私の初めての家 「え?まさかの宣戦布告?」
「月希姫・・・大丈夫か?」
何故か、無意識に心の中で私が呟いた、
紅色の夜の意味について考えているとお兄さんが私を心配して
声をかける。
「だ、大丈夫・・・」
「・・・そうか・・・」
お兄さんは不可解そうに私を見つめていたが、
しばらくして救動さんがやってきた。
「車を玄関口に置いてあるから、行こう」
「はい」
私はベンチから立ち上がると、
お兄さんは後を追うように立ち上がる。
そして、救動さんが私を抱えて車に行こうとしたら、
「ちょ、待て! 何で刑事が月希姫を
“お姫様抱っこ”するんだ!?」
お兄さんが心底、驚いたのか叫ぶ。
・・・あぁ、そういえばお兄さんは私が長く歩けない事を
知らないんだった・・・。
「月希姫は長く監禁されていたから、
筋肉があまり鍛えられてなくて、
長く歩く事が出来ないんだ、仕方のない事だ」
「なん・・・だと・・・」
お兄さんは驚愕の表情を浮かべて呟く。
「なぁ・・・」
「はい?」
救動さんが私を見ながら言う。
「月希姫のネタが古風なのは、守城の影響か・・・?」
「古風古風、あまり言い過ぎると、嫌うよ・・・?」
「待て待て、なんでそんな凍てついた目で言うんだ!?」
「え? そりゃ、真剣の話だからでしょう?」
「首、傾げて言う!?」
「何、病院内で漫才、おっぱじめてんだ
せめて、車に乗ってからにしてくれ」
お兄さんが冷静に私達を一刀両断。
「す、すまない・・・」
「はい・・・」
素直に反省して、ようやく車に到着したので、
救動さんに降ろしてもらう。
「・・・」
「月希姫・・・?」
黙って、車の扉を睨んでいるとお兄さんが心配の声をかける。
うん、後ろで笑いを堪えてる救動さんを無視する事にします。
「お兄さん、私に扉を開け方を教えてください・・・」
「はぁぁぁ?
・・・マジなのか・・・」
「はい、マジです」
「・・・ええと、そこの黒いハンドルに手をかけるんだ
そうしたら、手前に・・・ええと、
ガって引くんだ・・・とりあえずやってみろ」
お兄さんもさすがに扉を開け方を教える事がないので、
困惑したように説明する。
「わ、わかった・・・」
そして私は震える手で扉のハンドルに手をかける。
ゴクリと私は生唾を飲む。
ガチャッ・・・
思いきって手前に扉を開くと痛快な音を立てて、
あっけなく開く扉の奴。
「や、やったよ! お兄さん!」
「お、おう、これは喜んでいいのか・・・?」
お兄さんはやはり困惑した表情で私に聞く。
「これはいい経験だな?
扉の開け方を教える機会なんて、もうないだろうな!」
後ろの救動さんが笑い声を漏らしながら言う。
「救動さん?」
「なんだ?」
「何回注意させるんですかッ! 笑いすぎ・・・!」
「イテテテ、また力いっぱい頬をつねらないでくれ!」
「もう扉を開けられない事で笑わせないですよ!!
だって、扉の開け方を覚えたんだもん!」
「だもんって・・・月希姫は何歳なんだ?」
「13ですが?」
「若い、が想像してたより年上だった!」
「もう茶番は終いにしてくれ・・・」
お兄さんが割愛を入れる。
「「はい・・・」」
私は救動さんと同じ台詞を言う。
そして、私は助手席に乗り込むと、救動さんが運転席に乗り込む。
後ろでバタンッ!という乱暴な音がすると同時にお兄さんも
座席に座り込む。
「住所はこれでいいんだな?」
「あぁ・・・」
救動さんがあらかじめ医者からもらった
お兄さんの住所をお兄さんに確認させて
そのまま、車は発進する・・・。
・・・・
その後、私達はお兄さんの家に着くと、
お兄さんが家に荷物を取りに行きました。
私も行こうとしましたが、お兄さんに
“恥ずかしいから来るな”
と言われ、車で救動さんと待機。
なんでもお兄さんがいない間、警察が警備をするらしいです。
何故なら救動さんが自分の推理を先に上司に伝えたらしく、
もしかすると犯人が“守城 紅夜”を殺すために
家に来るかも知れないので、
あたかも“守城 紅夜”がいるように見せかけ、
犯人が力ずくでやって来たところで逮捕する作戦らしい。
「でも、今、お兄さんが荷物を取りに行ったところを見られたら、
意味がないんじゃ・・・」
「いや、さすがに犯人も守城の傷が
こんなにも早く回復するとは思わないだろう?
