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箱をあけよう  作者: ひろりん
第4章:王城編
80/240

あれはナンでしょうか

このお城に来たら、安全確実ってことだったのに。

この確実性、かなり揺らぎがあります。


多分、某テレビショッピングの満足度98%っていう、

過大広告にも匹敵すると思います。


忠告文は、私の部屋に直接入れられていたということは、

入れた人は、お城の中にいる人物ってことになる。


誰だかわかりませんが、同じ屋根の下に、まあ、

随分と広い屋根の下ですが、脅迫犯がいるのは、

ちょっとだけ、気分が悪いです。


ですが、私の小さな脳みそでは、解決方法は見つけられないので、

誰かに相談したいと思います。





「で、僕に相談に来たってことか?」


シオン坊ちゃんは、やけに嬉しそうです。

何ででしょう。


三時のおやつの時間にシオン坊ちゃんの所に言って、

例のあの紙について、話すことにしました。


私は、きっぱりと首を振ります。


「いいえ。セザンさんとマーサさんに、ご相談しようと思ったら、

 お2人とも、こちらにいらしたので、それならここでと思っただけです。」


只今の時間は午後三時。

シオン坊ちゃんの休憩の時間です。

シオン坊ちゃんは、折角なので、休憩に勤しんでください。


家庭教師のライディスさんは、セザンさんの誘導で、

現在、厨房で、超甘い特製おやつを食べていると思われます。


「用件はわかった。

 だが、何故、部外者が、ここにいる。」


シオン坊ちゃんの目線が、私のすぐ後ろを捉えます。


「ステファンさんです。

 その紙を見られたので、話しました。」


シオン坊ちゃんは、ステファンさんを、むうっと睨みつけてます。

その顔をすると、綺麗な可愛い顔が台無しですよ。


「シオン様、こちらの方は、王の信頼厚き公爵のご子息です。

 また、ご本人も、実力を伴った、信頼できる方とお見受けいたします。」


セザンさん。

ナイスフォローです。


「誓って、口外はいたしません。」


ステファンさんの、絶妙なるタイミング。

阿吽の呼吸というものですね。


シオン坊ちゃんは、ぐうの音も出ませんよ。


「わかった。」


まだ、むっとした顔のままですが、どうやら了解したようです。



「それで、セザン、解決方法だが、

 部屋を変えるというのはどうだろう。」



シオン坊ちゃんは、得意げに、人差し指を立てて、意見を述べます。



「どの部屋に変えるのですか?」


引越し?


「僕の侍女部屋の隣が開いてるだろ。

 そこは、どうかな。」


シオン坊ちゃんの側?


「失礼ながら、意見を述べさせていただけますか?」


ステファンさん、さわやかに白い歯を見せて、発言します。


「なんだ。」


「部屋を変えるのは、解決策にはなりません。

 それどころか、周囲に妙な疑惑を植えつけることになります。

 それに、シオン様の周囲に彼女を移動させると言うことは、

 貴方にも危険が及ぶかもしれないということです。」


まあ、言われて見れば、そうですね。

シオン坊ちゃんの人差し指がへにょんと曲がります。


「そうですわね。 ステファン様のおっしゃるとおりです。」


マーサさんが、暖かい紅茶を人数分入れてくれたので、

ステファンさんが私の隣に座れるように、

横にずれました。


ステファンさんは、にっこりと笑って、

私の横に腰を下ろしました。


「現在、王妃様の周りには、大勢の警備のものが配置されてます。

 今のまま、様子を見て、昼間は必ず誰かと居るようにする。

 夜は、鍵をしっかりかけて、夜警のものに、部屋の前を気にしてもらうように

 すれば、当面は、大丈夫なのではないでしょうか。」


そうだよね。

実際、脅迫文だけじゃあ、動けないんだよね。

犯人の名前が書いてあるわけじゃないしね。


「しかし、何も策を講じないのでは……」


シオン坊ちゃんが、戸惑って言葉を詰まらせてます。


セザンさんが、間髪を入れずに、その言葉尻を捉えます。


「策は、今、出来るだけのことをいたします。

 まず、メイさんの部屋の鍵ですが、本人がお持ちのものが一つ。

 そして、お城で管理しているものが2つの計3本です。

 本人がお持ちの鍵以外は、両方共、私が管理いたしましょう。」


おお、合鍵。

あるんですね。

なら、鍵なくしても、セザンさんって泣きつけに行けばいいのね。


(なくしたら、犯人の手に渡ると思うけど)


