エプロンは似合いますか?
厨房に戻ったら、レナードさんに、真っ白のエプロンと
バンダナをもらいました。
エプロンは私の身長よりもちょっと長め。
バンダナは手ぬぐいのようです。
「前にいたコック見習いが使っていたものだ。
奴は背が高かったから、
お前にはちょっと長いし、大きいな。
腰の部分で調節するか、
適当に、切っちまってもいいぞ。」
手ぬぐいはどうするんだろう。
ラルクさんが、ぼそってしゃべった。
「汗が料理に入らないようにするためと、髪の毛が
料理に紛れ込まないように、しっかりとめていくこと。」
三角巾ですね。
レナードさんの手ぬぐいはねじり鉢巻きに、ラルクさんは
三角巾と、腰手ぬぐいになってます。
マートルはと目を向けると、
頭にぐるぐる、インド人巻き。
「ぷっ。」
笑ってしまった。
さっきまでそんな風に、してなかったでしょう。
さっきまでは、確か細い結い紐のようなもので、
後ろで括ってたと思ったけど。
「今度から、料理をつくるほうにまわれるんだ。
新人がはいって、下準備から開放されるからね。
でも、そうすると髪をしっかり、まとめるか、剃るかなんだ。」
なるほど、だから、ラルクさんもレナードさんもつるつるなのですね。
「マートル、剃る、髪?」
「いやだ。 絶対に剃らない。 彼女に嫌われるかもしれないじゃないか!」
なんと。
マートルには彼女が。
青春ですね。
「ちなみに、髪の毛が入っていたことが一度でもあると、強制的に剃るから。」
恐ろしいことをラルクさんがつぶやく。
マートルの顔がとっても青ざめている。
ハゲのマートル。
うん。一休さんの小坊主みたいで可愛いかもね。
「ラルクは、それで、俺が、剃った。」
レナードさんが胸を張って言い放った。
なんと。
言い放ちましたよ。
マートルピンチです。
ラルクさんは苦笑い。
マートルはすでに半泣き状態です。
だって、髪の毛だよ。
料理作っていると、入ることあるよね。
私も、自炊していて、炊飯ジャーの中のほかほか
ご飯に髪の毛が入っていたことありましたもの。
わざとではないし、気がつかないんだよね。
解決にはならないけど、一応言ってみる。
「マートル、もっと、髪、切る、短い、どう?」
角刈りとかにすれば、髪の毛三角巾で十分隠れると思う。
「メイも調理担当するようになったら、マートルと同じ試練が
待ち受けていることを忘れないように。」
がーん。
私、小坊主決定??
今、皆に、たださえペッソ(小僧)って呼ばれているのに、
リアル小僧だよ。
一応、女性なので小坊主は抵抗がかなりある。
何とか、髪の毛を残すため、この手ぬぐいを有効活用しなくては。
あとで、じっくり部屋に帰って研究しよう。
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今日の夕食はハンバーグと焼き野菜でした。
釜で焼いたホクホクの野菜と
ハンバーグの肉汁がとってもデリシャス。
私は、焼き野菜にするため、
次々と焼き皿に野菜をのせ、石釜にいれていく。
釜の温度が、下がらないようによく注意。
基本、釜はパンを焼くようなので、間口が
30chくらい。釜の入り口は3つ。
汗が、滴る。
手ぬぐいはすでにぐっしょり。
三角巾も、汗で張り付いて、気持ち悪いほど。
それから、朝昼と違うのは、
食堂の真ん中に大きな樽があること。
お酒です。
ワインでしょうか。
樽の下部にコルクの栓。
ルディが皆のジョッキをワインを注いでいた。
朝昼食事は皆、あっという間に食べ終わっていたから、
すぐ終わっていたけど、夕食は酒場みたいな雰囲気です。
大きな声があちこちからする。
よっぱらって歌い出す人もいるみたい。
音痴ですね。
夕食は時間制みたいで、
仕事が終わった部署ごとの割り当てみたい。
今日、甲板でみた人達がひとグループになってきていた。
でも、お酒が入ると、
席移動激しいです。
お酒だけ持って、移動するもので、
どこが空いている席がわかりません。
その上、皆、長くお酒を飲んでいるから、席が空きません。
どうするのかなって思っていたら、
後から来た何人かは、お酒と食事のトレーをもって食堂から
出て行きました。
甲板や他の場所で食べるそうです。
そうですね。ここ手狭になってきましたものね。
でも、甲板は真っ暗ですよ。
ご飯どころか、足元も見えませんよ。
「今日は満月だし、手燭があるし、ランプもあるから。
心配無いよ。」
ルディが教えてくれた。
焼き野菜も殆ど釜に入れ終わって、
盥に漬けておいた、お皿を洗いはじめました。
冷たい海水が気持ちいいです。
顔をジャブジャブ洗いたい気分ですが、
海水ですると、お肌がひりひりになることは
決まってます。
お皿を洗っていると、レナードさんに頼まれました。
「おい、メイ。 船長室に船長と他3人分を持っていってくれ。」
計4人前ですね。
はい。
船長室は洗濯物取りに行った時に、
教えてもらったので、覚えてますよ。
甲板の一番後ろの奥まった部屋ですよね。
高台だから見晴らしいいですよね。あそこ。
4人前は、ハンバーグが入った小さなおなべと
私が焼いた焼き野菜が入った木のボール、
焼きたての丸いパンが入った籠、
4枚のお皿とナイフをフォークセット。
それから、ワインが入ったビンがひとつ。
とてもじゃないけど一度には運べない。
まず、ワインとパンと食器。
次におなべとボールだな。
冷めたら美味しくないから、
釜の端っこに入れておこう。
急ぎ足で、船長室に持っていく。
船長室の扉の前で、持っていたものをそっと
扉の脇に置いて、厨房に引き返す。
満月で甲板の上は明るかった。
足元もしっかり見えた。
ところどころで赤ら顔の船員が
酔っ払って寝てたり、
ご飯食べたりしている。
それらを横目で見ながら、
おなべと木のボールをもって、船長室へ急いだ。
船長室の扉をノックした。
「食事、船長、入る、いいですか?」
中から、足音がして、扉を開けてくれた。
セランです。
「ご苦労だったな、メイ。こっちに持ってきてくれ。」
部屋に入ってすぐの中央部に、大き目の机がありました。
まず、そこにワインとパンと食器を並べます。
それから、焼き野菜とハンバーグを各お皿に並べて
行きました。
釜にさっきまで入っていたおかげで、
ほかほかです。
湯気が美味しそうですよ。
テーブルセット出来ました。
大変満足です。
セランは髭をなでながら、うまそうだってつぶやいてました。
そして、大きな手で、私の頭をなでてくれました。
おとうさんが褒めてくれているみたいです。
ところで、船長さんや他の方はどこにいらっしゃるんでしょう。
「今、船長とカースとバルトは、奥の部屋だ。もうじきくるさ。」
なんと、奥にも部屋があったんですね。
船長の声がしました。
どきどきしてきました。
私のエプロン姿は大丈夫でしょうか。
奥の扉が開きました。
船長とカースともう一人。バルトさんでしょうね。
出てきました。