貴方は男の子ですか。
お待たせいたしました。
とりあえず71話「久しぶりです。」より、大幅加筆修正いたしました。
気が向いた方は、読んで見てくださいね。
話の大筋は変わりません。
前よりも、わかりやすくなっているといいのですが。
それより以前の話は、毎日、ちょっとずつ修正していきたいと思います。
これからの投稿は3日おきです。
最後まで、長い目で読んでやってくださると嬉しいです。
王妃様のお世話をする為に、
王妃様の侍女の部屋へ入った私達を待っていたのは、
ここに本来なら居るはずのないネイシスさんでした。
「ローラ、本日、王妃様は王の私室です。
2人の朝のお支度は貴方に任せます」
ああ、本日も王妃様と王様は仲良しですね。
いいことです。
夫婦円満は世界平和の一番の近道って、昔、母が言っていた。
「わかりました。 でも、それを知らせるだけなら侍従で十分ですのに。
何も忙しいネイシスさん自らが来られなくても。
それとも何か他に?」
ローラさんが、いぶかしげにネイシスさんの顔を探り意図を尋ねた。
そんなローラさんの疑問を棚上げするかのように、ネイシスさんは私の方に向いた。
「メイさん。今日から、貴方にはアデルの仕事を引き継いでもらいます。
本日より、ローラとは別行動となります」
ネイシスさんが、はっきりと告げた。
グレーの髪はきちんと纏められ、襟首まである侍女服が、
相乗効果で硬すぎる雰囲気をかもし出していた。
「アデルさんの仕事ですか?」
侍女をしていたことは知っているけど、
どんな仕事をしていたかは全然知らない。
なにしろ、あったこともなければ顔を見たことすらないのだから。
「王様と王妃様の命令です」
まあ、上の意見がそうなら、仕方ないよね。
侍女って、王様や王妃様の専用の小間使いだもの。
従うのが仕事の内だってことはわかってます。
文句は言いません。
「待ってください。 アデルの仕事ということは、
メイに例の仕事をまかせると言うことでしょうか」
ローラさんが、ネイシスさんに、なにやら言いたい事があるようで、
ネイシスさんを部屋の隅に連れて行き、
私には聞こえないくらいに小さな声で内緒話を始めました。
内緒話って、内緒でするから内緒話だと思うんだけど。
こんな風にどうどうと内緒話をされたら、どういう態度を取って良いのかわからない。
ごにょごにょと話される内容は、所々に自分の名前が出てくるので、
自分とさっき知らされた新しい仕事の内容についてだと思うのですが、
2人だけで自分に背中を向けて話している様子は、
なんだか、のけ者にされたみたいで、ちょっと寂しい。
新参者だから仕方ないかあ。
何かをあきらめて肩の力を抜く。そして、大きく息を吸い込んだ。
これから、仕事頑張るしかないよね。
信頼と信用の壁は一日にして成らずだよ。
小さな一歩一歩の積み重ね、それが、これからの私の指針ですね。
なんとなく、ここに居る間の目標が出来たような気がしました。
話し合いが終わったローラさんとネイシスさん。
2人が背中をピンと伸ばして、改めて私と向き合いました。
「貴方には、話しておかなければいけないことがあります」
ネイシスさんとローラさんの態度から、勿論、そういってくれることは
わかってました。 だから、びっくりしません。
さあ、驚きませんよ。覚悟もばっちりです。
「アデルは、王様付の侍女でしたが、
私の補助とローラの補助も一緒にしておりました。
貴方に任せるのは、まだまだ不安要素も多いのですが、
王妃様からのたっての希望もありまして、
貴方をアデルの後釜に据えることになりました」
王妃様の?
何で?
