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箱をあけよう  作者: ひろりん
第4章:王城編
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書庫に行きます。

運んできた衣装は無事、それぞれの部屋の衣装部屋に納め、

昼食をステファンさんと一緒にとりました。


朝食が遅かったので、ちょっとだけ、お腹の容量が少ないです。

やっぱり、朝食はもっと早い時間に食べたいですね。

明日からは、お掃除を早めに済ませて、食べにいこう。



厨房側の使用人食堂には、ワポルさんや、ヨークさんもいましたので、

一緒に、食事をいただきました。


今日の昼食は、パスタのような、うどんのようなもちもちっとした麺を一度焼いて、

適度に焦げ目をつけてから、沢山の海産物が入ったクリームソースが掛かってます。

それに、薄くスライスしたチーズが乗っかって、散らしたハーブが絶妙です。

一口一口が、カリカリのとろとろです。

それに、具材のえびとイカの中に、ハーブと卵が練りこんであります。

この卵、ぷちぷち感が、なんだか数の子のようです。

手間隙かかった一品に、くうっと思わずスプーンをかじってしまいます。


甘味とやや苦味のあるねぎもどきを焼いて、バターと一緒に塗りつけられたパン。

そのパンと一緒に食べると、口の中で、海産物の風味にコクがでるようです。

なんて、絶妙なるコンビネーション。

素晴らしすぎて、言葉にもなりません。


ですが、私のお腹の容量は、それらすべてを食べつくすには、

足りませんでした。

本当に、心から、残念です。


このお昼は、ハンカチに包むことは、出来ないのです。

プラスチック樹脂製のお弁当箱のないこの世界。

こんなところで、わが身の敗退を悔やむとは。


「もう、食べないのか? 俺が食べてやろうか?」


キラキラした目で、私のお皿を見つめるワポルさん。

先日あげたサンドイッチでどうやら、餌付けしてしまったようです。

とっても、悔しいのですが、

私が食べられない分をワポルさんに、食べてもらいました。

捨てるのは、もったいないですからね。


「旨い。 ちょっと量が足りねえが、ここの料理は、天下一品だ。」


舌鼓を打ちながら、早々と私のお皿の料理を舐めるように綺麗に食べつくす

ワポルさんは、至極、嬉しそうです。

トムさんの料理のファンは、ちゃくちゃくと増えているようです。



厨房で、王様の食事の用意をしていたネイシスさんに会えました。

明日からの仕事の順番を今日のように、変えることについて、尋ねました。

そうしたら、しばらく考えていたようですが、あっさり許可がでました。

アデルさんは、絶対駄目だとティーおばさんに言ってたので、

無理かなって思ってたんだけど。


「問題ありません。 

 そちらの方が効率よく働けるようであれば、

 改善していくことに異議はありません。」


そう、言ってくれました。

もう、一安心です。

にこにこと緩む顔をそのままに、リネン室に向かいました。




これで、ティーおばさんに、喜んでもらえます。

そう、思ってリネン室にはいると、見たことも無い、

細い、日に焼けた藁のような赤茶の髪に、そばかすが顔全体に散っている

背の高い女性が、籠の中に手を突っ込んで、ごそごそしてました。


私が、入ってきたのを凄くびっくりした様子でした。

ちゃんとノックしたんですけどね。



「はん? アンタ、何じろじろ見てるのよ。

 用があるなら、さっさと言いな。」


そういって、側に置いてあった洗濯桶から、

柄杓で、私の足元に水をかけた。

彼女、口よりも手の方が早く動いてましたね。

これでは、よけられないでしょう。


本当なら、腰から下がびっしょりコースだったのですが、

ステファンさんが、後ろにいち早くひっぱってくれたし、

上手に、照が水の軌跡を変えてくれたので、被害はありませんでした。


「ステファンさん。 ありがとうございます。」


そして、照、ありがとう。


(ついでに、この嫌な子の頭から、水をかけてもいいかしら)


いや、そこまでしなくていいから。

どうどう。




「あの、ティーダさんは、どちらに?」


「知らないね。 ああ、もしかして、エプロンを取りにくる侍女って、

 アンタのことかい。 そこの籠に置いてあるよ。

 さっさと持っていきな。 私の仕事の邪魔するんじゃないよ。

 いつまでもそこにいると、今度は、そのすました顔に、汚い水をぶっかけるよ。」


何故に彼女は、そんなに怒っているのでしょうか。


(そんなことしたら、その汚い顔を二目と見られなくするわよ)