だから、見られない可能性の方が高い」
「おお・・・」
なんだか、救動さん格好良い・・・。
そうこうしてる内にお兄さんが荷物を持って車に戻って来た。
「じゃ、行くぞ」
そう言って救動さんは車を発進させる。
「ところで、刑事」
「その“刑事”という呼び方はどうにかならないのか」
「今更“救動さん”なんて改まるのもキモイから、
“刑事”なんだよ」
「はぁ・・・」
「それで、刑事の家は俺と月希姫、そして刑事で寝泊り出来る
スペースはあるんだろうな?」
「もちろん、あるとも
私一人では広すぎる家だから、月希姫にとっても
過ごしやすいと思ったんだ・・・」
「なるほど」
短く返事をするお兄さん。
そのあとは車内に流れる沈黙。
だけど、私はだんだんウトウトし始める。
なんだか・・・眠・・・い・・・
ZZzzz・・・
・・・・
「おい、そろそろ起きろ」
「ん・・・お兄・・・さん・・・?」
「疲れていたんだな?
車から運び出す時も、穏やかな表情で寝ていたし・・・」
「うん・・・一日だけで、色々な事・・・
起こりすぎて・・・」
お兄さんは呆れたように言う。
私はぐるりと辺りを見回す。
とても広い開放的な様式のリビング。
大きなふかふかしたベンチ?に私は寝かされていた。
「このベンチ、大きいですね?」
病院にあったものより大きいなと思っていると、
「これはベンチじゃなくて、ソファだ」
「ベンチとソファはどう違うんですか・・・」
「知らん」
「そうですか・・・」
これはソファという物だったらしい。
ゆっくり私は起き上がる。
ソファの前には大きな黒い四角い箱?が立っている。
「あれはテレビだ」
不思議そうに黒い箱を見ていると、お兄さんが教えてくれた。
「テレビは何をする物・・・?」
「こうする物だ」
お兄さんはソファの後ろある大きなテーブルまで歩み寄ると、
テーブルの上に置いてあった細長い小さな箱を掴み、
テレビに向かって箱の上を押す。
パチン・・・
変な音がすると、テレビがガヤガヤ音を立てて、
色んな人達を映し出す。
「・・・!?
何なんですかこれ!?」
「本当に新鮮な反応・・・」
「教えてください! お兄さん!?」
「はいはい・・・テレビというものは色んな情報を教える為に、
人々の娯楽の為に使われるものなんだ」
「な、なるほど・・・・」
「ちゃんと理解したか?」
「は、はい・・・!」
「にしても、本当に広いな・・・。こりゃ、
3人でも広すぎる家だろ・・・」
お兄さんも部屋を見回しながら言う。
「お兄さん、救動さんは?」
「あの刑事は、お前を引き取る手続きをしに出かけたよ」
「そんな手続きが必要だったんですか・・・」
「そりゃ、必要だろう?」
「イマイチ解りません・・・」
要するに、今、救動さんは出かけていて、
その為、私とお兄さんでお留守番しているという事・・・。
「あの・・・」
「ん・・・? どうした?」
「救動さんがいない間に色んな事を教えてください・・・
私・・・外の世界には詳しいつもりだったけど、
実際に出てみれば私が解らない事ばかり・・・
だから、もっと知りたい!」
「目を輝かせて言うな・・・わざわざ、頼まなくても
教えるさ、今までどおりに・・・な?」
「・・・・!!
お兄さん・・・!」
「じゃ、メモを用意しろ」
「・・・はい!」
そのあと、私はメモとペンを片手に色んな事を教えてもらいました。
「冷蔵庫」「鏡」「パソコン」「電子レンジ」
「料理」「音楽」
・・・様々な事を、
こんなにも世界には色んなものがあったのに、
私はそれを長い間知らずに生きてきたのです。
一体、何故お父さんは私をこの世界に触れさせないようにしていたのか、
とても不思議でなりません。
「・・・た、ただいま・・・・」
いつの間にやら救動さんが帰ってきました。
「救動さん!
世界はとても楽しい物なんですね!」
私はそう叫びながらリビングの扉のところに
突っ立ってる救動さんに抱きつく。
「えぇぇ!!?
