束縛の地獄の中の唯一の救い。
「月希姫、お前は最初の作品と接触したのか?」
「・・・。」
「答えろ!!」
男は、何も答えようとしない私を蹴る。
痛い・・・。嫌だ・・・。怖い・・・。
私は今、尋問されていた。・・・・。お父さんに・・・。
「知らない・・・。最初の作品なんて・・・、私、
知らない・・・!」
「最初の作品は「ラルー」という、これだけ言えば分かるよな!?」
「・・・!!せ、接触・・・。してない・・・。」
「嘘を言うな!!」
お父さんは私を乱暴に殴る。
「い・・・!接触しました・・・!」
痛みに耐え切れず私は答えてしまった。
なんとなく、答えてはいけない気がして、必死に隠そうとしたのに、
私を拷問し、必死に答えを引き出そうとお父さんは必死な様子を
あからさまに見せている。
「・・・!!やはり・・・。月希姫、
あの女の目的は何か、知っているか?」
「知らない・・・」
「だろうな?あの女の目的はな・・・。
お前を殺す事だ。この事の意味がわかるか?
だから、もう、あの女には接触するな。いいな!!?」
「・・・!!う、・・・・・・。分かり・・・ました・・・。」
私は嘘だ!と答えようとしたが、さっきから反抗すると、
殴られたり蹴られたりしている事を思い出して、
承諾した。
お父さんは今まで厳しい表情を浮かべていたが、
私が承諾すると、満足したのか笑みを浮かべて
もう用はないと言わんばかりに、私の部屋から出ようとする。
「ま、待って・・・!!」
「何だ?」
私はお父さんを引き止める為に、声を張り上げる。
監禁されていた頃なら、絶対にこんな事はしなかっただろう。
でも、今なら私から答えを引き出せて満足している今なら、
答えてくれるかもしれない。
「救動さんは・・・!?お兄さんは!?一体、
どうしたんですか!!?」
自然と私の声は荒げていた。
だけど、彼らは私にとって何よりも大事な人達なのだ。
私が唯一、信頼している、世界で唯一の・・・!!
私の家族・・・・!!
私に暴力を平然と振るう目の前にいるこの人は、私の父ではない!
私のお父さんは、救動さんだ・・・!
「あぁ・・・。あの刑事か・・・。それなら・・・。
殺したさ・・・!!」
この男は更に満面の笑みを浮かべてそう言い放った。
え・・・?そんな・・・。私が、必死に守ったのに・・・。
守りきれなかったっていう事・・・?
私の目に急激に涙が貯まる。
「と言いたいところなんだが・・・・。」
だが、不意に男は言った。
もしかして・・・!私は涙を流さないように、頑張って堪えた。
「お前を捕獲したあと、殺し屋は刑事を仕留めようとしたが、
突如現れた炎の壁に遮られ、近づく事さえ出来なかった。
仕方がないので守城 紅夜を仕留めようとしたが・・・。
最初の作品が妨害に現れたんだ。殺し屋共には黒いマントの女が
現れたら逃げろと伝えてあったから、
なんとかお前を取り返せたのだが・・・。刑事と守城 紅夜は、
最初の作品の元にいるのだろう、もう殺された者と思え、」
それだけ言うと、男は部屋から出た・・・。
救動さんも、お兄さんも、無事・・・!!
ラルーさんの元にいるのなら、安心出来る・・・。
良かった・・・!!
私は喜びに震えてた。傍から見れば大事な人を殺されて、
ショックのあまり震えているようにしか見えないはずだから、
私がラルーさんと今、敵対関係になったとあの男は勘違いするだろう。
この部屋にある監視カメラを確認して・・・。
そして、ある程度落ち着いた私は、
今の状況を整理する事にした。
私はお兄さんがハッキングした報告書を確認し、
全てを知った。だが、何故か、今、私が思い出そうとしても、
何も思い出せない・・・。よって、私はあの男の手により、
真実を忘れさせられている事が明らかになった。
お兄さんも私も記憶喪失になっていたのも、あの男のせいだという事。
そして、今、私は自分が監禁されていた部屋に戻っている・・・。
それはもうあの男の言葉で立証されている。
私は殺し屋達の手によって誘拐され、またあの男に監禁された・・・。
私は黙って立ち上がる。
私の足はまた鎖によって繋がれている。
でも、この程度なら問題はない。
救動さんを守る為に、私は炎の壁を出現させた。
けれども、あの男はあれは私の仕業とは分かっていない。
何故なら、そのあとすぐにラルーさんが現れたからだ。
もし、ラルーさんが力を持っている事を知って、
私も力を持っている事を知らないのならば・・・、
あの壁を出現させたのはラルーさんだと、勘違いしてるはずなのだ。
よって、あの男にとって私は力を持っていない為、驚異ではない。
だから、きっと・・・・。私が鎖を自力で外し、
この部屋から脱走し、逃げる事など、想定していない・・・。
ならば、今がチャンス・・・!!
