第1話
初の企画もの参加作品です。
楽しんで頂ければ幸いです。
むかしむかしあるところに、赤い瞳にクリーム色の髪の少女と、青い瞳に金色の髪の少年がいました。
2人は仲のいい兄妹で、優しい両親にかこまれて、大きなお家で穏やかに暮らしていました。
ある日夜のこと。
兄のユーリスが、寝る前に本を読んでいると、部屋の外からパタパタと足音が聞こえてきました。
バタンと大きな音を立てて部屋に飛び込んできたのは、3つ歳の離れた妹のリヴィアンでした。
「兄さま、たいへんよ!」
「そんなに慌ててどうしたんだい、リヴィ?」
「父さまと母さまがいないの!いっぱいさがしたんだけど、どこにもいないの!変なお手紙しか見つからないの!」
「手紙?」
「父さまと母さまのお部屋に落ちていたの。これ……」
そういってリヴィアンはユーリスに、ずっとにぎりしめていた手紙を渡しました。
封はもう開いていました。きっとリヴィアンが開けたのでしょう。
手紙には、知らない人の字で、一言だけ書かれていました。
『もうすぐ迎えに行く』
と。
ユーリスはドキリとしました。
「リヴィ、これって……」
「きっとそうよ、悪魔が母さまと父さまを連れて行ってしまったんだわ!どうしましょう!」
「でも、それは絵本の中のお話じゃあないか」
「でも、絵本のお話のとおりよ。きっと悪魔のしわざよ!」
そう、2人は小さいころから、悪魔が両親を連れて行って仲のいい兄妹までさらっていってしまう絵本を両親によんでもらっていたのです。
その絵本の中でも、悪魔はまず両親を連れ去り、『もうすぐ迎えに行く』という手紙を残していきます。
そしてその三日後に、悪魔は兄妹の前に現れて、ある選択を迫りました。
それは、『このまま両親の元に一緒に行くか、それともどちらかが生け贄になり食われ、残りはこのまま一人で生き続けるか』というものでした。
「絵本ではおにいさんが生け贄になっていたいたけれど、わたしはそんなの嫌!」
「でも、絵本のとおりなら、一緒にいることをえらんでも、母さまと父さまはもう悪魔に食われていて、僕たちも食われてしまうよ」
「それでも、母さまや父さまや兄さまのいない世界なんて、生きていけないわ」
「僕だって同じさ。でも、どちらも選ばなければ2人とも食われてしまう。僕はリヴィには生きていてほしいんだ」
「兄さま!」
「とにかく考えよう。どうすればいいのかを。えぇと、確か絵本では、兄が食われてどうなっていたっけ」
「えぇと、たしか……」
二択をせまられた兄妹は、結局兄が生け贄になり、妹を救おうとしますが、悪魔は約束を破って妹まで食べてしまおうとします。
妹は一生懸命逃げますが、とうとう最後には悪魔に捕まってしまいました。
悪魔が捕まえた妹を頭から飲み込もうとしたその時、悪魔は悲鳴を上げて妹を離し、そこらじゅうを転がりまわります。
九死に一生を得た妹は、どうして助かったのか分からずにいると、目の前に偶然近くを通りかかった隣の国の王子様が現れました。
王子様は、悪魔の腕を剣で切り落として、妹を救ってくれたのでした。
「これじゃあだめよ。もし絵本の通りだったら、兄さまが食べられてしまうわ!」
「それに、本当にくるかも分からない王子様にはリヴィは預けられない」
「そうだわ、王子さまはそのあと悪魔を退治してくれるわ!それをわたしたちでできればいいのよ!」
『あぁ、美しい人。けがはないかい』
『はい、ありがとうございます』
『今、この聖水と銀の十字架で悪魔を退治する。あぶないから離れていなさい』
『はい』
「聖水と銀のクロスか……。よし、リヴィ、明日、教会にいって神父さまにそうだんしてみよう」
「はい、兄さま」
「今日はもうおそい。リヴィ、一緒に寝るかい?」
「はい!」
そうしてリヴィアンはユーリスのベットにもぐりこみ、ふたりはなかよく眠りました。
次の日。
朝食を食べた兄妹はこの家ではたらく3人の使用人をあつめ、3日間の休みをあたえて、そのあいだはこの家にいることを禁じました。
おさない2人を残すことにみな反対しましたが、家の主がいない今、この家ではユーリスの命令が絶対です。
3人はさいごまでユーリスを説得しようとしましたが、結局ユーリスが押し切って、3人は実家にかえっていきました。
そんな3人の使用人を見送った2人は、さっそく教会へと向かいます。
いつもは父さまといっしょに馬車をつかっていたので、歩いていくのは初めてでしたが、幸い道は覚えています。
