表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
開拓者ユースミスのクエスト  作者: 住須勝石
20/22

20話:砂原の上の決戦(前編)

始めに攻撃したのは『長』であった。


口に含んだボラッドの球体を、いきなりユーに向かって吐きつけた。


『長』の口から放たれる爆炎。


あらかじめ行動を予測していたユーは、『長』に向かって走りながら数歩の距離だけ体を逸らした。


爆炎がユーの脇を通り過ぎる。


「当たるか、そんなもの」


 そのままユーは『長』の懐へと駆けていく。


当然『長』もそのままユー接近を見逃さなかった。


ユーに向かって『長』が口を大きく開いた。開いた口腔から鋭い牙が見える。


『長』の体が跳ねた。そして一瞬の内にユーの前方に飛び出してきた。そのまま『長』の牙がユーの頭部に襲い掛かった。『長』の姿とユーの姿が重なる。


アリスの目では、その動きが速すぎて捉えられなかった。アリスには『長』が瞬間移動しているように見えた。ユーが食われたとアリスは思った。


「あぶねえ」


しかし、ユーもまた常人には見えない速さで『長』の攻撃から逃れていた。ユーは一歩だけ後退して『長』の牙を躱していた。


鋭い金属片がぶつかり合うような音が周囲に響く。


牙による攻撃を躱された『長』は、口を閉じたまま片方だけの目でじろりとユーを睨みつけた。そして『長』は静止した状態から再び跳ね上がり、ユーに噛みついた。


ユーも再び攻撃を回避する。


だが『長』の今回の攻撃一度だけではなかった。ユーが攻撃を回避するのを見ると『長』はすぐに攻撃を再開した。その攻撃もユーは回避したが、『長』は攻撃の手を止めなかった。執拗にユーに向かって噛みついていた。


『長』の牙による連撃が目まぐるしく繰り広げられる。一二メートルにも及ぶ巨体にも関わらず『長』の動きは小動物のように機敏であった。その上『長』の動きは一向に衰える様子はない。


それでもユーは『長』の攻撃を回避し続けていた。紙一重の動きで身を躱している。


鋭い金属音が何度もこだまする。


「しつけぇ」


 牙による猛攻を避け続けていたユーが、ぼそりと呟いた。


『長』の攻撃が外れ牙から金属音が響いた瞬間、ユーは『長』の首に向かって跳びかかった。そしてユーは羽のような軽やかな動きで空中を一回転する。そのまま空中で『雷薬』を握った手を構えると、拳から黄色と赤色の光を纏った電流が溢れ出す。


「次は俺の番だ」


 そしてユーは『爆雷』を纏った拳を『長』の背中に叩き込んだ。


膨大なエネルギーが『長』の体に襲いかかる。


 ――ごがぁっ!


と『長』は短い悲鳴を上げた。


『爆雷』の閃光が『長』の体を駆け巡る。


『長』はうめき声を上げながら襲いかかる未知のエネルギーに抗っていた。


そして。


――ぐぅ、うがぁっ!


短い叫び声を放ち『長』が『爆雷』を打ち破った。『長』の体は爆発する事なく健在であった。しかし『長』の体にしがみついていたボラッドは、エネルギーに抗えずに破裂した。『長』の体からボラッドの死骸がいくつも零れ落ちる。


