつかった。
「……」
死骸と化した『長』をユーが無言で見つめる。その表情からユーの思考を読み取る事は出来なかった。感情のない視線であった。
やがてユーが天を仰ぎ、大きなため息をひとつこぼした。
「終わったな……」
ユーが周囲を見渡した。遠くでは羊の化け物、ホロ・オヴィスの群れがいた。化け物たちは『長』が敗れるのを見ると、尻尾を巻いて逃げ出した。
その様子を見届けたユーは振り返って、アリスとマーガレットに視線を向ける。
視線の先ではアリスとマーガレットが、駆け寄ってくるのが見えた。
2人の姿を見たユーは、静かに微笑んだ。
「帰ろう……」