私には力があるから、大丈夫・・・!!
「大丈夫ではないわ。」
不意に、声が聞こえた。
「あ、言葉に出してはダメ。
監視カメラに写ってしまうから、心で念じて。」
こんな感じに?
「そうそう、上手いわね。」
聞こえたらしい・・・・。ラルーさんって凄い・・・。
「ちょっと、照れるじゃない・・・!
と、また調子狂わされた・・・。
話を戻すわ、今、貴女はここから、力を使って
脱走してはいけない・・・。」
一体、どうして・・・?
「実は、この力は使うと膨大なエネルギーを
発生させるの。だから、力を使えば一発でバレるわ
刑事さんの家の時はなんとか
誤魔化せたけど・・・。今回はそうはいかない。
辛いと思うけど、すぐに助けに行くわ、
もちろん家庭教師君も刑事さんも一緒よ!
どうしても耐えられないのなら、
私の情報を売ってもいいから!ほら!
奥の手は隠し持つ物でしょう?」
あ、ありがとうございます・・・!
分かりました。大事にこの力は隠し持たせてもらいます!
「OK!それでいいわ!あと、部屋の隅にある
タンス、調べておきなさい。」
そう言ってラルーさんは交信?を終えた。
タンス・・・?
私は部屋の隅にあるタンスを見た。
じゃらじゃら・・・。
鎖が音を立てて私の足から離れない・・・。
それでもタンスの前に立つと鎖も一緒に止まる。
そして、私はタンスの一番上の段を開けると、
そこには・・・。ラルーさんが私に送ってくれたあの本があった。
これなら、監禁されていても力をつける事が出来る。
ラルーさん・・・。私、頑張ります。
あの男には・・・。負けない・・・・!絶対に負けない!
だから・・・。救動さんを、お兄さんを、守っていてください・・・。
・・・・。
「月希姫の処置は一体どうなる?」
男は月希姫の部屋から出て、すぐに電話で話し始める。
「月希姫は最初の作品と接触したと、ハッキリ答えたのだな?」
電話の奥から、男性の声がする。
「ああ、ハッキリとそう答えた。これは・・・、
問題ないのか?大丈夫なのか?これのせいで、月希姫は
用済みとはならないよな?」
「・・・。すまない、こんな事態、想定外だ。
本来ならば、最初の作品は月希姫を敵と認識している為、
接触したその瞬間に殺されると思っていたが・・・。
何故か、最初の作品はそうしなかった。出来れば、
最初の作品と接触した経緯を月希姫本人から聞きたいところだ・・・。
明日、私がそちらに行こう、私が直接、月希姫に聞く。」
「な・・・!直接来るのですか!?
月希姫はあまり期待できないのでは!?」
「ああ、期待はしていなかったが、思わぬアタリかもしれぬからな、
最初の作品と接触して無事に帰ってきた貴重な例だ、
くれぐれも最初の作品には奪われるな、いいか?」
そして、ブツっ!と乱暴な音がして、電話は終了した。
だが、男は喜びにガッツポーズをした。
欲にまみれた小汚い男。
私は内心で毒を吐いて、月希姫・・・。お嬢様の部屋に入る。
お嬢様は顔や腕に酷すぎる痣が出来ていた。
拷問の痕・・・。やはり、仕えている身ではあるが、
あの男は嫌いだ、自分の娘に金欲しさに暴力を振るう最低野郎。
「お嬢様、大丈夫ですか。」
「・・・。大丈夫。でも、濡れタオルが欲しいかな・・・。」
「承知しました。」
私は感情のこもっていない声でお嬢様に声をかける。
あまり、情が移らないように・・・、と、当初から私は
お嬢様に対してこの声でやってきた。
まぁ結局、情が移ってしまってはいるのだけれども・・・。
とても粗末な白いワンピースを着て、こんな部屋に無理やり押し込められて
その上、毎日のように暴力が振るわれる。
普通ならもう生きる活力さえ失せてもいいのに、
お嬢様は今もなお希望を信じている。
そんなお嬢様を目の当たりにして、私は情が移らないようにしてたのに、
いや、どんなに冷酷な人間でも、お嬢様だけは無視できないだろう。
私は、濡れタオルを持ってお嬢様の部屋に戻る。
「失礼します。」
そう言って、私はお嬢様の顔を濡れタオルで丁寧に拭く、
とても痛ましい、
「あのね、私、お父さんが出来たんだ・・・。」
「・・・?と言いますと?」
お嬢様は妙な事を口走った。
「救動さんって言ってね、私を保護して、守ってくれて・・・。
私のお父さんになってくれた人なの・・・。」
ああ、それは、お嬢様を力ずくでここから連れ出した刑事のことの
ようだ、
「左様ですか、そのお方がどうなさったのですか。」
「あの男に命を狙われたの・・・。でもね、生きているの、
私が守ったんだ、きっと、私を守りにやってくるよ・・・。」
お嬢様は声を震わせて、その美しい赤い瞳の目から涙を流す。
希望を信じた、孤独の少女、
しかし、それはとても凄い、あの男に狙われて生きていられる人間が
いたとは、
「それは、とても凄いですね。」
「うん、運命は変えられるって、ほんの少しだけのきっかけさえ
あれば、人間は何だってできるって、
そう確信できて、私、今、幸せなんだ、だから、
この幸せを、メイナに分けたいんだ・・・!」
メイナ、それは私の名前だ。
私は魂想グループに仕えるメイドだ。
そして、お嬢様の世話を任されている。
これだけでもう、給料も弾み、生活に不自由がなくなって、
それこそもう、幸せ絶頂な私に更に幸せをあげるなんて、
なんてもったいない!
