一話:導入
人類種の宿敵、魔王の打倒。それは人々の希望であり、また子を愛する神々の願いでもある。その為に時に奇跡を起こし、時に祝福を与え。そうやって神々は子に愛され愛し敬われてきた。
……一人の空気の読めない女神を除いては。
神嫌いの彼女は神々の奇跡を怠慢と呼び、祝福を甘やかしと蔑む。そして本人は試練と称して無理難題を人に言いつける。
やれヒドラを討伐しろだの魔王の使いを捕らえろだの恐ろしいドラゴンを倒せだのと人を相手に無理を言う。そんな彼女の口癖は「私ならできるのに」
そらあんたは戦を司る神なわけで、争いごとは得意分野だろうしなにより神様だ。人とはそもそもスペックが違えば持っている装備だって全てが神器。その力を使えばそりゃ全てが可能だろう、と思っても言えない人々。神々にしてもこの脳筋女神に言葉で諭すのは無理であることは幾星霜の付き合いゆえに熟知している。
触らぬ神にたたりなしとはよく言ったもの。いつからか彼女のもたらす試練は人々からは恐れ多いと敬遠され、あの神様には関わっちゃいけませんと子供から大人まで口を揃える始末。
そんな話を他の神がそれとなーくオブラートに包みに包んで説明された当の女神の怒ること怒ること。なぜ人間なんぞにそんな扱いを受けねばならんのかと下等な存在ならば神である私の言葉にはYESかはいで答え、例え、その言葉が無理難題で命を落とすことになろうともむしろそれは名誉なことであると来世に期待を込めて死んでいくのが信仰心というものだろう、と。
彼女の怒りはそれだけにとどまらず、依然として健在の魔王派閥の問題にまで言及し人間では使えないから自ら討伐してやると主神のもとにまで赴くほどだった。
神が自ら人の敵を倒すために現界するなど前代未聞の話を主神がお許しになるはずもなく、また堪え性のない脳筋女神の駄話が増えるはずだったのだが……主神まさかの条件つきOK。
その条件内容として女神の身一つでの現界。能力の一部制限などと神を神足らしめる部分を大いに規制するという……まあ言ってしまえば女神自ら辞退させようという主神の嫌がらせだ。
ことあるごとに文句ばかりいうこの女神から無理と言わせてやろう、と思っての主神からの言葉。
こんな条件、普通は飲むはずもない。ただの嫌がらせ。いかにこの女神が脳筋だの駄女神だの人からも神からも言われていようが自らに厳しい条件をかしてまで現界するというなんの得のない選択などするはずないという主神の常識的読みはあっさりと外れる。
この駄女神、その条件をあっさりと受諾。それはもう嬉しげに。迷う理由などないが如く。むしろ願ってもないと言いたげに。
……後に、このやりとりが世界を救うための英断として語り継がれるのだがそれはまた別の話。