ああ、そっちがあった。


失くさないように、どこかに結び付けておこうかな。

首から提げるのは、もうすでに掛かっているから重いし。

スカートのポケットじゃあ、いつ落ちるかわからない。



そうだ。

近所の子供のお母さんが、子供のズボンのポケットに

紐を縫い付けて、その先に鍵を結んで置くって聞いたことがあるよ。


私もしようかな。

鍵っ子って、大変だったんだね。

今、しみじみと思うよ。


「そして、ステファン様、

 夜警の方に、メイさんの部屋の前を通る順路を

 お知らせしてくださいますか。 真相は知らさずです。」


ステファンさんは、紅茶をすっと飲み干し、

優雅なしぐさでカップを机の上に戻した。



「了解しました。」


さらりと髪が揺れます。

レヴィ船長の髪は、余り長くないので、こんな風には揺れないのですが、

もし、伸ばしたら、ステファンさんのような、さらさらになるのでしょうか。


「それから、明日から、彼女の側に私がついていることにいたしましょう。

 上司には、あまり説明せず、そうなったとだけ伝えておきますので、

 そちらのお口添えをお願いいたします。」


そちらってどちら?


「承りました。 私から、王にお伝えしておきます。

 後は、いつもどおり変わらずということで、よろしいでしょうか。」


セザンさんは、すっかりとわかった口調です。

なんだか、蚊帳の外って感じですが、

作戦会議は、とりあえず終わったようです。



さっきのセザンさんの言葉は、

ステファンさんが、私の側にいることで、お仕事さぼってるって

思われないように、根回ししてくれるってことだよね。



それなら、よかった。

ステファンさんは、レヴィ船長の弟さんだけあって、

気遣い抜群な本当に良い人だ。







三時のお茶を終えて、侍女仕事に戻ります。

ですが、ローラさんが、侍女部屋にも、

王妃様の側にも居ません。

どこに行ったのでしょうか。


もしかして、厨房かな。

疲れて、甘いもの食べたくなったのかも。

ライディスさんと一緒に、超極甘おやつを

食べているのかもしれないよね。


厨房まで、行ってみることにしました。


ローラさんを、探して歩いていたら、

以外な人を見かけました。


ネイシスさんです。


いつもなら、王様の侍女として、背中をぴんと伸ばして、

堂々と歩いているのに、今日は、焦っている様子で、

端を静かに滑るように、廊下を小走りで抜けていきました。



もしかして、ローラさんに何かあったのでしょうか。

ひとまず、後を追っていきました。


ネイシスさんに、追いついて、声を掛けようとしたら、

そこは、王妃様が毎日入る、塔の教会の入り口。


あれ、あそこって、王族しか入れないのではなかったの?


ネイシスさんは、周りを伺いながら、

そっとドアを開けて、中に入りました。


さっき、王妃様は、執務室にまだ居たよね。

お仕事、邪魔できないから、そっと見るだけだったけど。


ネイシスさんは、王妃様に頼まれて、

何か忘れ物でも取りに来たのでしょうか。



中廊下で、ネイシスさんを待っていたけど、

なかなか出てこない。

忘れ物が、なかなか見つからないのでしょうか?



ドアが、やっと開いたと思ったら、出てきたのは、

なんと、ローラさん。


あれ?


どうして、ローラさんが?

ネイシスさんは?



頭が、ぐるぐる混乱してきました。

ネイシスさんは実は、ローラさんって、

そんなはずないでしょ。



ローラさんは、私のいる方に向かって歩いてきました。

私は、まだ混乱してましたが、

ローラさんに、声を掛けました。


「ローラさん、どこに行ってたんですか?

