「六話目」青山ターン❀
ラーメンをたらふく食べた後、あたしは案内を兼ねて、カイと一緒に町を散策した。食後の運動にもなるし、いいよね!
あたしの住んでいる町は、田舎という程でもないが都会という程でもない、なんというか微妙な町だ。駅前はとても賑やかでビルもいくつか建っているけれど、日本の中心都市みたいに高層ビル群があるわけじゃない。駅からちょっと離れれば年中シャッターが閉まっているような廃れたアーケード街もある。三好おじちゃんのラーメン屋もそんなアーケード街の一画にあるけど、その周りはまだちゃんと経営できているみたい。
悲しき経済の流れってやつだね! 三好おじちゃん、頑張れ!
おっと、脱線しかけた。戻れ戻れ。
アーケード街には学生御用達の文房具屋とか、古本屋もある。ちょっとした服屋さんもあるし、ラーメン屋だけじゃなくて蕎麦屋さんや、ちょっと昭和的でオシャレな喫茶店もある。とにかくなんでもあるから長居しちゃうんだよね。余談だけど、ここの喫茶店のワッフルは神です! 超美味しいっ! 今度カイと行こっかなー。
「――てなわけです。町の説明は大体こんな感じかな」
ぐるっと町を歩いて駅前の広場に戻ってくると、あたしは案内を締めた。カイがふむふむと頷く。
「ありがとう。……それにしても、僕が覚えていた景色とかなり違うような気がするなぁ」
「あー、うん。そうかも。昔の方が賑やかだったかもね。 ほら、ここ地方だから、人離れが多くて。人口は減少の一歩を辿るばかりです! 」
どっかのニュースで聞いた言葉を、そのまま使ってみた。知的なあたし、クールビューティー!
「それを言うなら“減少の一途”じゃないかな? 」
——と、内心自画自賛していたら、カイに突っ込まれた。え、何その一文字の違い。というか日本に留学してきてる人に日本語の間違い指摘されるとか……なんたる屈辱っ!
あたしはぷすーっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「いいですよーだ。どうせあたしは頭が弱いもん」
「え、そんな事ないと思うけど……言葉を間違っちゃうことなんて誰でもよくあることだよ。マコトはしっかり案内してくれた。きちんと説明までしてくれた。それってすごいこと。自信を持って」
カイの言葉にあたしはびっくりして、熱くなってきた顔を手で扇いだ。
まったく、カイは本当に優しいんだから。私、調子に乗っちゃうぞ!
なんだか恥ずかしくなってきたから、あたしは無理やり話を変えた。
「でも、カイって10年以上もアメリカにいたとは思えないくらいに日本語上手だよね」
ちょっとじと目でそう言ってみると、カイは「あー」と言って笑った。
「父さんがいない間は、母さんと日本語で話してたから。日本語の本とか、歌とか、あとアニメやドラマなんかも好きだったなぁ」
「へえー」
って、アメリカに日本語の本ってあるんだ。音楽、アニメ、ドラマとかならネットとかレンタルショップで入手できるだろうけど。
日本にも英語で書かれた本とかあるし、それと同じようなものなのかな。まあいいや!
「さてと。もう町を見て回ったし、そろそろ帰る? 」
あたしが切り出すと、カイが「あ」と何かを思い出した様子。
「マコト。僕、学校も行ってみたい」
「あ、そうだね! 肝心な所を回るの忘れてた! 」
あたしってホント抜けてる。学校を周るの忘れるなんて!
「今日、マコトは昼前に帰ってきたけど、始業式だったの? 」
「うん。明日は入学式だから、準備で大変だったのよー」
おばちゃん風に言うと、カイが笑った。
今日は見ず知らずの新入生のために入学式の準備をしていたのだ! 一年の坊主ども、あたしを崇めたまえ!
「でも入学式には二、三年は出れないから、明日は実質お昼前で学校終わりだよ」
「へえ、そうなんだ。……春に入学式、始業式……なんかカルチャーショック受けるなあ」
「え、何で? 」
「アメリカでは秋に始業式があるからね」
えええっ!? そうなの!? ――というかこれ一般常識ですとかじゃないよね? だよね?
「日本ではアメリカが秋に入学式があることとかはあまり知られてないのかな? 」
カイはそんなことを呟いている。いや、あたしだけが知らなかったのかも……いやいや違う。あたしはそんなに頭が弱いわけじゃない!
「……あとでおばさんに聞いてみよう」
や、やめて。あたしのお母さんに聞くのだけはやめて。もしお母さんがそのこと知ってたら、あたし、また可哀想な子的な目で見られることになる!
「マコト、学校あれ? 」
そんな他愛もない話をしている内に学校へ到着。市立藍蘭高等学校と書かれたプレートが鈍く光っていた。