夏の匂い
私はいつだろう。
よく覚えてないが不意に訪れる匂いを感じるようになった。
それは結構楽しいもので、ウンコ臭いものから花のようなさわやかな物までたくさんあった。
そして今わたしは中学一年生である。
たまに臭うその臭いの事を友達に言ったら、いつのまにかクラスみんなが知っていて私はみんなに避けられた。
そのうち学校全ての人、もちろん先生もさらには一部の保護者までもが私の事を知っていた。
その臭いの元を知ったのは中3の冬だった。
そのときは嫌われているからみんなより二時間ほど遅く登校した。
その日は異常に寒かった。
「…………」
嫌われている理由が分からなかったからその当時は自分の心情を口にすることはほとんどなかった。
そんな私の癖は人間観察とか周りを注意しながら見ることだったりする。
小、中といじめられている私にとっては、虐っ子に見つからないように注意して歩くのがクセになってしまったのだ。
しかし、私はその癖のおかげでたくさんの物事を人より多く、詳しく見られたと思う。
そして今日も見つけてしまった。
多分子どもがほったんだと思うが、公園の砂場に私の頭が入るくらいの幅の大きな穴が開いていた。
その穴は多分私の腕を精一杯のばせば届く程度だろう。
多分とかだろうとかの推測のような言葉を使ったのは子猫が底にいたからだ。
私はその猫に手を延ばし穴から出してあげた。
別に助けてあげようとしたわけではない。
そのふわふわした体を触ってみたかっただけだ。
「にゃー」
猫が鳴いた。
それだけでどんな緊迫した場所もなごんでしまう。これが癒し系というやつだろう。
私は猫を抱きしめた。
「ねぇ猫さん。何で私は嫌われてるんだろう。私は別にこのよくわからない臭い以外は普通の人間なのにね」
自分で言ってて悲しくなってきた私は猫の背中に顔を埋めた。
猫はいい臭いとは言えないが、別にすごく臭いとは言えない。そう、例えるなら土の臭いの埃っぽさをなくしたような臭いだった。
「佐々木!何やってるんだ!早く学校に入りなさい!」
今更ながらだが、私の名前は佐々木鈴華である。
あだ名は
「くさ華」
私を気味悪く感じる人がつけたんだと思う。
臭いのせいで私を気味悪く感じる人は沢山いる。しかし、臭いのおかげでできた友達も沢山とはいえないがいるのだ。
私はすこしこの臭いに感謝していた。
簡単に気の合う友達、困ったときに助けてくれる本当の友達を与えてくれたから。
今日も授業は全て寝て過ごした。
でもそんなことをしても教師は怒らない。教師も私のことを気味悪く感じているからだ。
「よぉくさ華ちゃ〜ん?今日はどんなことさせてくれるのかな〜?」
今日も来た。小学校から私のことを虐めてくる。
しかし家は金持ちだからどんなに虐められても金で事実は変えられる。
そしてこいつはいつも夏のにおいがする。なんだか懐かしくて、だけど嫌いなにおい。
「なにもさせないよ」
そして私はいつもの言葉を言う。
言ったあとは逃げる。
力勝負では勝てないから私はいつも罠を仕掛ける。
いつもの曲がり角。いつもは網だが今日は違う。
来るときに見つけた小さな穴だ。
そこを目指して角を曲がったときに嗅いだ覚えのある土の匂いの埃っぽさを無くしたような臭いがした。
しかし、そんなことを気にしてる暇もないのですぐに目的地に行く。
目的地に着いたら膝に手をあてて疲れた振りをする。
そしてすぐに今日も引っ掛かった。穴の掘ってあった砂場には、ぐしょぐしょの泥が入っていて、その上にばれないようにビニール袋に石を入れた物を被せておいた。
なぜかはわからないがいつもそれで成功するのだ。
しかし、いつもと結果が違った。
「やっと追い付うおっ!」
穴に驚いたボンボンが私の服の裾を引っ張ったのだ。
しかし私はその時それどころではなかったのだ。
