「八話目」めんふくろうターン@
アサシンもびっくりな忍者走りで、あたしは草むらの中を疾走した。
ここは体育館の裏手に面している場所で、狭すぎるために手入れもされていない。
フェンスと体育館の壁に挟まれた細道をお構いなしに突き進んでいると、後ろにいるカイが「ま、待って~」と、死にそうな声をあげてた。だが、待たない!
生徒が帰った後も、先生はまだ仕事をしているはず。うっかり見つかったら大変だ。生徒に見つかったくらいなら、なんとか口止めできるんだけどね!
体育館の裏手から抜けると、渡り廊下が見えた。あそこから校内に入ろう。
周囲を注意深く確かめると、あたしはカイに「あの廊下から入るよ」と説明し、二人揃って走り出した。
校舎の入り口に来るとささっと靴を脱いで侵入。失礼しまーす!
「あれぇ? そこにいるのは、もしかして四葉さんですか〜?」
間延びした声を聞いた瞬間、あたしは凍りついた。そーっと振り向けば、きょとんと目を丸くした女性がファイルや冊子を抱えてあたしたちを眺めていた。
まさかの担任教師、ゆるふわ先生と呼ばれる藤咲優先生だ!
あ、終わった! もうダメだ!
そう思った時、カイが前に出てきた。あたしに背中を向けると、丁寧に頭を下げる。
「はじめまして。明後日からお世話になります、交換留学生のカイ・エドワーズです」
「あら、はじめまして。今日はどうしたんですか?」
「校内見学をしてみたくて」
おお、ナイスな言い訳!
と思ったら藤咲先生が首を傾げる。
「じゃあ、どうして四葉さんまで一緒にいるのかしら? 私服だし、土や葉っぱがあちこちについているわよ?」
はっと我に返って身だしなみをチェック!
せっかくの服がひどいことになっていた!
「こ、これは派手に転んだせいでしてっ!」
あたしが慌てて汚れを払っていると、カイがフォローしてくれる。
「僕がお願いしたんです。ホームステイ先に住んでいて、同じ学校に通うことになる彼女なら、詳しく分かりやすく教えてくれると思って」
勝手に入ってごめんなさい、と丁寧に結ぶと、カイが深く頭を下げた。その誠実さが伝わったのか、藤咲先生がうんうんと頷いて笑った。
「わかったわ。今回は許してあげます。だからまず、職員用の昇降口にいらっしゃい。スリッパがあるから、それに履き替えるといいわ。許可は私がとっておくから、気にせず自由に見学してね」
「ありがとうございます」
カイがほっと息を吐き出して振り向いた。そんなカイを、あたしは複雑な気持ちで見上げる。
なんだか、別人になったみたい。
モヤっとした気持ちを抱えながら、あたしはカイと一緒に昇降口に向かった。