情報まとめ え?救動さん今なんて言いました?
揺れる火を灯すロウソクの向こう・・・。
一人ぼっちですすり泣く少女がいた。
「どうしたの?」
私は、救動さんを真似て声をかけた。
「・・・」
その少女は膝を抱えてうつむいている。
反応は全く無い、一体どうして?
「……………………………………………忘れてはいけない」
やっと少女は口を開いた。
「何を忘れてはいけないの?」
少女の言葉の意味について聞いてみる。
「・・・・・・・」
またもや黙り込む少女。
なんだか胸の奥がザワザワする気がする・・・。
「ふ、ふふふ・・・アハハハハッ、
あぁぁはハハハハハハ!!!」
「!?」
少女が突然、狂ったように笑い出した。
「嫌だ・・・止めて、そんな笑い方、
止めて・・・止めてッッ!!!」
私は後ずさり、耳を塞いで叫ぶ。
頭が痛い・・・胸が苦しい・・・。
呼吸がつらい・・・。
次第に私の呼吸が乱れ、うつむいた。
「!?」
ガッと突然私の腕を掴まれ
私は反射的に前を向く。
「あ・・・あぁぁぁぁ・・・・
嫌ぁぁぁぁ・・・!!!」
ガバっと私は飛び起きる。
あれ・・・?夢・・・・?
「おい!? 大丈夫か!?」
横で車の運転をする救動さんが私を心配して
声をかける。
「だ、大丈夫です・・・怖い夢を見ただけです・・・」
私は救動さんを安心させる為に怖い夢を見た事を伝えた。
「そうか・・・ならば良かった・・・
よっぽど怖い夢を見たんだな?」
救動さんは私を茶化すように笑いかける。
救動さんの笑顔は何故だか見ていると安心する・・・。
そういえば、夢の中で私は一体、何を恐れていたのだろう?
「・・・救動さん、運転に集中してください・・・
さっきの夢より、救動さんが前を見てないほうが恐ろしいです・・・」
「あ! すまない・・・」
救動さんは一言謝ると今度は黙って運転に専念する。
あのあと、私は生まれて初めて外に出た。
お兄さんを助ける為にも・・・。
だが、不甲斐ない事にも運動不足が災いして、
部屋から出てものの三十歩で倒れた。
(何も気絶したわけではない。ただ倒れただけ。)
なので、私は長く歩けないと分かった救動さんは、
私を両手で持ち上げ移動することにした。
救動さんはそれを“お姫様だっこ”と言ってたが、
そのおかげで私は行動範囲が広まったので、
良かった。
そして、私は詳しい事を知った。
お兄さん・・・“守城 紅夜”という青年が
一昨日の夜、とある病院に運ばれた。
刃物による切り傷と銃で撃たれたような怪我を負って意識不明の重体。
緊急手術によって一命は取り留めたものの、
今もなお意識不明のまま、生死を彷徨っている状態のようです。
それを聞いて私はまた泣いてしまった。
でも、救動さんが私に握らせたふかふかした物で涙を拭いてくれました。
ふかふかしたものは何でも“ハンカチ”というそうです。
救動さんは何でも“刑事”という仕事をしていて、
“守城 紅夜”を襲った犯人を捕まえる為に
捜査をしているらしい。
そして、手がかりを求めて“守城 紅夜”が住んでいる家に
何か手がかりはないかと、調べに行くと
綺麗に整理整頓された部屋の机の上に、
私が監禁されていた場所・・・“魂想グループのお屋敷”の
住所が書かれたメモがあったとのこと。
「あの・・・一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「“魂想グループ”って、何ですか?」
「“魂想グループ”はまぁ・・・医療関係で急成長を遂げている大企業だ
そういえば、月希姫の苗字って・・・
“魂想”だったよな・・・? まさか、“魂想グループ”の・・・!?」
「ごめんなさい、解りません・・・」
かなり妙な話だ。私は“魂想グループ”のお屋敷で、
生まれた時からずっと監禁されて育った。
そんな私の名前は“魂想 月希姫”・・・。
これ以上、考えても分からなさそうなので、
この事は胸の奥の方にまたしまっておこう。
捜査のために“魂想グループ”のお屋敷に救動さん達は
強制的に入ったそうです。なぜなら、お屋敷には誰もおらず
前々から怪しげな人たちが出入りしているとの情報を得ていたため
強制捜査を始めたそうです。
そうして救動さん達は屋敷内をくまなく調べたそうですが、
私以外の発見はなかったそうです。
なるほど・・・私は偶然見つかったというわけですか・・・。
そういえば、何故、あの時
開かれるはずのない扉が開かれていたのでしょう?
何も救動さんが無理やりこじ開けたわけではないみたいだし・・・。
謎も幾つか残されます。
嗚呼、これも情報が少なさ過ぎるからわからない・・・。
そうして屋敷から出たあと私は
とても黒い車輪の付いた大きな銀色の四角い箱に遭遇。
救動さん曰く“自分の車”だそう。
なので私はこの人生初の車に乗る事に、
どうやらこの車は人が丸い“ハンドル”を操作して動かす乗り物らしいです。
そういえばお兄さんが教えてくれた世界史に時々、
出てきた“馬車”という乗り物に似ているような・・・。
そうして、冒頭へ戻る・・・。
「救動さん・・・私はこのあと・・・どうなるんですか?」
私はずっと気になっていたことを聞いた。
「・・・一旦、病院に行って月希姫の体に異常はないか調べる
そして、異常がなければ・・・
君を施設に入れることになる・・・」
苦しそうに救動さんは言った。
「・・・施設・・・? どうして・・・?」
「君は身元不明だから」
「身元不明・・・?」
何故か涙が目に溜まり始める。
今日は随分とよく泣く日だなぁ、などと
悲しい気持ちを心の中で誤魔化した。
「・・・そんな悲しそうな顔で私を見ないでくれ・・・!」
苦しそうに救動さんは言う。
本当に・・・優しい人・・・・。
でも・・・。
「なんだか・・・施設は嫌・・・
どうすれば、施設に行かなくて済むんですか・・・?」
必死に涙を堪えて私は言う。
「それは・・・親代わりの誰かが現れたらいいんだが・・・」
「・・・!」
親代わりの誰か・・・・?