 探したんですよ。」


いきなり声を掛けられたローラさんは、びっくりしていたけど、

私だと確認して、ほっと息をついた。


「ああ、メイなの。

 よかったわ。 ちょっと、急ぎの用があって、

 この先に行ってたの。

 たいしたこと無いわ。」


この先って、塔の教会しかないですが。


「この先ですか?」


ローラさんは、私の言葉に、はっと何かに気がついたみたいで、

途端に、目をうろうろさせながら、言葉を濁してます。


「ええっと、この先ではなくて、えっと、あっちだったかしら。」


どっちでしょう。

ローラさん、ごまかすの下手ですね。

なんとなく、親近感を覚えますよ。


じっと、ローラさんを見つめていたら、

ローラさんは、はあっと大きなため息をつきました。


「とりあえず、今は、説明できないわ。

 明日にでも、侍女頭のネイシスさんに、話すから、

 それまで、待ってくれる?」


王妃様の忘れ物は、そんなに見つからない

失せ物ということでしょうか。


探し物をするには、人数でかかるのが一番早いですから、

私も手伝いましょうかって言ってみようかな。



ローラさんに背中を押されて、塔の教会を後にしました。









その晩、夕食の後、王妃様はやっぱり

塔の教会に行かれたけど、

いつもと全く同じでした。


多分、王妃様、黒いベールなんかつけているから、

転んで、落し物しちゃったんですよ。


今度から、白いベールにしたらどうかな。

明日にでも、ローラさんに言ってみよう。


そう思って、塔を見上げたら、

塔の一番上、多分、天窓のあるあたり、

何か白いものがヒラヒラしてます。

旗ではありません。

この国の国旗は、濃紺にピンクのイルバリーの花を象ったもの。


あれは、ナンでしょうか?


洗濯物でも干しているのでしょうか?

でも、外は、真っ暗です。

雨は降ってませんが、

洗濯物は夜は、部屋干ししたほうが良いのではないでしょうか?




********





今日もいろいろあったので、早く寝ることにしたいと思います。

お風呂に入り、しっかりと鍵を閉めて、

勿論、ピンクのナイトキャップを被って、

布団を被りました。


心配ごとはいろいろつきませんが、

どんなに考えても、朝は来るのです。


しっかり寝てないと、お仕事中に昼寝でもしたら

ものすごく怒られるでしょう。

ええ、絶対。



頭は、もやもやしてますが、

とりあえず、目先は睡眠です。


そう思って、羊を数えていたのですが、

珍しく、眠れません。


照は、本日は、先に寝ました。


私に何かあっては大変と、あれから、

随分と気を張っていたから、疲れたのでしょう。


私も寝ようと目をつぶりますが、

余計に頭が冴えてきて、ぎゅっと目を閉じていたら、

目じりの筋肉が痛くなってきました。


眠れない。

右に左にと寝返りを打ってみるが、眠気は訪れない。


オカシイ。

寝つきのよさには自信があったのに。



真夜中になり、窓の前の枝にふくろうが止まっているらしく、

ほうほうと鳴いてます。

眠れないので、聞いてみることにしました。


でも、ふくろうの言葉は、ふくろうの家庭の事情ではありませんでした。


「ああ、可哀相にね。」


「おお、本当に可哀相だ。」


何が可哀相だと言うのでしょう。

眠れない私のことでしょうか。


「ああ、優しい子なのに。」


「おお、賢い子なのに。」


違うな。

自慢じゃあないけれど、優しい子は10歩譲って、ありえても、

賢い子って表現は、私に使われたことない。


「ああ、もうじきだな。」


「おお、寂しいことだな。」


何かが、もうじき来るから、寂しいの?


「ああ、片割れは変わらない。」


「おお、騙され続けている。」


片割れ?

騙される?


なんだか、随分物騒だ。


「ああ、残りわずかだ。」


「おお、良い風を送ろう。」


風?


その言葉で、さっきの塔の上の白いものが

ふっと、脳裏に浮かんだ。


洗濯物が乾くようにって事かな?


バサバサッ


羽ばたきが、窓の外からして、ふくろうは去っていった。


私は、目を瞑ったまま、さっきのふくろうの言葉を思い出していたけど、

駄目です。 さっぱりわかりません。


今朝のおしゃべりな鳥達みたいに、

しっかりと主語を入れて話して欲しいものです。


つらつらと考えていたら、いつの間にか

眠っていたみたい。


意識が、ふっと奥に沈んでいった。








「きゃあああああーぁぁぁぁ。」


甲高い、空気も切り裂くような悲鳴が、あたり一体に響き渡った。


私は、その悲鳴で、がばっと体を起こした。


なに?

何事?


きょろきょろ見渡したけれど、そこは、いつもの私の部屋。

いきなり体を起こしたから、頭がくらくらする。


今の悲鳴は、夢? 幻聴?


そうしたら、ドアの外、

廊下をバタバタと走る音が随分している。


窓から、外をみると丁度夜明け前。

空が白んでいる。


いつも、大体このくらいに起きているから、

知っているけど、この時間は、とっても静かだ。


眠っている人を起こさないように、

皆がそうっと行動するからかもしれないが、

ほとんど外からは、音らしい音はしないのだ。


それなのに、なんだか、外が騒がしい。

さっきの、悲鳴は本物?



私は、ベッドの外に出て、顔を洗い、

侍女服に急いで着替えた。





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