「三話目」ゆとなみターン☆彡
「よし、これでいっか」
素早く短パン、七分袖のシャツに着替えて、カイが待っている玄関に走る。カイは玄関の上がり框に腰掛けていた。あたしが座ると足の裏がちょうど着くくらいの高さなんだけど、カイは長い足を自慢するように、のびのびと伸ばしていた。うう、自慢か!
憎らしく思いつつ、すっかり大きくなった背中に「お待たせ」と声をかける。するとカイが楽しそうな顔をしてぱっと振り向いた。「全然待っていないよ」と返すカイはモテそうな雰囲気を醸し出しているし、うちの学校なんかきたら黄色い歓声でもあがるんじゃないだろうか。
お気に入りのスニーカーを履き終えると、カイが元気良く立ち上がってあたしの手首を軽く掴んだ。
「じゃあ行こうか」
「え……?」
「僕、あの頃遊んだ公園に行きたいなあ!」
春に咲き乱れる花のような笑顔があたしに向けられた、と思ったらいきなりカイが走りだし、バンッと玄関ドアの開けられた。手首を掴まれているあたしは、半ばこけそうになりながら、カイの走りについていく。
「ちょ、ちょっとカイ!」
戸惑うあたしを無視して、カイは楽しそうに公園へと連れて行く坂を駆け上る。そんなカイに呆れつつ、「まるで昔に戻ったみたいだ」と笑う。でも、その時とは役柄は交代。あたしがカイを引っ張っていたのに、今はいつのまにか大きくてごつごつになった手があたしの手を掴んでいるのだ。
公園に入るとカイが立ち止まったので、あたしは肩で息をしながら「もう、いきなり走らないでよ」と少し笑いながら怒った。するとカイが慌てて「ごめん」と言って手を放す。あんなに強引に引っ張ってきたわりに焦ったその様子が面白くて、整わない呼吸でありながらも「ふふっ」と笑みを零した。
息が整ってきたところで、あたしは地面に向けていた目を久しぶりにやってきた公園に向ける。すべり台に砂場、鉄棒など懐かしいものばかりが迎えてくれる。でも、がらんとしていて人のいない公園は、遊んでくれる人がいなくてなんだか寂しそう。
するとカイが何か思い出したように駆けて「こっちにきて」と朗らかな笑みを浮かべた。
……しばらく見ないうちに、なんだかあざとくなって。
呆れと羨望の入り混じった複雑すぎる感情を胸に秘めつつ追いかけると、カイが滑り台の下にかがみ込む。そうして滑り台の裏側を指差した。
「ここ見て」
「ん? ……ああ、懐かしいね」
一緒に滑り台の下でカイと微笑みあった。そこには少し汚い字で「ひーろーとうじょう! まこととかい」と書かれている。
「ヒーローごっこ、よくやってたなぁ」
「どっちもヒーローだったよね。悪役なしでひたすら必殺技の練習してたっけ」
カイの言葉にあたしは思わず噴き出す。当時活躍していたヒーローに憧れて、二人はとにかく必殺技を練習していた。どれだけヒーローっぽくなれるかで競っていたのだ。今考えるとアホだなぁと思う。
でも、いい思い出だ。今でも覚えてる。
そっとカイを見れば、カイもあたしを見た。色白で、彫りが深くて、なんだか男っぽくなったカイの顔。互いの顔があまりにも近くて、驚いてそのまま尻餅をついてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「うん、ごめん」
カイの手を借りて立ち上がると、タイミングが良いのか悪いのか、お腹がぐううと鳴った。滑り台の下から出てくると、あたしは少し顔を熱くしながら、お尻についてしまった砂を払って言った。
「商店街に行って、ラーメンでも食べない? お腹空いちゃった」
「賛成!」