「二話目」青山ターン❀
記憶の奥底にいた彼、カイが、今まさに十年の時を経て、あたしの目の前に現れた瞬間だった。昔と変わらない優しい瞳と、温かい声。あたしは懐かしく思いながらカイを見る。カイは照れたように頬を掻いて言った。
「でも、ビックリした。真琴は男の子だって、ずっと思ってたから」
「へ?」
「いや、だってあの時は髪が短かったし、男の子に負けないくらい強かったから」
「う、うるさい!」
ああ、何故そこで思い出させてくれるんだ、あたしの黒歴史を。確かに、幼稚園の頃のあたしは、男の子を平気で蹴り飛ばすようなやんちゃすぎる女の子だったけどね? 教室で鬼ごっこしていて窓ガラスに突っ込んでいったのは、いい思い出だ。うん、今すぐ忘れてしまいたい。
「あんたは結構でっかくなったじゃん。あたしよりもチビだったのに」
「うるさいなあ」
「……それに、ちょっとカッコよくなった? 」
「ええっ!? 何言ってるんだよ!? そんなわけないよ、僕なんて……」
自信なさげなところは相変わらずのご様子。ふふん、とあたしは勝ち誇るように笑った。カイは、チビで泣き虫で自信もなくて何でも怖がるような男の子だったのだ。それでいて見た目は天使のように愛らしく、男の子にからかわれていたところをあたしが颯爽と助け出していたっけ。
あたしとカイの母親はそんな様子を見て、いつも「普通は逆よねえ……」とため息をついていたっけなあ。
……あれ、目から汗が。何よ、泣いてなんかいないわよ。今ではちゃんと女子力あるんだからね! ほら、炒り卵作るとか!
「真琴、昔の話で盛り上がってるのは良いんだけど、カイ君は今までアメリカにいたんだから町とか案内してあげたら? この町に住んでたっていっても、幼稚園の頃の話だから忘れちゃってると思うし……」
「そうですね……もう、殆ど覚えてません」
苦笑するカイに私は笑顔で「任せて!」と言った。
「あたしの地元だし。いっぱい教えてあげる!」
「ありがとう」
「そうとなれば出発だ!」
と、立ち上がって玄関に走りかけたあたしを母さんが「こら!」と叱る。
「着替えてから行きなさい!」
「は、はーい!」
そういえばまだ制服だったね。
慌てて自室に駆け戻るあたしの背中から、カイの楽しそうな笑い声が聞こえたのだった。