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終極限界のクレアツィオーネ  作者: 立花詩歌
序章「始まりのクレアツィオーネ」
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第五理― <暴走>凶器銃器は乱舞する

「一分とは言ってくれるじゃねえか。さすがにそこまで言われて取り逃がすわけにもいかねえよなぁ。こちとらこう見えても日本に来る人外バケモン全部を()()()()してる特失課サマだぜ!」


 威嚇するように剣斧を横薙ぎに振るったテクスは、そんな台詞を言い切ってから一瞬でクレアとの間合いを詰める。


「えぇ、私には一分しかないの。だから貴方(あなた)にかけられる時間はたったの十秒。彼女の方が手強そうだから――」


 クレアがスッと身体を引いて剣斧の斜め斬り上げをかわすと、テクスは振り抜いた剣斧の勢いを殺さず――ヒュンッ!

 その場で一回転して流れるような|斜め斬り下ろしをクレアに見舞う。

 が――パシンッ。

 さらに身をよじって紙一重で剣斧の軌跡から外れたクレアは、すぐさま次の攻撃の軌道に剣斧を導こうと動いたテクスの左手にたった一瞬、触れた。


「――沈みなさい。解放(リベラ):“束縛呪法(レストリツィオーネ)”」


 クレアの指先が一瞬眩い閃光を放ち、思わず目をつむって顔をかばう。

 そして恐る恐る目を開くと、


「次はさっきの狙撃手(チェッキーノ)かしら?」


 テクスが両手で持っていたはずの剣斧を右手で軽々持ち上げるクレアの姿がそこにあった。そしてテクスは、何処から湧いて出たのか無数の鎖にがんじがらめに拘束され、道端に転がされている。


「ちくしょうッ、何だってんだコレは! ほどきやがれ!!!」


 顔を真っ赤にして喚きながら、ぐいぐいと幼虫のように暴れる。しかし、やはり情けないというか、さっきまで恐ろしい速度で巨大な剣斧を振るっていたとは思えない。

 しかしクレアはテクスの方を見もせずに呆然としているリリスに向き直った。


「貴女のお仲間は私の中身に耐えられるかしら? 解放(リベラ):“煽動呪法(アギタツィオーネ)”」


 パチンッ。

 クレアが薄い笑いを浮かべて指を鳴らした――次の瞬間。


 バキッ!

 再び飛来した()()()()がリリスの薙刀を瞬く間にへし折り、歩道を割り砕いて大きな穴を開けた。そして薙刀の先端は、計算されているかのように宙を舞ってクレアの手元に。


「あら? あの狙撃手(チェッキーノ)、いい腕してるじゃない。さっき外したのは私の運がよかっただけみたいね」

「ミルアッ!?」


 リリスは薙刀の残骸を放り投げて後ろに下がりつつ、チラッと視線を向けた。おそらくミルアという名前の狙撃手がいる方向を、見てしまった。


解放(リベラ):“銃弾呪法(ムニツィオーネ)”」


 バラララッ!

 薙刀の先端からリリスの小銃を取り外したクレアが、その方に向けて無造作に引き金を引いた。


「届くはずが――」

「届くのよ。今あの銃弾は、私の中身(チカラ)を受けているから。安心して、殺しはしないわ。銃を破壊させて貰っただけ。それより大丈夫かしら。もう貴女だけよ?」

「逃げろ、リリス! この使い勝手の良さ、もしかしたらコイツ、禁忌(パンドラ)クラスの摂理内包(ルーラー)だ!」


 依然拘束の解けないテクスが叫ぶ。

 パンドラ? ルーラー? いったい何の話をしているんだろう?


「私は別にどう取られても構わないけれど、一分で()()()()という宣言を嘘にしたくはないわね」

「リリスッ!」

「うっさいテクス! 黙って待ってろ! 武装展開(オープンアームズ)《メドゥーサ》!!!」


 リリスがそう叫ぶと突然、彼女の背後の空間が波打った、ように見えた。

 次の瞬間――ズズッと空間から銃口が現れた。

 何だアレ……? というより今何が起こってるんだろう……?

 それはまるで舞台裏に隠されていたセットをとばりの隙間から表舞台に引き出すように姿を現していき、リリスはそれを手にとった。

 あれも映画で見たことがある……。

 左側にはぞろぞろと長い給弾ベルトが装着され、ひと度引き金を引けば、大口径弾をバラ撒きながら右側の排莢口(エジェクションポート)から目まぐるしく空薬莢が弾き出す()()()()

 戦闘ヘリのドアガンとして据えられるような代物だった。

 名前は確か――


ブローニングM2(フィフティー)重機関銃(キャル)…………見た者殺し(メドゥーサ)とはよく言ったものね」


 クレアが不敵な笑みを浮かべて皮肉っぽい語調でそう言うと、リリスはガチャと機関銃メドゥーサを槍のように構えた。

 思わず目を強く瞑る。

 同時に頭の中に数日前に見た映画のワンシーンが浮かぶ。テロリストに拉致された主人公たちが密林の中にあるアジトから脱出するアクション物で、クライマックスで救出に来た汎用戦闘ヘリUH-1N(イロコイ)から、地上に潜むゲリラ兵たちに向けて機関銃(ドアガン)で援護掃射するシーンだ。

 主人公を追ってきたゲリラ兵たちが戦闘ヘリの出現にパニックを起こしながら、次々と倒れていく光景が頭の中でぐるぐるとリピート再生される。

 今その銃がボクに向けられている……!? 夢だと思いたかった。


「撃って撃たれて蜂の巣晒せ」


 暗闇の向こうから、凍えそうなほど冷たいリリスの声が響いてくる。


解放(リベラ):“防御呪法(プロテツィオーネ)”!」

(ナイン)ヤード全弾食らえ(フルバースト)ォォォッ!!!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――ッ!!!

