第3話:兆し
「おい、どうしたロネ・コディウス。我が、戦女神アテナが降臨したのだぞ? この場所は……我が降臨する場所としては随分と粗末であるがまあ些末なことだ」
これは何かの夢なのだろうか。髪は金に輝き、瞳は赤く力強く見つめるものを射殺さんばかり。王都で見た本物のアテナ像のような兜や盾武器などは持っていないシンプルな白いロングドレスのみだがその見た目はまさに神アテナそのものだった。
こんなことが現実であるはずがない。新手の手品だ。どこかに手品師がいて、種も仕掛けもあるに違いない。そうでもないと今すぐにでもこの場から逃げ出したい衝動を抑えきれない。
彼女がもしも、本人の言うとおり神で本当に降臨したというのならそれは喜ばしいことだ。町をあげてひゃっほいして、この教会は降臨の地としてそれはもう観光地になって頭のない女神像を見る為に人が押し寄せるだろう。入場料をとるだけで一生生活できるだろう。
なんたって過去に神が降臨したなんて話は数百年遡る過去にしか数例しかない。その度に様々な奇跡を起こし人類の未来を明るくしてきた。中には人と子をなして半神なんていう勇者一族まで生まれたこともあった。
神の降臨は人類にとっていいこと尽くしのはずなのに、嫌な予感しかしないのは彼女が神アテナを名乗るからだろう。
なんたって、信者からでさえぶっ飛んでる神様として尊敬からでも畏怖からでもなく関わるとろくなことがないという理由で遠ざけるのが一番とされている神様だ。
一度眷属にでも指定された日にはその後一生……いや死んでも苦労するに決まっている。
ここはアテナ教のマニュアルにある通りもしも神アテナが降臨した日には色々と理由をつけて素早くお帰りいただこう。どうせ、大した理由などないはずだ。神はきまぐれなのだ。ちょっとした思いつきに違いない。
「えー、神アテナようこそ、下界へ。お会いできて光栄です」
「なにそうかしこまらなくてもよい」
「そう言われましても、御身は神であるゆえ、我々人間をどうしてもかしこまってしまいます」
「そういうものか。まあ好きにするがいい。これから我は目的を達成するまでは下界での生活を始めるからな、お前にも色々と世話になると思う」
あ、これ駄目だやつだ。巻き込まれて死んでも苦労するパターンのやつだ。
「神アテナは……今回どういった使命を持って降臨なされたのですか? あ、別に無理に答えてくださらなくても結構ですよ? 自分なんか聞いても何もできないでしょうし、むしろ、もうこの場から退場しますので……」
「いや待て。貴様がいてくれないと困る」
そう言って顔をしかめる神アテナはがしがしと頭をかく。そんな仕草すら彼女がするだけでどきりとする。
「今回降臨したのは魔王討伐が目的だ。それを成し遂げるまでは戻る予定はないのだが……魔王に関する最新情報などが分からない。貴様は冒険者だろう? 冒険者というのは魔王を討伐を最終目標としてる勇者もどきみたいなものだろう?」
勇者もどき……その言葉はあんまりと言えばあんまりの言いようだが実際間違いではない。
魔王そのものを倒すだけの実力はなくとも魔王の尖兵たち魔物と戦い町を守って日当を得ている冒険者たちは一応は魔王討伐を目標に掲げている。中には勇者に憧れて冒険者になるものもいる。
「しかし、魔王討伐って……神自ら?」
「おかしいと思うか? しかし貴様ら人間がいつまでたっても成し得ないことだ。人の身には過ぎた課題であるのだろう。だからこその我だ!」
とん、と地面に降り立ち、己を指す神アテナ。
「大いに喜ぶがいい! この神アテナとともに魔王討伐の栄誉を得ることができることを! さあ、手始めに近辺の魔物どもを蹴散らしてくれよう。我に続け!」
自信満々。己の力に疑いも迷いもない神アテナはてくてくと外へ向かう。
そりゃ彼女なら近辺の魔物と言わず、近くにいる魔王の幹部の城だって落とせるだろう。自分なんて後ろいるだけで何もする必要もないに違いない。
あれ、これもしかして勝ち組きたんじゃね?