「九話目」青山ターン❀
「ここが、あたし達の教室! 」
慣れ親しんだ教室の引き戸を開けて、あたしは言う。カイは教室に入ると、物珍しそうに周囲を眺めた。
「わあ。アニメで見た通り。日本の教室だ」
「アメリカとは何か違うの? 」
そう聞いてみると、カイは「そうだね……」と言って、もう一度教室を眺める。
「まず、教壇はないなあ。それに、こんな風に椅子と机が別々じゃないよ。机と椅子がくっ付いてるんだ」
「え、そうなの? なんか座りにくいんじゃない?」
思ったことを素直に言うと、カイが楽しそうに笑った。
「慣れてないと、そう思うかもね。僕は別に座りにくいと思ったことはないんだけど」
カイはそのまま教室をうろうろ歩きながら、「あと、アメリカはこんなに教室は広くないよ。ひとクラス20人くらいだからね」と言った。
「いっつべりーすもーる」
「I feel Japanese classroom is very spacious.」
あたしの片言の英語に、カイの超ネイティブEnglishが返ってくる。というかなんて綺麗な英語なんだ! アメリカで生活してたから当然かもだけど!
「そうそう、日本には“職員室”ってあるみたいだけど、アメリカには職員室っていうのは存在しないんだ。各教室に、先生の机があるよ」
んな、こんなに違うものなのか外国は! あたしはカルチャーショックを受けていた。 職員室がないなんて、目当ての先生探す時はどうするんだろう……。
「他にも色々違いはあるけれど、こんなところかな」
カイは笑ってそう言うと、「もうすぐ日が暮れちゃうから帰ろ」と言って、あたしの手を迷わず掴んで歩きだした。
だからっ! 小さい頃じゃないんだからやめてってばっ! は……恥ずかしい。……誰かに見られたら……
と思っていると、教室の外に人影発見!
あたしは慌ててカイの手を振り解いて、教室の外に飛び出した。
けど。
「あれ……? 」
教室の外には誰もいなかった。廊下を素早く確認したけど、歩いている生徒も先生もいない。
あたしの背筋がぞわぞわっと粟立つ。まさか、学校の七不思議、『日曜日のメーテルさん』では……?
カイが私の後ろまでやって来て、「いきなり何だよー」と不満そうにつぶやく。
ごめん、今それどころじゃないかも。
「カイ! 早く帰ろう!! 」
「うん、わかって……わっ!」
あたしはカイの手を引っ掴むと、一目散に玄関を目指して走った。廊下の窓から見えてる綺麗な夕焼けも見ず、とにかく脇目も振らずにひた走る。
――カイの手を離さないように、しっかりと握ったまま。