王妃様と話をしたのは、一度きり。
それも挨拶程度だけ。
湧き上がる疑問に、首をかしげるしかない。
「本日より、貴方に塔の教会の掃除、及び、管理に関する事を
まかせることとなりました」
ああ、はい。 掃除ですか。
得意分野ですから、いいですよ。
なんだ、掃除か。
どんな難問を言われるのかと気を揉んでいた分、盛大にほっとした。
うん、掃除なら出来そうだ。
でも管理って、どういうことですか?
「管理とは、鍵を貴方に預けるということです。
塔の教会に続くドアの鍵は3つ。
一つは王妃様、2つ目は貴方、
そして、三つ目は、侍従長の管理の下で保管されます」
ああ、私の部屋の鍵と同じですね。
3つあるのが、普通なんですかね。
こくこくと頷いていた私を確認して、ネイシスさんは話を続けた。
「王妃様が訪れる前に、掃除やその他の用件を終わらせることが、
貴方の責任において、なされるようになります」
その他の用件?
「掃除だけじゃないんですか?」
ネイシスさんは、私の問いに深く頷いた。
「それを、今から教えます。
ですから、ついてきなさい。
ローラ、後を頼みましたよ」
ネイシスさんは、くるっときびすを返し、侍女部屋を後にする。
私も、その後を慌ててついていった。
ネイシスさんの後を小走りでついていく。
私のばたばたという足音が耳障りだったのか、眉を顰める。
だけども、歩くスピードを緩めない。
身長の差って、足の長さの差でもあると思うんです。
つまり、ネイシスさんと私の身長は優に20cm以上。
コンパスの差もそれくらいあるはずです。
だから、後ろをついていく私が、駆け足状態になっていることを
きちんと了承してほしいです。
競歩のような歩き方になっている私の息が、
段々あがってきた。
塔の教会のドアの前につく頃には、息切れをしてました。
「大丈夫ですか?」
ネイシスさんは、息も乱してない。
侍女って、体力いるのね。
「はい」
胸に手をあてて、呼吸を整えながら、
スカートの皺を伸ばします。
「これから、塔の内部に入ります。
入り口から、礼拝堂のある部屋までは、階段になってますので、
滑らないように気をつけてください」
ええ、今から階段ですか?
くっ、踏み台昇降運動だと思えばダイエットに最適。
負けるな、私。さっき、一歩一歩って決めたでしょ。
ネイシスさんは、スカートのポケットから、大きな鉄の鍵が2本、
鉄の輪で一纏めにされたものを取り出しました。
その鍵は、私の部屋の鍵よりも大きく、
全長が20cmくらいあります。
そして、鍵の持ち手の部分が、ハート型になっていて、
そのハートの部分の透かしが、丸型な鍵とダイヤ型な鍵でした。
「こちらの頭に丸が模られているものが、この入り口の鍵です。
もう一つは、塔の教会の部屋の鍵です」
鍵をネイシスさんに見せられて、説明を受けた。
「後で、この鍵を貴方に渡しますが、決して鍵のかけ忘れなど無いように。
十分に注意してください」
言われて思った。
鍵のかけ忘れ、うん、するかもしれない。
自分のアパートですら、鍵かけ忘れることしばしばあった。
鍵っ子に向かない習性なのかもしれない。
でも今は、そんなこと言ってる場合ではなかった。
「はい。気をつけます」
ネイシスさんに返事を返す。
その返事に軽く頷き、塔の入り口に丸い透かし模様がある鍵を差し込んて、回した。
ギィーガチャリ。
鉄が擦れあるような音が耳に障る。
どこか錆びているのかな。
油さしたら、最初のギィーは取れるかも。
重そうな木の扉、鉄の装飾が分厚い木の扉をもっと重くさせていた。
鍵を挿したまま、そのまま引っ張って、入り口を開けた。
