17話:爆炎と雷のエネルギー
文字通りに化け物は爆発した。化け物は風船のように体の中心部から膨れ上がり、放たれる閃光と共に破裂した。粉々になった臓物とちぎれ飛んだ手足、そして爆発によってもぎ取られた頭部が落下する。化け物からまき散らされた大量の血液は乾いた大地に吸い込まれていった。
化け物の死骸が地面に散乱する。それらの肉片は一部が焼け焦げ黒い煙を上げていた。化け物の体に潜り込んでいたボラッドも、爆発に巻き込まれ肉片と化している。
「これが俺の『アニマ能力』だ」
無残な死骸と化した化け物を見てユーが言った。
「燃え上がる炎と駆け巡る電流、その二つの性質が合わさった未知のエネルギーを生み出すのが俺の能力だ。俺はこれを『爆雷』と呼んでいる。
俺だけが生み出せるエネルギーだ」
爆発しなかった他の化け物たちがユーを凝視している。しかし化け物たちはユーと距離を置いていた。先ほどユーに向かっていた頃とは異なり、どの化け物も唸り声を上げていなかった。
化け物たちの目には困惑と恐怖が入り混じっていた。
「苦労したんだぞ。このエネルギーを生み出すのは。
まず第一に想像を絶するような発想力と空想力が求められた。常識を超えるエネルギーは簡単には思いつかないからな」
動揺する化け物たちに向かって、ゆっくりとユーが歩き始める。
「仮にそれができたとしても、今度は気の遠くなるほどの時間を、想像の訓練に費やす必要があった。ずっとそればっかりイメージし続けたよ。気が狂うかと思った。
この能力を修得するのに軽く2年、そして能力を使いこなすのにさらに3年かかった」
接近するユーに対して化け物たちはゆっくりと後ずさりする。
誰もユーに向かっていく化け物はいなかった。
「強えだろ、俺の能力は?
まあ、それでもエネルギーを生み出すのには俺特性の専用弾薬、俺は『雷薬』って呼んでいるんだが、とにかくそれが必要だがな」
そう言ってユーは右拳を開いた。
そこには先ほど握っていた弾薬があった。しかしその弾薬は先ほどまでは違い、真っ黒にさび付いていた。
「ちなみにさっき化け物を挽肉にした技は『バーンナックル』って言うんだ。
分かりやすくていい名前だろ? 他ににもいろんな技を開発しているぜ」
ユーの掌から真っ黒に変色した弾薬、『雷薬』が零れ落ちる。
「さてと」
改めてユーが化け物たちに向き直る。
「俺の力は見せた」
ユーが静かに微笑む。
化け物たちがユーの表情に狼狽した。
「さあ、お前たちよ」
ユーが一歩踏み出す。
化け物たちが1歩後退した。
「それでも」
唐突にユーが瞳から感情の色が消えた。無機質な視線が化け物たちを射抜く。
反対にユーの口元は笑っていた。常人よりも発達した犬歯が口からのぞかせている。
「俺と……やるか?」
うすら笑いを浮かべるユーに対して、化け物たちの体が小刻みに震え始めた。
化け物たちは完全に怯えていた。
ちっぽけな存在であるはずのユー。しかし化け物たちにはユーの体から放たれる圧力を感じ取っていた。
化け物たちの目には、強大な力をもった化け物の姿が映っていた。
化け物たちは、ユーに対面したままゆっくりと後ずさりを始めた。
完全に戦意を喪失している様子であった。
そしてユーから距離を離した化け物の1頭が、小走りで駆けていく。そのまま順番に化け物たちが尻尾を巻いて逃げ去っていく。
「はぁ……」
逃げ始める化け物の姿を見てユーが大きなため息を吐いた。
「ようやく行ったか」
そのままユーは離れていく化け物たちに背を向けて、アリスたちのいる方向を見た。
「これで一安心だな」
視線の先では、アリスとマーガレットが四輪駆動車に乗っているのが見える。アリスは安堵した表情でユーに向かって手を振っている。マーガレットも小さな笑みを浮かべながらアリスにしがみついていた。
「二人も大丈夫だな」
二人の無事な姿にユーも安堵する。
「これで『クエスト』も達成できる」
『クエスト』の達成を確信したユーは、そのまま二人に向かって歩き始めた。
「まったく一時はどうなる事かと思ったぞ。いくら開拓中とはいえ『ミアズマ』が来ているなんてよ。俺も最近、調査をしていなかったから知らなかったが、どうなってるんだ?」
ユーが何かを思い出したようい呟く。そしてわずかに不機嫌な表情になる。
「ったく『協会』の連中め。あれほどフィールドワークをしっかりやっとけって言ったのに。俺じゃなかったらとんでもない事になっていたぞ。パーソンみたいな蛆虫共も増えているし。
……後でふんだくってやる」
『協会』と呼ばれた存在に対して恨み言を呟きながら、のんびりと歩くユー。
「まあ、いいか。今はとにかく町に行こう。あの2人を送り届けたらブタトカゲのフライを食いまくってやる。腹も減ってきたし」
そう言って再びユーが四輪駆動車へと視線を向ける。
そこには依然として変わらない2人の姿が存在していた。
――しかし2人の表情は何故か青ざめていた。
「あ?」
疑問の声を上げるユー。
ユーに向かって手を振っていたアリスは、そのままの姿勢で硬直していた。
「どうした、アリス?」
ユーがアリスの目を見た。
その視線はユーには向けられていなかった。アリスはユーの後方を見たまま硬直している。マーガレットも同じようにユーの後ろを見ていた。
「後ろに何かあるのか?」
2人の視線の方向に気が付いたユー。
そのままユーが後ろに振り返った瞬間。
――ユーの視界が白く染まった。