私がいない間に世界全てを悟る出来事があったのか!?」
「ただ単に、あまりにも無知だったので、
パソコンの使い方などの事を教えただけだぞ?」
「それで全てを悟ったのか!?」
「そんな訳ないだろう」
お兄さんは淡々と救動さんを一刀両断する。
「あの、救動さん手続きは終わったんですか?」
「まぁな、ついでに今の捜査状況を聞いてきた」
「何か分かった事があるのか?」
どうやら、やけに帰りが遅いのは
捜査状況を聞きに言ってたそうです。
「残念だが、進展ナシだ・・・
ほぼ、通り魔的犯行だから証拠はおろか、容疑者さえ
割り出せてない・・・」
「まぁ、あの男の仕業なら証拠を出て来るわけがないからな・・・
それで、何も聞いてきたのは俺の事件のほうだけじゃないよな?」
「もちろん、月希姫の事件も聞いてきた
こっちはかなりの進展があった・・・が、その、
月希姫の前で言っていいのか・・・?」
二人が事件について話をしようとするが、
私の前で話すことに躊躇する。
「私は大丈夫です
一旦、お父さんの顔面をぶん殴れば
気が済むはずなので、むしろ早くお父さんが犯人である
証拠が欲しいところです」
「月希姫が淡々と無表情に凄い事言ったぞ!!?」
「私がいない間、守城は何を月希姫に仕込んだんだ・・・」
「何で刑事が俺を疑うんだ!?
俺は何もしてないぞ!?」
まさかの立場逆転。
救動さんにお兄さんがいじられてる・・・。
「さっき、テレビで見たネタを拝借させていただきました」
「「テレビが元ネタ!?」」
二人同時にツッコミを入れる。
やっぱり、とても楽しいやり取り・・・。
「あの、話の続きは・・・?」
「・・・まぁ、淡々とこういう事が言えるようなら、
心配はないだろう刑事、月希姫の事件が俺の事件に関連してるのは
確かなんだろう? なら、教えてくれ」
「そうだな・・・分かった
月希姫が監禁されていた屋敷は“魂想グループ”のものだ、
だから、“魂想グループ”の社長“魂想 隠生”
に直接事情聴取したところ・・・
“確かにあの屋敷は私の所有するものだが、
そこに一人の少女をたった一人残して、監禁する訳がないだろう?
そんな問題よりも、私がいないからといって、強制捜査に
勝手に屋敷に入った事が気になる・・・
長年、私はあの屋敷に立ち入っていない、そんな屋敷に
一体、何のために入ったのかが不思議でならない
その監禁されていた少女とやらには、心当たりもないし、
その少女を監禁する理由を私は持ち合わせていない
よって、私や“魂想グループ”は全くを持って因果関係はない”
と、無罪を主張した
確かに隠生はあの屋敷には長く関与していない
だが、これは都合のいいだ
彼のアリバイは、屋敷に関与していない事と
月希姫を監禁する理由がないという事、
これらさえ崩せば真正面に叩ける・・・」
「救動さん・・・凄い・・・!」
「要するに、狙いを定める事が出来た訳か・・・」
「あぁ・・・」
救動さんは何においても有利的に考える・・・。
その前向きな思考が、最大の武器のようです。
「それと、守城?