照。

売られた喧嘩を、そんなに簡単に買ってはいけません。



失礼な彼女の指で、示された先の籠の中には、

ティーダさんのお手製の作品が、出来上がってました。


エプロンは、白い布地を上手につかって、綺麗な振り振り裾が出来てました。

その上、布地はたっぷりとお尻が隠れるくらいにとってあり、大きな機能性のある

ポケットが両脇についてるので、とっても安心設計です。


手ぬぐいも、1枚といったのに、3枚もありました。

それに、いろいろな柄で作られていて、ちょっとだけお得かもの

3枚セットです。


手袋もきちんと出来上がって、私サイズです。

失くさないように、手袋には、紐が付けられています。

これは、使わないときは首から、提げてろってことですね。

掃除便利機能の一つかもしれません。


ティーダさんにお礼を言いたいのですが、

さっきから、あの女の人が睨んでます。


「早く出ていきな。

 うっとおしいんだよ。」


この女性、どうやら武器に濡れたモップを持ってきました。

床に叩きつけられたモップから、べちゃっと音がしました。



お礼を伝えるのは、明日にしましょう。

この人、なんだか、取り付く島もありません。

多分、カルシウムが全然足りてないんだと思います。

一説によると、カルシウムが足りないと、怒りっぽくなるそうです。



手ぬぐいに荷物を包み、手提げバッグ状にして提げ、

追い出されるようにして、部屋を出ました。

去り際に、振り返ったら、彼女の顔は般若のように怒ったままだった。



ドアを閉めた後、がらがらどっしゃん、と大きな音が中から聞こえ、

あの彼女の大きな唸り声が同時に聞こえた。


(ふん。 いいきみだわ)


照さん。

あれは、貴方の捨て台詞(仕業)ですか。

まあ、いいですけどね。

彼女は、大変に失礼な事をしたと思うし。


私の側にいたステファンさんも、かなり表情を険しくして、

彼女の態度と言葉に怒っているようです。



多分、彼女は可哀相な人なんだよ。


(そんなわけないでしょ)


