入学式、ペットボトル、美少女
こんにちは
なんの変哲も無い空から、巨大なペットボトルロケットが落ちてくるのが見えた。俺はそれを肉眼でとらえる距離で見つけた頃には、既に諦めようか悩んだが、体が勝手に逃げるために駆け足になったため、その勢いに負けて駆け出した。
間に合わない!そう思った。地面にペットボトルが削れ、焦げた匂い。これはきっとダイオキシンの様なものが現在進行形で発生しているのだろう。焦げた匂いがするのだろうが、そんな嗅覚などの神経もすべて、このだらしない脚力に向けていたのだから、当然気付くワケも無かった。
そして、そのペットボトルは、口の先端が俺の背中を突こうとするように迫ってくる。要するに俺は逃げる方向を、完全に飛んでくる方向から180度の向きで逃げていたようだ。なんてバカなんだろう、そうしてついに初めて着たばかりの学ランを突き刺すように、そのペットボトルのキャップは俺の背中に触れた。
そして、止まった。
どんなに大きくても、それはペットボトルであった。なので人が死ぬようなことは起きないのである。死ぬかどうかの瀬戸際だと勝手に勘違いしていた俺はあっけらかんとしながら、そのペットボトルに振り返った。
完全に透明なそのサイダーが入っていたかのようなペットボトルの中には、一人の少女が目を回しながら倒れていた。こんなバカでかい音がしたというのに、誰一人気付いていない、とある入学式の通学路。俺は、まず救急車を呼ぶべきか警察を呼ぶべきか悩むこともせず、とりあえず慣れ親しんだそのペットボトル(巨大だが)のキャップを両手で掴み、回した。
「大丈夫か?」
「はわぁ~」
うわ、生きてる。普通こんな密封されたペットボトルに閉じ込められていたら死んでいるだろう。と言うか既にあんな高さから地面に激突してるんだしな。だけど、そもそもこのペットボトルの落下そのものが非常識なわけで。
常識を疑う一日が始まったのであった。