第四話:踏み出した一歩
ここ北の都は冒険者たちにとって中ぐらいの狩場としてあまり人気はない場所だ。気候としても寒い時期の方が多くて暮らしも狩りもし辛いのに魔物たちは寒さに適応した連中ばかりで寒さも中素早く動く奴やら雪に擬態するやつやらで非常に効率が悪い。
それならば、と中央の王都周辺の魔物たちが多少強くても運がよければそこそこやっていけるし、物資も気候も安定している方を選ぶものが大多数だ。
その大多数に含まれない連中の残っている理由はお尋ね者で、人が多い都を嫌うものや寒いのが好きな奴やこの地域でしか食べられない北大雪蟹鍋の為であったり、地酒が美味しいからであったり……大それた理由のやつなんてそんなにいない。
まあ、人口自体もそれほど多くはなくわりかし平和であると言えるのだが……住民にはなぜか変なやつが多いし、狩場としても異色であるのがここ北の都だ。
「さすが下界の気候は肌に堪えるな! これがさ、寒さか!」
今自分たちがいるのは北の都から出てすぐの雪原。今日は天気がいいので見通しもよく、雪もちらちらと小ぶりだ。
「アテナ様、そんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ! 問題ない! これは女神だけが着ることができる凄いドレス。耐寒耐熱耐刃と高性能なものなのだ!」
そういう割にはがちがちと歯を打ち鳴らし、肩をがくがくと震えさせている。きっと高性能なドレスに違いないだろうが、肌の露出面積が多すぎて意味をなしていないのだろう。
「えー、この周辺ですとこのまま進んだ先に森があるのでそこらに冬眠明けの魔物なんかがいると思いますが」
もうすぐ春になろうというこの季節は自然と魔物の数は増え、冒険者たちに討伐依頼がわんさか舞い込んでくる。本来ならそういった依頼をこなして日当を稼ぐのだが、神アテナにそんな発想はないのだろう。ただ目の前にいる魔物を倒すことが目的らしい。
「そ、そうか、よし、行こう。なに、貴様は、何も気にせず、わ、私についてくればいい。全て蹴散らしてやろう!」
顔面蒼白で言われても全く頼もしくないお言葉だが、アテナが言うのだから間違いはないだろう。半信半疑なんて恐れ多いとうなずいて見せれば、アテナは威勢よく一歩を踏み出す。
踏み出して、止まる。
「……神アテナ?」
「…………」
問いかけに応答はない。先程までの元気さは全くなく、一歩踏み出したままの姿で動かない。
新手の神のイラズラかとも思ったが前に回って見る。
すると、
「……死んでる」
安らかな顔で凍死している神がそこにはいた。