教えて欲しい事があるんだが・・・」
「何だ?」
「お前が月希姫の家庭教師をしていた事だが」
「その話は終わったと思ったが・・・」
「いや、病院での質問と少し違う
一体、何の為に月希姫の家庭教師をしていたか、
誰に雇われ、どうしてずっとあの屋敷に通い続けたを、
教えて欲しい・・・」
「・・・その事か、いいだろう
俺は・・・大学を卒業して、そのあと、
効率よく稼げる仕事を探した大学の出だから、
ある程度いい会社で働く事が出来るが、
下手を打てばいい結果が出なくなるかも知れない、
それに効率のいい会社もあまりなくてな・・・
そんな時だった 家庭教師をしないかと声がかかった
収入はとてもいい物で、しかも場所は俺の家から近い
だから、俺は家庭教師をする事にした
教えられた住所に聞かされた生徒の年齢に合わせた教材を持って、
行ってみれば、そこは かの有名な“魂想グループ”のお屋敷と来た
さすがに驚いた
けれど、収入の高さに納得が出来た
きっと生徒は“魂想グループ”社長の子供なんだろう・・・と、
屋敷に入り、俺は細かい説明を受けた
生徒の名は“魂想 月希姫”
彼女は社長の子供だから命を狙われている為、
自室から出る事は許されない
社長の子供だからって命を狙われるのは少し変だと思ったが
それでも、確かに“魂想グループ”は凄い大企業だし
可能性としては有り得ない話でもない・・・それに、せっかくの仕事だから
と、そう自分に言い聞かせて
俺は、仕事を引き受けた
そしてそのまま月希姫の部屋に案内された
病院で月希姫が言ったとおり、月希姫は白いシーツを足にかけていた
そんな月希姫を俺は奇怪に思った
性格もどこかズレてたし・・・」
性格が若干ズレてて悪かったですね、お兄さん。
「そんな月希姫を何故か俺は放っておく事が出来なかった
収入が高いけど、これは命を落とす危険がある仕事なのに、
それでも毎日俺は屋敷に通った
だが・・・一昨日、屋敷に向かっていた最中だ
そこを突然・・・襲われた
何故、俺が狙われたのかが全く心当たりはない・・・
と、こんくらいでいいか?」
「なるほど・・・
丁寧な説明をありがとう」
「お兄さん、ズレてて悪かったですね」
「月希姫、機嫌を悪くするな・・・」
耐え切れず、心の中でずっと呟いた事を言った。
「ご、ご飯にしよう!」
救動さんが突然叫ぶと、キッチンに走る。
ピリピリした空気を悟った救動さんの気遣いだろう。
「・・・料理・・・!」
「刑事も料理をするのか・・・?」
「そりゃあ、一人暮らしだからな・・・」
「何を作るんですか!?」
「オムライス・・・だが・・・」
「オムライス・・・!!
あの・・・・!?」
「月希姫のテンションがおかしいぞ!?守城!」
「俺に丸投げするな!? 月希姫は単純に
ちゃんとした料理を食べた事がないだけだから!」
「料理を食べた事がない!!? そりゃ、おかしいだろ!!?
どうやって食いつないでた!?」
「パンと水・・・あと薬で」」
「はぁぁぁぁ!!?
そんな味っけの無い物で生きていけるのか・・・!!?」
「いや・・・生きていけるから私はここにいるのだと思う・・・」
「本当か・・・ぐっ・・・!
そうか、月希姫は、
料理の暖かさも知らないのか・・・」
全力で哀れみの目を向ける救動さん、
その目には涙が溜まっている。
ホント・・・優しい救動さん・・・。
「よし! すぐに作るから待っていてくれ!」
そうして、料理の準備を始める救動さん。
初めての料理。なんだか緊張する・・・。
お兄さんはテーブルの椅子にまず座ると、手招きして
私も座れと指示を送る。
素直に私はお兄さんの隣に座る。
しばらくして、私は料理をする救動さんを眺めながら待っていると、
オムライスが完成したのか、救動さんが黄色いの得体の知れない物を
お皿に乗せて持ってきた。
一緒に真っ赤な容器をテーブルに置くと、
「オムライスだ、月希姫」
そう言って真っ赤な容器の蓋を開けて、黄色い物の上で
逆さまにし、ギュッと絞る。
すると、蓋から赤い液体のような物が黄色い物に垂れ落とされる。
「赤いものは・・・一体・・・」
「ケチャップだ」
「そうですか・・・」
どうやら、オムライスはケチャップをかけて食べるものらしい、
そして救動さんにスプーンを手渡される。
使い方はお兄さんに学んだ。
恐れる必要なんて、ない。
「い、いただきます」
スプーンをオムライスに入れる。
「お、おぉ・・・」
黄色の表面。卵の中には赤いソースで炒めたライスが入っている。
それをスプーンに乗せ、口に運ぶ。
は、初めての手作り料理・・・。
緊張で指が震える。
パクリと口の中に入れると
「!!」
「どうだ?」
「お、美味しい・・・!!」
美味しかった。
暖かい味のあるライスにケチャップの酸味がほどよく、美味しい。
あ、涙が出た。
「うぅ・・こんなに、暖かいんですね・・・
料理はこんなに美味しんですね・・・」
「ヤバイ、月希姫が言うと重みが違う・・・」
「嬉しい一言だな・・・」
お兄さんと救動さんがそれぞれに言葉を漏らす。
オムライスのあまりの美味しさに気がつけば、
全部、食べていた。
あれ、お兄さん達の分は?と思ったが、
いつの間にお兄さんと救動さんもオムライスを食べていた。
「意外だな、刑事の飯が上手いとは・・・」
「ひどい言いようだな・・・」
お兄さんがきっぱり言う。
「さて、もうこんなに遅くなってしまったが、
月希姫、そろそろ寝たらどうだ?