 機関銃メドゥーサが轟音と共に火を噴いた。ボクは思わず身体がすくみ、緊張に耐えられなくなった足がガクンと折れて尻餅をついてしまう。

 そんな時だった。


「大丈夫よ、ミズハ。約束は必ず守ってみせるから」


 その声は激しい掃射音が轟く最中さなかでも何故かはっきりと聞こえてきた。

 その声に導かれるように、恐る恐る目を開ける。


 ――ッ!?

 銃弾は今も機関銃メドゥーサから吐き出され続けている。

 しかし、一発一発が対物ライフル(メタルイーター)並みの冗談みたいな威力を叩き出すのはずなのに、ボクやテクスどころか矢面に立つクレアにすら一発も届いていなかった。クレアの前に広がる透明な薄い膜のようなものに全て阻まれていたのだ。

 銃弾がその膜に当たる度、まるで時間の流れが遅くなっているかのようにゆっくりと数センチ沈み込み、同じようにゆっくりと跳ね返って地面に落ちる。そうやってヘコんだ時だけ光の屈折の具合で虹のような膜が見えているのだった。


「ちッ、バケモンかよ」


 忌々しそうにそう言い捨てたのは転がされたままのテクスだった。個人的にはあんなばかでかい剣斧を軽々振り回す方も十分化け物だけど。

 近年になってようやく万人の常識になりつつある銃砲刀剣類所持等取締法、いわゆる“銃刀法”はどうしたんだろうね、ホントに。刃渡り十五センチどころか百五十センチはあるぞ。携帯所持に関しては六センチ以上は禁止だったはずだけど。

 自動小銃に大鎌・真剣薙刀・対物ライフル、あまつさえ重機関銃。

 警察の皆さん、ここに違法所持者が四人(?)もいますよ。しかも躊躇いもなく公道で思いっきり使用してます。誰か状況を説明して、あるいは助けて。

 給弾ベルトの長さにして八メートルほどあったらしい銃弾を撃ち尽くしたリリスは、無造作に機関銃メドゥーサを放り捨て、


武装展開オープンアームズ《カール・グスタフ・FFV751(スピアー)》!」


 リリスはさっきと同じように()()()()()現れた円筒状のモノに手をかけ、引っ張り出そうとする。今度は明らかにロケットランチャー。


「おォい、リリスッ! お前俺がいること忘れてねえか!?」


 どうやら()危険物みたいだ。味方テクスからも焦ったような声でツッコミを入れられてる。これまであらゆる危険にある程度冷静に対処していた様子のクレアも、さすがに呆れ顔になっていた。


「おい、アレ止める自信がねぇならコレほどけ、バケモン女!」

「自信がないわけではないけれど、さすがに榴弾を受けた経験はないわね。しかも退けない状態で」

「おィおィおィッ!? くそッ、おいミルアッ! あのクソバカ止めろッ!!!」


 カシュッと音がして、テクスが髪の中から降りてきたマイクのような装置に向かって怒鳴る。


『え~、モノ壊されちゃったから何もできないんだけどぉ』

「何とかしろ、バカ女!」


 もしかしてバカばっかり……?


「消っ……し、飛べぇぇェェェェェッ!」


 いつのまにかカールグスタフを構えたリリスが咆哮し、その指が――――引き金にかかる……!


「そうほう、そこまでーっ!!!」


 何やらあどけない割に、不自然なほど大きな声がそこら中に響き渡った。その瞬間リリスがビクッと震えて、ロケットランチャーを取り落とした。


 ガシャンッ。

 ちょっと待ってお願いだからもう少し丁重に扱って。


「あぁ? この声……ッ!?」


 テクスが地面に這いつくばったまま上に思いっきり視線を向けようとして、首がポキッと嫌な音を立てた。情けない悲鳴を上げながら、ゴロゴロと地面を転がって悶えるテクス。さっきからもしかしたらと思ってたけど、やっぱりちょっとアホっぽい。

 その代わりにというつもりはまったくないけど、テクスが見ようとした先――――視線を上に……。


「あら可愛い子ね」


 クレアが能天気に呟いた。

 黒いゴシック(ロリータ)ドレスを着て、黒いウサギのぬいぐるみを抱いた銀髪の幼い女の子がそこにいたのだ。

 ――浮いていた。

 というよりは空中に立っていた。


「貴女の名前は何て言うのかしら?」

「神流……釘十字くぎじゅうじ神流かんな


 ボクたちを見下ろす紫色の瞳がくるりと周囲を見回し、ごそごそ――服の中を探り始める。


「……?」


 取り出したのは――――五寸釘……?


「今度の相手は貴女というわけかしら、特失課のお嬢ちゃん?」

「ううん、ちがうの」


 ふるふると小さく首を振った女の子はすーっと地上まで降りてきて、クレアの正面にトンと足を着けると、


「わたしは釘をさしに来ただけなの」


 愛らしい笑顔でそう言った。

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