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いつかの桜・SS

いつかの桜SS・7

作者: 久義遼太

「みんな〜。ちょっとおてつだい・・・あれ?2人だけなの?」

放課後、がらり、とドアを開けながら立原が言う。

「何でみんなと言いながら俺たちしか見ていない。教室には他にもいるぞ」

「いやー、三人とも力あるし優しいから使いやすくて。てへぺろ☆」

この担任は生徒をなんだと思っているんだろう。

「ウザい。あと澄怒るぞ」

「ウザ可愛いでしょー。

すみちゃんには今の失言は黙ってて、本気でお願い」

「ボケ声とマジ声を混ぜるな必死さが伝わってくるから・・黙っててやるから」

「・・わたし立原先生の普通の声初めて聞いた気がします・・・」

いつものごとく聞き役に回っていたさくらが驚いた声で呟く。

「あら、そうだったっけ?

やんやん、私の初めての声さくにゃんに聞かれちゃったー☆」

くねくねと気持ち悪い動きをしながらボケ声で言う立原。

「普通の声の方がレアだからなこいつ。

むしろボケ声が普通の声だ」

「立原先生すごいです。声変えられるんですか」

さくらがキラキラとした目で立原を見る。

「あれー私のボケ普通に流されたー?

えーとそんなにキラキラした目で見られても私はテンション上げてるだけで声を変えてるつもりはないんだよー?

多分テンションと一緒に声色も上がってるんじゃないかな?」

ボケをスルーされて若干さみしそうに立原が答える。

「そうなんですか・・・前から立原先生の声なんでこんなにかわいいんだろうって思ってたんですがそういうことだったんですね。」

「可愛いだなんでそんなー☆それほどでもあるけどー」

「やめろさくら、際限なく調子に乗るぞこいつ」

「え、でも本当にかわいいですよ?

わたしなんか昔授業で録音した歌声聞いてちょっとショックでしたもん・・・」

さくらがしゅんとした顔をする。

「あー、よくあるよくある。

自分のイメージと違うのよねー。

さくにゃんは自分の声が嫌い?」

「いえ、その時はショックでしたけどそんなに気にしては・・」

「よし、じゃあさくにゃんもテンションをあげてみよーぅ!」

おー、と手を上げて宣言する立原。

「え?あれ?えーと・・・おー?」

頭の上に?を浮かべながらさくらが続く。

「さくら、ツッコミ入れていいし嫌なことは嫌と言っていいんだぞ?」

「じゃあさくにゃん、まずはわたしの真似してねー☆」

「あ、はい、えーと、えと・・・が、がんばります!」

連続した俺と立原の言葉に迷った結果、さくらはやってみる方を選んだらしい。・・・まぁ俺もテンション高いさくらとか見てみたいしいいか。

「じゃーまずは手始めにー、

『立原眞子でーす。よろしくっ☆』」

ピッと人差し指を立ててウインク。

「あ、名前は自分の名前に変えてポーズもつけてねー。」

「は、はいっ。

えと、『柚崎さくらでーす。よろしくっ』」

若干ためらいがちに人差し指を立ててウインク。

お。本当にちょっと声のトーンが上がった気がする。

「んー、もう一歩思いきりが足りてないけど(こういうのは正気に戻させない勢いが大事だし)次いっくよー。」

「は、はいっ」

・・・今立原がボソッとなんか言った気がするのは俺だけか?

「『おっはようございまーす☆今日も元気にまこちー行きます☆』

あ、まこちーのところはさくにゃんでねー☆」

「お、『おっはようございまーす☆今日も元気にさ、さくにゃん、行きますっ』」

「次は迷わないでねー。

『みんなのアイドル、まこちーです☆』」

「は、はいっ!

『みんなのアイドル、さくにゃんです☆』」

「お、今のうまかったな」

つっかかりもなく、いいハイテンション感だった。

「わ、本当ですか?」

嬉しそうな笑顔で反応するさくら。

「うんうん、今のはよかったよー☆じゃあ次は繋げてー、

『おっはようございまーす☆みんなのアイドルまこちー、今日も元気に頑張りまーす☆』」

「はいっ!

『おっはようございまーす☆みんなのアイドルさくにゃん、今日も元気に頑張りまーす☆』」

さっきので自信がついたのか、若干長いセリフもつっかからず言いきるさくにゃん。なかなかの成長速度だ。

「こーちゃんどうしようこの子いじるの思った以上に可愛い楽しい」

真剣な時のトーンで俺にだけ聞こえるように言う立原。

同感です先生。

「よーしじゃあ次で最後よ!これができたら免許皆伝!恥ずかしさはテンションでふりきって!」

「はい、頑張りますっ!」

むん、と気合いを入れるさくら。

俺も期待しつつ見守る。

「『みんな私のこと可愛がってね☆可愛がってくれたらぁ、なんでもし・た・げ・るっ☆』

なんにも考えないで続けて!勢いよ、ドントシンク、フィールよ!迷わず行けよ行けばわかるさっ!はいっ」

パシンっと立原が手を叩くのを合図にさくらが意を決したように口を開く!

「『みんなわたしのこと可愛がってね☆可愛がってくれたらぁ、なんでもし・た・げ・るっ☆』」

おお、言い切った!

「はいそこでトドメの投げキッス!」

「チュッ♡って、えぇ!?」

最後の投げキッスで、一部始終を見守っていたクラスメイトからも男女関わらず「おおお・・・」という声があがる。

「最高よさくらちゃん!まさかここまでやってくれるとは思わなかったわ!よかったら演劇部に来ない!?」

立原が興奮しつつかなり真剣に勧誘する。やらせといてどうかと思うが本気で予想外だったらしい。

「あの、えーと、浩一さん、わたし・・・」

赤さと青さの混じった顔でこちらを見るさくら。

あ、正気に戻った顔だこれ。

「うん、可愛かったからよし」

ぐっ、とガッツポーズで応える俺。

「〜〜〜〜〜っっっ!!?!??」

ボッ、と火がついたように真っ赤になるさくら。

途中から声とかテンションとか全く関係なくなっていたのにもさっき気づいたのかもしれない。

「・・・なんの騒ぎよこれ?」

「なんだかさくらちゃんが注目されてる気がするけど」

いつの間にか澄と悠が戻ってきていたようで、教室の入り口で怪訝な顔をしている。

「あのねさくらちゃんがね

「わわわわわ!なんでもない、なんでもないんですーっ!」

興奮したまま事の顛末を話そうとする立原を真っ赤な顔で焦って止めるさくら。


なんだかんだあった後、さくらは立原の口止めに成功。この事件はその場にいた人間だけが知る話になった。

ちなみにこの数日後からさくらのファンクラブがこっそり活動しているという噂が流れていたりする。

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