なぜなら。今朝の猫が乗用車にひかれたその瞬間を見てしまったから。
「こんなことしてくれやがってよ〜。もう何されても文句言うなよ」
「・・・・・・・・・・」
「おい!なんか言えよ!」
そう言って伸ばしてきた手を振り払って私は走った。
「おい!待てよ!」
連れが言ったが気にしない。
途中で転んだが気にしない。
すり剥いた膝が怪我の存在を主張するが無視する。
私は猫が死んだことについて悲しんでいるわけではない。
ただ。猫が死ぬ少し前に感じた匂いは絶対その猫のものだった。
そして猫がひかれた瞬間全てがスローモーションになりずいぶん昔の記憶が思い出された。
小学生の頃の記憶。
幼稚園の頃から大切にしてきたたった一つの本当の親友。
君は泥のような臭いだったね。
たしか私がドシャ降りの雨のなか転んだときに水たまりの中に落としてしまったんだったね。
君が燃えてなくなる少し前も君の泥のような臭いがしたよ。
私が感じるこの臭いは嗅いだことのあるものが無くなるときの臭いだったんだね。
ありがとう。私の大好きだったクマちゃん。
君のおかげで臭いの原因がわかったよ。
私は家に帰ってすぐに自分の部屋に入り布団に潜った。
私の頬を生ぬるいものが流れ落ち息が苦しくなる。息が吐きずらい。
私は布団に頭まで潜り込みついでに涙を拭き払う。
布団の中は真っ暗だった。
目を閉じようと開こうとなにも変わらない。
死ぬとこうなるのだろうか。
ある漫画でやっていた。
人は死ぬと『無』になるのだそうだ。
しかし『無』とは真っ暗なものなのだろうか。
私はそうは思わない。
色も思考もなにもないのだろう。
だからこそそんなところは理解できない。
そんなところよりはまだ天国や地獄の方が想像がつく。
しかし地獄とは沢山の苦しみを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!
難しいことを沢山考えてたつもりだが寝てたようだ。
わたしはお腹が減ったので起きたばかりのだるい体を無理矢理起こして目を擦りながらキッチンに行こうとした。
私の両親はもういない。
二人は離婚して私は父の方に引き取られたのだが、父はすでに白血病で2年前に死んだ。
だから今は母からの雀の涙ほどの仕送りと自分がバイトしてかせいだ金で暮らしている。
そんな私のいつもの食事はオムレツとチャーハン時々ピラフ。
今日もそれらを作り御膳に並べたところでインターフォンが鳴った。
昨日母が頼んだと言っていたストーブだろうか。
「はぁーい」
そう言って玄関に向かうとそこにはイジメグループのリーダーがいた。
「・・・・・・・・・・なに?」
私が少々睨むような目付きになりながら言った。
「いや・・・・・・。大丈夫なのかなって」
「なにが?」
私はそんなリーダーの心遣いに少々どころか混乱しそうなほど驚いた。
それと同時に少し動悸が激しくなった。
「いや、なんでもねぇ!元気そうだからいいや。じゃな」
そう言ってリーダーは風のように走り去っていった。
少し表現が古いように感じるがしょうがない。本当に風のように早かったのだから。
しかし私はそれどころではなかった。
激しく動く心臓を止めるのに精一杯でこのときはさっきまで泣いていたのを忘れるほどだった。
「なんなのよ!これ!」
そう言って軽く中学生にしては少しばかり膨らんだ胸を抑えて正体不明のドキドキを抑えようとする。
そしてまぁまぁうまく作れたチャーハンとオムレツを食べる。
しかし心臓の動きを整えようとしている私にはどんな味だか全くわからなかった。
そして風呂に入ったあと食べた気がしないのでまた作ってたべた。
いったいこれはなんなのだろう。
ふと気になって自分のにおいを嗅いでみた。
あいつと同じ、懐かしい夏のにおいがした。
なんだかそのことに嬉しくなった。
本日の食費約300円OVER