たとえば、朝から、ご飯抜きで、誰かに怒られた挙句に、道で転んで、

お財布を落としたとかの天中殺のごときで誰かに八つ当たりしたかったのかも。


それが、私なら、怒るより前に、穴に落ち込んで泣いているだろう。

そう、それは本当に、可哀相だよ。想像だけで泣けてきそうだ。



「あの失礼な女性が、通いの女中ですか。

 誰が雇う許可をだしたのか、どこの誰なのか、

 早急に調べないといけないですね。」



おおう。

ステファンさんから、怒りの波動が流れてきます。

あの女性、こんなこと続けていたら、失職まで、秒読み段階です。

誰かが、教えてあげるまで、気がつかないのかもしれませんね。


私は、教えませんけどね。



照とステファンさんは、未だにぷんぷんと怒ってます。

私だって、怒ってもいいのですが、

先に怒られると、矛先が鈍ってしまったようです。

でもまあ、実質の被害は無いですし、彼女のことは忘れてしまおうと思います。



「書庫に行きましょうか。あそこのお爺ちゃん司書は、

 多分、良い人ですよ。」


ステファンさんの背中をぽんぽんと叩いて、早くいこうと促しました。


腕にかけた手ぬぐいバッグが、ゆらゆらと歩くたびにゆれ、

手ぬぐいの生地に描かれた赤い魚が泳いでいるようで、可愛いです。

私の為に作ってもらった手ぬぐいやエプロン。

それが揺れるたび、足が軽くなっていく気がしました。





東の回廊を抜けて、東の塔の脇へ歩くと、赤レンガの小道があります。

塔から、目と鼻の距離に、赤レンガで造られた、

二階建ての長屋風な建物があります。


これが、王室図書館ですね。

ここは、一般にも解放されている図書館です。

一般といっても専門書が多く、議員の人達や、国議会で働かれている人達が

もっぱら利用するらしく、少数人の出入りがあるだけです。


何故、王室図書館って呼ぶのかは、

何代か前の王様が、私財で建てた図書館だからだそうです。


図書館から、真っ直ぐに轢かれた赤レンガの道は、二本道。

一本は、王城に続く道。

もう一本は、国議会に続く道です。


中に入ると、ずらっと並んだ本棚が、所狭し置かれてます。

その本達を手に取ったり、立ち止まって読んだりと、

幾人の人が、ちらほらと入り口からでも確認できました。


建物中央に毛足の短い絨毯が真っ直ぐに敷かれ、その絨毯の途切れた壁際に、

大きなカウンターがあり、若い人が、何人も忙しなく働いていました。


私は、彼らに簡単な挨拶を交わして、

そのカウンターの奥の階段を上に上ります。


ぎしぎしと木がきしむ音をたてて、階段を上りきると、

2階あがってすぐの場所に、両開きのドアがありました。

ここが、書庫です。


2階は、基本、一般には公開してない本が置かれているところです。

ここを利用できるのは、王様の許可がでた人のみとなってます。

なぜなら、この図書館は、未だに、王様の私物という形ですからね。

代々の王が、次の王に譲る形で残っており、

国のモノではないのですよ。だから、よく見ると、

とある王様の日記なんてプライベートに近いものもある。


書庫のドアをノックすると、

中から、どこかで以前に見たことのある、年若な侍従さんが、出てきました。


「ああ、新しい侍女か、アデルの替わりだな。」


私は頷きました


「はい。」


彼は、何か、もごもごと言ってましたが、部屋の中から、

甲高い声が、彼の背中越しに聞こえ、彼の言葉を打ち消しました。


「おい、 早く入って、手伝ってもらってくれ。

 わしゃ、もう、天国に召されそうじゃ。」


なんと。

それは、大変です。


「どうぞ。 ああ、護衛の方は、ここまでです。

 中には、侍女か侍従しか許可が出てませんので、入れませんよ。」


侍従の彼は、ぶっきらぼうに、扉をステファンさんの目の前で閉めた。

それは、あんまりではないでしょうか。

なんだか、礼儀に反していると思うのですが、侍従にあるまじき行動です。


「おーい、早くきてくれ。 

 2人して、そこに立っておるのは、意地悪かの。」


きんきんと響く声が、聞こえます。

侍従の彼は、軽くため息をついた後、私の腕を掴んで、

中に入りました。


入り口には、大きな衝立のような壁があり、

外からはのぞけないようになっています。

だから、誰かが、どんなにドアから、中をうかがおうとしても出来ない仕組みです。

学校の職員室を思い出しました。あそこにもそういえばあったなあ。

単純だけど、効果的ですよね。



その壁をぐるりと回り、びっくりしました。

司書のお爺ちゃんが、20冊以上の本を積み上げて、

ぐらぐらと本のタワーを揺らしながら歩いてました。


そんなに持って歩くと、潰れちゃいますよ。おじいちゃん。


「おい、お前、上から3つ目の本を、あの爺さんからもらってきてくれ。」


名前も知らないけれど、侍従のお兄さん。

あれを見ていて、そんなことが言うんですか。

出来るわけ無いでしょう。


「落ち着いてください。 まずは、床に置きましょう。

 一度にこんなに沢山の本の持ち運びは、無理ですよ。」


お爺ちゃんに駆け寄りながら、本を支えます。


「なにを。 昔はこの倍の本を一度に持ち上げたもんじゃ。

 年をとったとて、まだまだ、これくらいでは、潰れるようなワシじゃない。」


いや、現実問題、つぶれそうですが。


目の前のお爺ちゃん。

ここの図書館のボスで、この2階の司書です。

司書を務めて50年以上というベテラン中のベテランです。


身長は、なんと私より低く、多分140cm無いくらい。

ちっちゃい子供くらいの背なのに、真っ白なふさふさした髭と髪の毛が、

白い毛玉を思い起こさせます。

ほわほわしそうな外見にもかかわらず、甲高い声できゃんきゃんと喚く姿が、

ポメラニアンを連想させます。


こんなポメお爺ちゃんがちょこまかと動くこの書庫は、

先日、マーサさんに連れて案内された時から、私のひそかなお気に入りだったりする。


床にそっと、本のタワーを置いてもらい、ポメお爺ちゃんには、5冊ほどを

渡して、先を促した。

そして、上から三番目の本をとり、

離れてみていた侍従の人に渡しました。

これが、急いで必要かもしれないからね。


「ああ、ご苦労。」


そういって、私の腕をぐいっと掴み、耳元で、ごそっとつぶやきました。


「黄色の57番、他選48のドだ。 間違えないように、シドに渡せ。いいな。」


はい?

何を言ってるんですか?

自分で渡せばいいでしょうに。

それより、シドって誰ですか?



首を傾げようとしたけど、それよりもいち早く、

カウンターの奥から、お爺ちゃんの甲高い声が再度しました。


「これを片付けてくれんかのー」


ちっ


舌打ちが聞こえました。

そして、そのまま、私を振り返りもせず、

逃げるように、部屋を出て行ってしまいました。



さっきのは、明らかに私に向かって言ったんだよね。

でも、何で?


「おーいい。 聞こえておるじゃろう。」


疑問がもやもやと雲のようにわいていたけど、

それより先に、お爺ちゃんが呼んでいる。


「はーい。 今、行きます。」









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