ノスタルギア
「その剣に私の魂を食べさせて……。そうすれば、どんな敵だって一発で倒せちゃうんだから」
「何笑って、そんなこと言えるんだよ!! それなら、僕の魂を食べさせればいいじゃないか……」
「ワガママ言わないでよ、キノちゃん……」
死にかけの体の少女は笑う。体も心も既にズタズタなはずなのに。
そして、少年は叫ぶ。
少年は心臓に向かって魂武を穿ち、少女は詠唱を開始した。
「汝、我が心臓を穿ち者ーー我の魂を具現化せしめんとして我の血を欲するのならば、我の問いに答えたまえ」
少年は問いに対し、答えを出すーーーー。
その後、笑顔を見せた少女の魂は淡い光となり、魂武の中心にある球体は黒い閃光となって、少年の身を包み込んだ。
燃え盛る故郷を背に、少年は刃を振りかざす。
その一刀を以って、世界を変えるために。
キョウワ帝国ーー中心部
街の賑わいも終わり、夜は遊楽外へと姿を変えていく。
圧政によって民が虐げられているのをつゆ知らず。
民の金で浴びるほどの酒を飲み、女をはべらせて豪遊の限りを尽くす。
その中でも一際多くの女をはべらせている男の側には巨大な斧があり、中央部には光り輝く宝石のような球体が埋め込まれている。
そして、幾重にも傷付いた体には致命傷な部分もあるのにも関わらず、男は今も健在である。
豪快に笑う男は自信に満ちているのか、はたまた肌を過度に露出して美女達に浮かれているのか隙だらけである。
だからと言うべきなのかーー男の首からは血が噴射し、短刀を持つ少女の姿を形取ることとなる。
勝利を確信した少女は不敵な笑みを浮かべる。
だが、斬られた部分は時間を巻き戻すように修復され、意識を取り戻した男は盛大に高らかに笑い飛ばす。
「がっはははっ! ワシの部下にならんか? 仕事熱心な部下がいないのでな」
「誰がなるものか」
「帝国に反発する者か。ますますワシ部下にしたいものだな。屈服する女の叫び声程、愉悦なものはないからな」
「この外道が」
豪快に笑う男に対し、少女は唾を吐きつける。
「帝国軍人ーーそれも大尉であるワシに唾を吐きつけるという言うことはどういう事か分かっているんだろうな?」
男は一瞬の内に、少女の身長程の斧を振りかざしていた。
少女は交わすこともできず、斧の選択が額目掛けて近づいてくる。
「ほほぅ。貴様もまたワシを殺そうと決起した一人であるか」
巨大な斧を刃渡は細く繊細な光を放つそれは衝撃をいなし、少女の命を救っていた。
「クロノ、何してるの?! 君は無理しないで逃げてくれ。後は僕がなんとかするから」
「ごめん、キノ……。私キノのために……」
「いいから、早く!!」
少女は頷くと同時に姿を消し、少年を置いて逃げて行く。
「ワシは二対一でも構わないが?」
「お前なんか、僕一人で十分だよ。悔しいなら何か言ってみろよ」
先程までの余裕は消え、男は憤怒した表情となりーーーー。
「ワシを怒らせた者で生きていた奴は、今まで一人もいないのだがな」
男の周りにはオーラのような者を全身に纏い、筋肉は何度も萎縮を繰り返して、地面を
蹴って高く跳躍する。
男の渾身の一撃は目前に近づいて来る。
だが、少年はか細い剣に黒い光を纏わせて刃と刃を重ね合わせている。
「ほほぅ。ワシの一撃を凌ぐとはやるじゃないか」
「もう終わってますよ」
男は体の異変に気付くこともなく、魂を喰われた抜け殻になって力なく倒れていた。
少年はそれに動じることもなく、その場を後にする。