そこには、先ほど教えてもらったとおり階段です。
その一段目を見て、それから、さらに上である塔の上部を外から見上げたが、
塔の天辺の部屋まで、遠いです。
「入りなさい」
ネイシスさんの後について、中に入ります。
そして、今度は、鍵を内側から差込、閉めました。
開けた時と同じような、錆びた音が塔の内部に軽く響く。
なるほど、鍵を開けたら必ず反対側からすぐ閉めるのね。
それなら、なんとかなるかも。
ネイシスさんは、カツカツとリズムよく、
靴の音を塔の内部に響かせながら上っていきます。
私も、その後を、石段をしっかりと踏みしめながら上へ上へと上ります。
ぐるぐると廻る螺旋階段に、さっき折角整えた息がもう一度あがりそうになった時、もう一つの木の扉にたどり着きました。
先ほどの入り口のドアとよく似た重い木のドア。
鉄の装飾がドアの周りを彩っているが、それは立派な鉄格子だった。
そのドアにダイヤの透かしの鍵を差込、回した。
ギィイイイィーガチャリ。
今度は、鉄がこすれて、甲高い音がした。
その高い周波数は耳に痛い。
そして、その鍵がささったまま扉を開けて鍵を引き抜く。
ネイシスさんは、さっさと中に入った。
「お入りなさい」
促されて入室した。
朝の光が、塔の天窓から塔の内部に差し込み、
壁に塗りこめられた漆喰の白さに反射して、
部屋の中は目が痛くなるくらいに明るかった。
「ここが、塔の教会の部屋です」
ネイシスさんは、そのまますたすたと歩いて、
部屋の一番奥中央の壁に設えてある拝殿に手を置いた。
「貴方は、朝と夕刻、王妃様がお使いになられる前に、
ここの掃除をしてください。そして、王妃様が必要とされるものを
用意し、お祈りの邪魔をしないように気を配ってください」
うん?
必要とされるものって、何?
「えーと、私は、アトス信徒ではないので、必要なものがわからないです。
何をご用意すればいいのでしょうか」
「まず、水とお花ですね。 朝、東の庭より、庭師が用意したお花をもらって、
この部屋にきて、左右の花いれに生けてください。
水は、その拝殿の横に小さな汲み上げポンプがあります。
そして、その金のゴブレットに水を汲み、聖書の横に」
ふんふん。
「掃除道具は、貴方の後ろの木箱の中です。
確認して、足らないものがあれば、言ってください。補充します」
後ろを振り返ったら、さっき入ってきたドアの横の壁際に
大きなロッカーのような縦に長い木箱がありました。
その木箱は長さが私の身長よりちょっと低いくらいです。
横は、私一人がようやく入れそうなくらいしか幅がありません。
まあ、道具入れなら、こんなものでしょうか。
下に引き出しが2段、そして、その上がロッカーのように開く様になっている。
近づいて、中を確認すると、バケツや箒、はたきに雑巾、
束子にモップと、まあ一式そろっているみたいです。
下の引き出しは、いろんな洗剤とワックスにクリーム。
そして、綺麗な雑巾と手袋が入ってました。
「多分、問題ないと思います」
ネイシスさんに返事をして木箱を閉めた。
「それから、拝殿に来られる王妃様が供物を持ってこられます。
それをその銀の大皿に載せて用意してください」
「え? 王妃様がお祈りの時も、私、ここにいるのですか?」
だって、お祈りって一人でしたいものかもしれないのでは。
懺悔室って基本一人だよね。
「そうです。 王妃様の祈りの邪魔をさせないように、
貴方がここにいる必要があるのです」
うん? えっと、私が邪魔をしないようにってことだよね。
それなら、余計に私がここにいないほうがいいのでは?