馬車で20分の道のりをこどもの足でむかうのはたいへんでしたが、なんども休みながら歩いていくと、教会まであとすこしということろで、見たことのないない看板と森の奥へとつづいている小道を見つけました。
「兄さま、これ、なにかしら」
「見なれない文字だね。日が暮れるまで時間もあるし、行ってみるかい?」
「いいの?」
「リヴィが行きたいのならね。ただし長居はできないよ」
「はい!」
看板には、見たことのない、文字のような記号が連なっていました。
未知のモノにおおいに好奇心をくすぐられた様子のリヴィアンに、ユーリスも、まだ時間があるからと行ってみたくなったようです。
はじめて通る道に、不安と興奮をかくしきれない愛しい妹の手をとり、ユーリスは昏い小道に足を踏みいれたのでした。
小道を進んだふたりは、森の開けた空間に、ちいさな家をみつけました。
「お家?」
「看板があったんだから、なにかの店だとおもうけれど、ただの民家かもしれないね」
その家は、一階建てのちいさな木の家で、窓が左右にひとつずつ付いていました。ふたりはなかの様子が気になって、窓をのぞいてみることにしました。
家のなかはとくに変わったものはなく、木でできた机とイスが真ん中にあり、部屋のすみに暖炉とベットがあるだけの一般的な民家でした。
「なにかのお店ではないようだね」
「そうですね……」
心なしか落ち込んでしまったリヴィアンの手をひいてユーリスが戻ろうとしたとき、家の向こう側から、砂糖の焼けるような、甘くていいにおいがするのに気がつきました。
「兄さま、これ、なんの匂いかしら?」
「いい匂いだね。クッキーの焼けるみたいな」
「誰かがいるかもしれないわ。行ってみましょうよ」
「そうだね。いってみよう」
ふたりはたくさん歩いてお腹がすいていたので、甘い匂いに誘われて、家の奥へと向かいました。
家の裏手に窯があって、そこで青年がなにかを焼いている所でした。
「やぁ、迷子のおふたりさん。俺になにかようかい」
「勝手にはいってごめんなさい。それはなんですか?」
青年は兄妹よりも年上のようでしたが、物怖じ気しない性格のリヴィアンは、年の差なんて気にせずにずんずんと青年のもとにすすんでいきます。
一方のユーリスは、はじめて会うひとに緊張と困惑を隠しきれない様子でしたが、先をいく妹が心配で、いそいでリヴィアンのあとを追いかけました。
窯のまえにかがむ青年の手元をのぞきこんだリヴィアンは驚きの声をあげました。
「すごいわ!これ、ケーキね!」
青年が窯で焼いていたのは、ふかふかのケーキのスポンジでした。
「これは、冷めたらクリームをはさんで、とれたての果物をのせるんだ。どうだい?まだ時間があるのなら食べていかないかい?」
そうして青年は、隅のかごからちいさな熟れた木苺をリヴィアンの口に放りこみました。
口のなかの甘酸っぱい酸味と青年の魅力的なことばに、ケーキの大好きなリヴィアンは大喜びです。
「ぜひそうさせてもらうわ!」
嬉しさのあまりにリヴィアンは青年の腕にぎゅっと抱きつきます。
そんな妹を、ユーリスは必至で止めに入りました。
「だめだよリヴィ。僕らはこれから教会に行くので、すみません」
「教会?」
「はい。神父様に用がありまして」
教会という言葉に、青年はしぶい顔をしましたが、すこし考える様子をみせたあと、納得したように頷きました。
「まぁ、大丈夫だろう。今日中に教会に着きたいならそろそろ行った方がいい。いいかい?十分に気を付けるんだよ?」
「はい。木苺、ありがとうございました」
ユーリスはそういってリヴィアンの手をひいて先を急ぎます。
後ろからユーリスの言葉にくすくすと笑う声がきこえましたが、気にしません。
ユーリスはそれから、リヴィアンが根をあげるまで、とにかく早歩きで大通りをめざしました。
リヴィアンが青年になついていたことが気に食わなかったようです。
「リヴィ」
「はい」
ユーリスにとっては早歩きでも、年の小さなリヴィアンには走っているような速度だったので、息を切らせながら答えます。
「これからは、ああいう、訳のわからないひとになにかモノをもらっても、けっして受けとってはいけないよ?いいね?」
「…はい」
いつもよりもいらだっている様子のユーリスの声音に、リヴィアンはおとなしく従います。
さて、そうこうしている間に大通りに戻っていて、2人は目前にせまった教会へと、改めてむかっていきました。