「そんな、私はもう幸せですから、その幸せはお嬢様一人のものにして
ください。」
「ううん、幸せを皆で分かち合った方が幸せだからね、
メイナにも分かち合って欲しいの、」
なんて・・・!今、私の目の前に本物の天使が君臨した・・・!
「いいのですよ、私のお笑い法をお嬢様に伝授出来た事だけでもう、
私もお嬢様も幸せを分かち合っているじゃないですか。」
空っぽの声で幸せを語ってる私は一体何だろう・・・。
そう思うがまぁ、無視。
って、私のお笑い法ってなんだ、確かに前に、
お嬢様にこうすれば皆が楽しくなると言って、
お笑い法を伝授したが、あくまでもこれは、
親友のラルーから教わった物ではないか、私のお笑い法ではない!
はッッ!!いけないいけない、またもやラルー色に染まってた。
ラルーのあの強烈な性格が私にかなり伝染して困っているから、
治そうとしているのに・・・。
って、またなんだよ、伝染する性格って、
ラルー怖ッ!!地味に怖いよ!性格が伝染するとか、
「ふふ、そういえば、メイナってラルーさんにそっくりですよね?」
「・・・。い、今なんとおっしゃいましたか、お嬢様。」
「え?メイナってラルーさんそっくり・・・?」
そんな馬鹿な・・・。お嬢様がラルー知ってるなんてありえない。
マジ、笑えない。
「こほん、ラルーと私が知り合いとは、
誰にも言わないでください、言えば私、殺されます。
文字通り、ご主人様に、」
「ええええええええええ!!!!??
ラルーさんって、何者!?」
心底驚いたようにお嬢様は目を見開いて私を見る。
「ラルーは最初の作品にして、博士殿の最高傑作、
理想の状態に最も近い存在、そして・・・。
唯一、博士殿に激しい対抗心を抱き、逃亡した作品・・・。
唯一、博士殿の助手と真正面から戦う事が出来る作品・・・。
だから、博士殿は喉から手が出るほどラルーを支配したがっているのです。
そんなラルーと面識がありながら黙っていた事がバレると、
本当に殺されちゃいます。」
おそらくお嬢様は既に知っているのだろうけど、
説明をする。
「・・・。意味がわからないけど・・・。
バレちゃ困るのなら、これ以上喋らないほうがいいんじゃ・・・。
だって、この部屋、監視カメラが設置されているのでしょう?」
「実を言うと、ここのカメラは音声が入らないんです。
だから、喋っているだけなら、バレる心配はありません。」
「ねぇ、そういう事私に教えてもいいの・・・?」
「・・・。言ったところで・・・。
お嬢様は何も出来ないのだから問題はないのでは?」
「何げに酷い事を言うね・・・。メイナ。」
「正直なだけです。」
無力なお嬢様に少しくらいの情報を教えたっていいじゃない!
(これが、私の言い分です。)
「と、立ち話が過ぎましたね・・・。
では、業務に戻ります。」
「うん、頑張って・・・。」
そして私は濡れタオルを持って、
お嬢様の部屋から出る・・・。
いやはや、ラルーは恐ろしい人で・・・。
親友という事を悪用して、
あんな事をさせられるなんて、恐らく私の寿命は30年縮まっただろう。
次の回はラルー視点で話を進めます。
(だって、月希姫は監禁されててまともに動けないもん。)
そして新キャラのメイナ!当初は不要なキャラなので、
切り捨てようと思ったのですが、一つの役割が余ったのでメイナ復活。
あと、ややこしくならないように言いますが、
男の電話の相手は博士ではありません、メイナの話にチラッと出てきた
「博士殿の助手」です。このキャラが重要キャラです。