それを、口に出そうとしたら、聞いたことのあるような無いような、
私とネイシスさん以外の声がしました。
「邪魔って、言い方はないと思うけど。
要するに、君は、王妃がここにいる間、僕の相手をする。
それが、仕事だって、はっきり言ったらいいのに」
声は、部屋の上から降ってきました。
それと同時に、私の胸の上に下げた玉が、熱くなり、
私の肌にちりちりとした痛みを押し付ける。
もう、この反応には体が慣れたのだろう。
だから、別段驚きもせず、あわてずに熱が与える微かな痺れを受け入れる。
この熱と同時に来る4人目の相手の登場を予測できたから。
あの時見た、シオンそっくりな髪の長い女の子。
その声を追って上を見上げたら、
太陽のまぶしい光が目を眩ませ、声の主を判別できない。
だけど、壁に備え付けられた上の方の窪みに誰かが座っていた。
「そうですね。 後は、貴方から、説明していただけますか?」
ネイシスさんは、突然の声に驚く様子も無い。
「この子は、僕の好き勝手にしてもいいってことだよね」
その言葉に目を見開く。
な、なんてこと、言うんですか!
好き勝手って。
ネイシスさん、何とか言ってやって。
「そうです。 貴方の専属になりますので、お好きなように。
ですが、あまり無理難題を押し付けないように、お願いいたします。
この子は、王からの預かり者でもありますので、なるべくお手柔らかに」
そっ、そうです?
否定しないの?
それに専属って、今、はじめて知りましたけど。
「ふうん。 まあ、面白い内は、壊さないようにするよ。
ご苦労だったね。ネイシスは帰っていいよ。
後は、この子に直接話すから」
光の中に座っていたあの子は、
光の中から地上へと降りてきたようだった。
光がまぶしくて目を細めていた私の手に、ネイシスさんが鍵を押し付けた。
「この鍵は、絶対、彼には渡さないように。いいですね」
ぐっと、ネイシスさんの顔が近づいてきて、
小さな声で注意事項を言い渡しました。
「はい」
渡しませんよ。
だって、管理者として鍵を保管するのは、
私の役目だってネイシスさんが言ってましたからね。
ネイシスさんは、私の返事を聞いてボケットから予備の鍵を引き出し
きびすをかえして部屋から出て行った。
私を部屋に残したまま、鍵の閉まる音が外から聞こえてきた。
そして、カツカツとした靴音が段々と小さくなっていった。
この鍵は私の責任って言われたのよね。
無くしたら大変だぞっていうことでもあるのよね。
でもそうなると、本格的に考えないとね。
鍵を絶対なくさないように、
ポケットの中に紐や止め具を縫い付けること。
この侍女服、改造しても怒られないでしょうか。
私の部屋の鍵と、この塔の鍵、3つです。
かなり重いです。
さっき、考えていたことを早急に解決すべく
今晩、夜なべしようかしら。
この鍵を彼には渡さないようにってネイシスさんは言ってたけど、
服に止め具と紐をつけて、縫い付けてしまえば、
失くさないし渡さないになるわよね。
うん、そうしよう。
あれ?
何かが、さっき、頭の中で走ったような。
気のせい?
「ねえ、君、さっきから、一人で、なに百面相してるのさ」
その声に我に返ると、声の主は私のすぐ側に立っていた。
その顔はシオン坊ちゃんと瓜二つ。
もう一度確かめるように、上から下まで視線をさまよわせた。
改めて見ると、シオン坊ちゃんよりも、がりがりでかなり細い。
長い銀の髪が、あの時見たときのように肩から背中に流れていた。
それにしても綺麗な女の子だわ。
男女の違いを差し引いて考えても、顔立ちだけじゃなく、身長もほぼ同じで、
そして、声もよく似ている。
紫の目の色は、シオン坊ちゃんより暗い配色だ。
肌色は白く日焼けなどしたこと無い病的に白い肌。 血管が透けて見えている。
なんとなく、薄幸の美少女ってタイトルがつきそうな容姿だ。
私には、ほぼ無いものばかりがそろってる。
じっと見ていて、その細い喉のところで目線が止まった。
その細い喉に見えてるのは、もしかして喉仏ですか。
ということは、この子は。
さっきのネイシスさんの注意事項が頭に蘇る。
(この鍵は彼には渡さないように)
「えっと、男の子ですか?」