寝室があるから・・・」
「そこは救動さんの寝室じゃありませんよね・・・?」
「いや、妻の部屋だ」
「え・・・」
意外な言葉が飛び出る。
一人暮らしじゃ・・・同じ事を思ったのか、お兄さんも驚いて、
「妻って、どういう・・・」
「説明をしないとな・・・私には妻と弟がいた
今は・・・どちらも、死んだ・・・」
「な・・・!」
「ご、ごめんなさい・・・!」
「何で謝るんだ・・・別に、お前たちが悪い訳じゃないんだから、
・・・妻と弟は・・・誕生日の私の為に
サプライズの準備に、アパートに出かけたんだ、そこで・・・
爆発テロ事件に巻き込まれた・・・」
・・・? 爆発テロ・・・?
「アパート爆発テロ・・・!?」
お兄さんは凄く驚いた様子で呟く。
全くなんのことか分からずにいると、
「今から三年前・・・アパートの強盗目的で、
爆弾で爆発させる事件があったんだ・・・」
救動さんが教えてくれた。
その事件で救動さんは奥さんと弟を亡くした・・・。
・・・でも、やっぱり分からない。
強盗なんかをする為にわざわざ爆発させる必要があるなんて・・・。
爆発をさせる以上、大勢が死ぬのは犯人が一番分かっていたはずなのに
もしもそれを承知で爆弾を使ったのなら・・・。
それは、大勢の人を殺すのが目的なんじゃ・・・?
「それで・・・救動さんは、刑事になったんですか・・・?」
「いや、その時には既に刑事だった
だから、その事件を担当して犯人を捕まえようとした」
「それで捕まえたんですか・・・?」
「・・・残念ながら、犯人は解らなかった・・・
今も捜査中だ・・・」
「そんな中、私達の事件を捜査しているのですか・・・!?」
「爆発事件は証拠がほとんどなくて、犯人特定が出来ず・・・
だんだん、捜査から刑事が外されていった・・・
私もまた、つい最近、捜査から外された・・・」
「・・・っ・・・!」
「何をそんな申し訳なさそうな顔をするんだ!
大丈夫だ、きっと犯人を捕まえる事が出来るから、問題はないし、
そんな事よりも目の前で困っている月希姫達を
無視するわけには行かないじゃないか・・・!
ほら、私は大丈夫だから部屋に行きなさい」
「そんな部屋を使うのはなんだか申し訳ない・・・」
「いや、むしろ使わない方が妻に申し訳ない・・・」
「・・・! わ、分かりました!」
見事に論破をされて私は部屋に向かう。
まさか救動さんにそんな過去があったなんて・・・。
辛い体験をしたからこそ他人を思いやれる・・・。
優しい救動さん・・・。
「じゃ、俺は弟の部屋か、本当にいいのか?」
「いいに決まっているじゃないか
そら、お前も行け!」
「俺は子供じゃないぞ!?」
そんな会話を後ろから聞こえたが
そのまま私は救動さんの奥さんの部屋・・・。
これからは、私の部屋になる部屋へ向かう。
リビングの扉を開いて廊下に出ると、前の方に玄関が見える。
左にはトイレの個室があり、右には二階に上がる階段がある。
私は階段を無視して進む。階段の向こうにはもう一つ部屋があり、
そこが私の部屋になるところ。
ガチャ
扉を開ける度なんだか、ドキッとして鳥肌が立つ。
毎回扉を開けるときに起こる事。まだ、私は扉を開ける事に、
恐怖を覚える。監禁されていた時の影響だろう・・・。
気を改めて私は部屋の中に入る。
まず目に付くのはとても綺麗なステンドグラスの窓。
奥の壁には中世の教会にありそうなステンドグラスが、
普通の透明な窓の上の丸窓にはめ込まれてある。
ステンドグラスには天使が描かれていた。
透明な窓はどちらかというと扉と同じみたいで、
人が窓を開けばそのまま外に出れる作り。
それを覆うように柔らかな半透明なカーテンが窓の向こうの景色を遮る。
「綺麗・・・」
思わず私は呟く。
だって、雰囲気がとてもいい。
色豊かなステンドグラスに美しい月光が通る事によって、
色の付いた光が床を照らす。