そんな偶然に賭けなくてはならないの・・・?
私はうつむいた。
救動さんに偶然見つけてもらえたから私は外を出る事が出来た。
けれども、また同じように
偶然誰かが私の親代わりになってくれるとは限らない・・・。
「・・・あぁもう!」
突然、救動さんは言うと、頭を掻きながら
照れくさそうに
「その・・・私の家に来ないか・・・?」
「へ?」
「だからな! 私が月希姫を引き取るんだよ!」
「・・・!」
救動さんが驚きの提案をした。
もはや驚愕のあまり開いた口が塞がらない・・・。
「や、やっぱり嫌か・・・確かに刑事とはいえ、
一人暮らしの男の家は色々と嫌だよな・・・」
「あ、あの・・・!」
「なんだ!?」
後半、ブツブツ呟き始めたので私は
聞いてもらおうと頑張って声を上げる。
「私・・・! 救動さんの家に、行きたい・・・です・・・」
なんだか私まで後半、恥ずかしくなって小声になってしまった。
「い、いいのか・・・?」
「・・・救動さんは私の鎖を切って、私を外に連れ出した
だから責任を取ってもらいたいんです!」
「へ!? 責任!?」
「私を説得した気になってませんか?
あれ、どちらかというと嫌がる私の鎖を強制的に切ってますから・・・」
「な・・・! う、責任か・・・
月希姫が言うと何故か重く感じる・・・」
「はい、私の言葉は重いのでしっかりと受け止めてくださいね?」
「満面の笑みで言い切った!?」
とても楽しいやり取りが始まった。
・・・今後の生活はとても楽しいものになりそうだ。
救動さんが私の親代わりとは、複雑な心境になるが、
責任を取ってもらうにはちょうどいい機会。
それに・・・私はもう少しだけ救動さんと一緒にいたい
そう、いつの間にか思い始めている事は救動さんには
もちろん内緒だ。
「・・・・着いたぞ」
「?」
そんな事を思っていると突然、救動さんは車を止めて言った。
あ・・・病院で検査する為に病院に向かっていたのだった・・・。
「ここは・・・“守城 紅夜”が運ばれた病院だ・・・」
「!?」
透けたガラスの窓の向こうには
白い大きな建物が建っている・・・。
そうか・・・ここが“病院”・・・。
お兄さんが、いる・・・。
「・・・私の検査のついでに、
お兄さんに会いに来たんですよね・・・?」
「・・・あぁ・・・」
複雑な想いから痛み出す胸を押さえて
まるで逃げるように私は車の扉を開けようとする。
ガッッ!
・・・・
あれ?
黙って扉を開けて車から降りようとしたのに、
扉が開けられない・・・いや、多分・・・。
私はこの人生の内で、扉を開けた事は?
答えは、“ない”
要するに、私は扉の開け方を知らない・・・。
とっさに私は振り返って救動さんに助けを求めてみる。
その救動さんは腹を片手で抱えもう片手で口を押さえ、
必死に笑いを堪えてた。
ただ扉を開けられないだけなのに・・・!
「す、すまん・・・ちょ、待ってくれ・・・」
そう言って救動さんは慣れた手付きで扉を開け、
外に出て、ぐるりと車の外を回る込んで
私が開けようとした扉の前に来ると
ガチャ
私の扉を開けてくれた。
かなり慣れた手付きがなんだか憎らしく思うのは気のせいのはず・・・。
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
笑いすぎて目に涙を貯める救動さんの顔なんて、
私は見ていないからね?
「後で、扉の開け方を教えてやらないとな・・・」
「・・・ご教授願います・・・・」
イヤミにしか聞こえないのも気のせい気のせい・・・。
「あ、病院はかなり広いから、ほれ」
救動さんはまたもや慣れた手付きで私を抱える。
「救動さん救動さん」
「なんだ?」
「ちょっと、いいですか?」
「ん?」
「えいや! 救動さん、笑いすぎ・・・!」
「ちょ、イテテテ・・・・頬を力ずくでつねるの止めてくれ!
悪かった・・・! 悪かったから・・・!」
「分かればよろしい・・・」
そう言って私は救動さんの頬から手を離す。
「なんだろう・・・
月希姫のネタが若干、古風な気がするのは・・・何故・・・」
「気にせいですよ?」
「ニコリと可愛らしく言っているのに、なんか黒いものを感じる・・・!」
相変わらず楽しいやり取りを続ける。
私は、会って間もないとは思えない程、救動さんと親しくなっていた。
それとは裏腹に、刻一刻と私には運命の時が迫っていた。
「ねぇ・・・そういえば、何で救動さんはとても慣れた手付きで
私を抱きかかえられるのかな?まるで、前からもずっと、
私を抱きかかえてたみたい・・・」
扉の開け方を知らない月希姫の様子は笑わずにはいられない救動さん。
そりゃ、無理もない。
なんたって・・・月希姫、全力で扉に体当たりしているだけですもん。
私だって現実にそれ見たら絶対、笑う。
顔はポーカーフェイスでも、心の中では大笑いしてる。