「やっぱり1発じゃ足りないか」


 地面に降り立ったユーが『長』の様子を見て呟いた。右手から真っ黒に錆びた『雷薬』が零れ落ちる。

一方の『長』は苦痛にあえぎながらユーを睨みつけていた。『長』の体には、黄色と赤色の混じった電流がわずかに帯電していた。


「なら、もう一発だ」


 間髪入れずにユーが攻撃に出る。


そのままユーは『長』の首筋に向かって跳びかかった。


苦痛に苛まれていたせいか『長』はユーの動きを躱す事ができなかった。


ユーの両腕が『長』の首筋に滑り込む。そしてユーは両腕で『長』の頭部を抱え込んでいた。


「いくぞ」


 そのままユーは『長』を投げ飛ばそうと体全体に力を込めた。『長』の頭部か引っ張られる。


しかしある程度頭部が動いたところで、『長』の体はぴくりとも動かなかった。


 頭部を抱え込むユーに対して『長』は全力で抵抗していた。『長』の顔には血管が隆起している。歯を食いしばりながらユーの力に抗っていた。


「こいつ……!」


 予想以上の力にユーが悪態をついた。


ユーもさらに両腕に力を込める。それでも『長』の力を抑え込めない。


両者の力は拮抗していた。次第に『長』の首の力が、ユーの膂力を押し返していく。


それから間もなく両者の均衡が崩れた。


『長』が力ずくでユーの両腕を振りほどいた。その反動で体勢を崩したユーに対して『長』が自らの頭部を打ち付けた。『長』の頭がユーの脇腹に激突する。


「かはっ!」


 その衝撃でユーの体が吹き飛ばされる。そのまま10メートルほど離れた先で地面に激突した。


「うぐ……」


 仰向けに倒れ込んだユーが呻き声を上げる。


しかし苦痛にあえぐ暇はなかった。


一瞬で距離を詰めた『長』が、自らの脚をユーに向かって振り下ろしていたからである。


「……っ!?」


そして『長』の無慈悲な一撃がユーの頭に向かって叩き込まれた。堅牢な『長』の蹄がユーの頭部を捉え、地面に深く突き刺さった。


砂埃が舞い上がる。


だが、そこにユーの潰れた頭部は存在しなかった。地面が深くえぐり取られただけであった。


姿を消したユーに『長』が狼狽する。


 すると『長』の下、腹部のあたりから砂を踏む音が響き渡った。


「隙あり」


 そこにはユーが潜り込んでいた。ユーはしゃがんだ状態で右手を構えていた。


その拳は『爆雷』によって輝いていた。


「くらえ」


 『長』の腹に向かってユーが再び拳を叩き込んだ。


強大なエネルギーが放たれ『長』の体がわずかに浮いた。


――が、かっ!


再び『長』が悲鳴を上げた。


 先ほどの攻撃よりも『長』の体を駆け巡る閃光の輝きが増した。より多くの『爆雷』の電流が『長』の体を駆け巡る。


それでも『長』の体が爆発する事はなかった。


『爆雷』が体を駆け巡る最中に、『長』が無理やり体の向きを変えた。


ユーに向かって『長』は後脚を構えた。


「なっ!?」


 しゃがんだ状態で攻撃をしていたユーは、素早い『長』の動きに反応が遅れた。


とっさにユーが両腕を構えて身を守った。


強靭な『長』の後脚がユーに襲い掛かる。


そして肉を打つ轟音がユーの体から響き渡った。


「ぐう……!」


 両腕を構えた状態でユーが吹き飛んだ。ユーの体が宙を舞い、そのまま20メートル以上も押し出される。


『長』の攻撃を防いでいたおかげで、ユーは体勢を崩す事なく着地した。


それでもユーは攻撃の勢いを無効化できずに、着地した後も10メートル以上も体が滑り込んだ。乾いた大地に二本の長い靴跡が刻まれる。


やがて前のめりになった状態で、ユーが静止した。


ユーが大きく息を吐いた。『長』の後脚を防いだ両腕が震えている。


「今のは効いたぞ……」


 ユーが短く呟いた。そのまま『長』の方向に視線を向ける。同時にユーの手から使用済みの『雷薬』が零れ落ちる。


攻撃を放った『長』は、ユーを仕留められない事に苛立っている様子であった。『長』の喉から低い唸り声が断続的に響き渡っている。


すると『長』は自身の頭部を下に向けて振り払った。そして『長』の額に張り付いていた1匹のボラッドが地面に投げ出された。


「まだいたのか、ネズミ共」


 地面に激突したボラッドが甲高い悲鳴を上げている。


『長』はその悲鳴を無視して口を開く。


そのままボラッドの下半身ごと尻尾をむしり取った。


「おいおい……」


 呆れた声で呟くユー。


『長』は食いちぎったボラッドの下半身を咀嚼しながら、尻尾の先端を口に含んだ。


再び爆炎を放とうとしていた。


「またそれか。芸のない奴だな。不意打ちでなければ躱すのは簡単なのに。


 ……もういい。それは見飽きた。


 『長』よ。そろそろ決着を付けようか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