それに、窓を開けて風を通しカーテンをはためかせれば、
より一層素敵になるはず。
うん、天気のいい日にやってみよう。
次に私は右の壁の方を見る。
壁に立派な鏡が設置されている。
その鏡の装飾もとても素敵だ。
私は鏡の前に移動する。
鏡の中には、
真っ白な長い髪を腰まで垂らした、赤い瞳の少女が写っている。
これが、私だ。
お兄さんの目と同じ色だと知ったのはついさっきの事。
鏡について教わっていた時に、私は初めて自分の姿を知った。
お兄さんの目は妖異で不思議だと思ったが、
私の方がずっと妖異だった・・・。
「ベー」
舌を出してみる。
同じく、鏡の中の私も舌を出す。
「・・・変なの」
無意味だった・・・。
そして私は左の壁の方を見る。
左の壁の隅に大きめなベットが置いてある。
私はベットに歩み寄ると、ベットの上に座る。
ふかふかしている、
おぉ・・・これならぐっすり眠れそう・・・。
私が監禁されていた頃は床に白いシーツを敷いて、その上で寝ていた。
床は冷たく、硬かった。
それでも私はそこ以外に寝れる場所などなかった。
「・・・私、今、幸せなんだ・・・」
そうして改めて私は痛感する。
お兄さんの命が狙われているけれど、
もしかすると、私も狙われているかもしれない。
そんな中で幸せを感じるのはおかしいと思うけど・・・。
それでも、今、とても暖かい・・・。
もう泣いてばかりだけど、
救動さんは優しくしてくれる、お兄さんは生きている。
私は、救動さんの手によって、幸せに触れる事が出来たんだ・・・。
自然と私の口元は緩んで、笑うことが出来た。
だから、絶対に壊させるものか。
私にはお父さんに対抗出来る不思議な力がある。
これを使って、守りきってみせる・・・!
扉のすぐ横に置いてある大きなタンスの中には何も入ってなかった。
だけれども私は気づいた。
開けたタンスの中に隠し棚がある事に、
そこを開けてみると、とても綺麗なアクセサリーがいっぱい入っていた。
これはきっと救動さんの奥さんのアクセサリーなんだろう。
なので、黙って元には戻さず一番上の段に入れる。
「よし、調べ終えた」
この部屋には、鏡とベットとタンス以外、何もない。
その為、部屋はとても広々としている。
ここなら、練習出来る。
私がこれからしようとしていること・・・。
それは、私の中にある未知の力を自由に使えるように、練習をする事だ。
その為、壊れては困るであろう物を確認した。
(下手をすれば何か壊すかもしれないという月希姫の配慮)
「・・・でも、どうすればいいんだろう・・・」
困った。今までは私の解らない事はお兄さんに聞けば全部分かった。
が、この未知なる力はさすがのお兄さんも解らないだろうし・・・。
出来れば救動さんにもお兄さんにも知られたくはない。
理由は簡単。
気味悪がられたらどうしようかと恐れたから。
それに、ちょっと二人を脅かしたい気もあるし・・・。
「はぁ・・・」
軽くため息を漏らす。
こればかりはお手上げ・・・。
参った・・・・。
「誰か、私にこの力の使い方を解り易く教えてくれないかな・・・」
冗談で言ってみた。
けど・・・。
「ん? いいよー」
「へ?」
「私が教えたげる」
「・・・」
「あれ? もしもーし? 聞こえてるー?」
「何この・・・・怪奇現象は・・・・」
「いやいや! 確かにホラーかもしんないけど!」
「何で私は謎の声と会話してるの・・・!?」
「・・・それは・・・確かにそうね・・・
ごめん・・・て、何で私謝ってるの!?
ああもう! 調子狂った! 適当に本にまとめて
置くから! ちゃんとマスターなさいね!?」
「へ!? あの! せめて何者か教えて!?」
「そうね・・・確かにいきなり話しかけておいて、
何者かさえ言わないのは無礼よね・・・
私はいずれ貴女の前に現れる者・・・
・・・敵よ」
「!?
敵と断言したのに、何で私に手を貸すんですか・・・!?」
「力を持たずに力を使う私と戦うなんて、
不公平じゃない 私は自分とマトモに戦う事の
出来ない弱い昔の自分に似た人を、
一方的に殺すのは・・・とてもとても大嫌いなの」
「・・・!?」
この謎の声はお兄さんが目覚めた時にも聞こえた。
この人は・・・敵だ。
だけど・・・曲がりなりにも正々堂々と戦いたいらしい。
「もしかして、あなたがお兄さんの傷を癒したの・・・?」
まさかと思った。
あの時、私は自分の中に名状し難い力を感じた。
その時にお兄さんが目覚めた。だから、私がお兄さんの傷を癒したのだと、
そう思った。
でも、もしかしたら・・・。
「フフ………そうよ、あの奇跡を起こしたのは私
だけれども、
あれは貴女がいたから起こせた事なのよ」
「どう言う意味・・・?」
「あれは、一種の契約よ
貴女が力に目覚める代わりに、
あの青年の傷を癒し、その意識を取り戻させた」
「っ!!
勝手にそんな事を・・・!!」
「勝手じゃないわ、
貴女は無茶な願いだと自覚しながら、
それを言語化した
無茶なことなのに・・・と悔やみながら・・・
それは、どうしても叶えて欲しいという事よね?
だったら・・・」
「・・・・!!
だから、“言ったね?”って・・・・」
まさか、私はいつの間に謎の契約を交わしていたなんて・・・。
「後悔してる?」
「う、ううん、後悔だけはしていない・・・」
「だったら、どこに文句があるのかしら?
これのおかげで貴女は私に
抵抗する力を手にしたのに・・・」
「そう、ですね・・・確かに、ほとんど文句事は、ない」
「うん じゃ、本をそちらに送るわ
しっかりと強くなりなさいね?」
「あ、はい・・・」
すると、突然、目の前に分厚い本が現れた。
つくづく性格の解らない女の人・・・。
その声だけでとても感情的で荒々しい性格が伺える。
感情の変化が激しい。
なんだか、彼女の手の中で一時、踊らされた気がする・・・。
まさか、宣戦布告されるなんて思わなかったけど・・・。
敵にしては、やけに親切だったし・・・。
納得がいかない・・・。どこかモヤモヤした感じがする・・・。
だけど、確かに彼女の言ったとおり、私にとってこの力は唯一の強み。
私は目の前で浮かんでいる分厚い本を手に取った。
ずっしりとしたとても重たい本。
ベットの上に移動して座り、本を開いた。
「・・・」
しばらく私は本を読んでいた。
明らかに手書きで作ったもので、とても解り易く書かれていた。
「これ・・・あの声の人が作ったのかな・・・」
意外だ・・・。
「・・・よし、試してみよう・・・」
私は本を見ながら右手を前に差し伸べる。
しっかり火が燃えるイメージをする。
そして、指先に意識を集中する・・・。
ボウッ・・・・
オレンジの小さな火が指先の空中に浮かぶ。
「す、凄い・・・!
出来た・・・!」
出来た・・・!
私は喜びで立ち上がる。私の意識が喜びに逸れたので、
指先の火は消える。
これならば、きっとお父さんにも勝てる・・・!
私は喜びに満ち溢れていた。これなら、二人を守れる・・・。
ん・・・また・・・眠くなって・・・き、た・・・・。
ZZzzz・・・・
・・・・
「はぁ・・・」
私は一人の少女との遠距離会話を終えて私が急いで作った本を
少女の元に力を使って送る。
「・・・つくづく変な子ね」
やけに少女は戸惑っていた。
あの邪魔な男の協力者なら、私の事くらい知っているはずなのに・・・。
何か様子がおかしい・・・。
もう少し調べ直した方がいいかしら?
「・・・・場所も把握してるし、会いに行こうかしら?
フフフ…! なんか楽しい事が起こりそうね?
行きましょう 明日すぐに!」
胸に高鳴る何かを感じ、私は明日に期待する。
上手く行けば邪魔男の居場所を知ることが出来るし、
どちらにせよ、あの少女には何か強い力を感じた。
だから楽しませてくれるでしょう。
「私は何も力を与えたんじゃなくて、
彼女の中に眠る力を目覚めさせただけ・・・
彼女にはそれだけの才能があったんだから、
私が手を加えずとも、きっと力に目覚めたでしょう
だから、たとえ何が起きてもそれは彼女の自己責任だわ・・・」
長く私は呟いた。
ゆっくりとお気に入りの大鎌を研ぎなら・・・。
大鎌の女は重要なキーパーソンです。
けど、かなりの狂人です・・・。