私の印です。
ルディと一緒に洗濯小部屋兼物置にいきました。
案の定、籠に高くつまれた乾いた洗濯物。
取り込むときに籠に適当に突っ込んだんだろう。
くしゃくしゃです。
服は木綿や麻などの結構ごつめの
生成りの服がほとんど。
中には、木綿の手触りだけど、
仕立てのよい服がちらほら。
ルディは一枚をとりだして、私の前で
広げました。
「メイ、見て。」
服の裾に、これは刺繍ですか?
名前のような絵のような刺繍がありました。
「これで、服の持ち主を特定するんだよ。
だから、服の裾が見えるように、たたむんだ。
それから、船長と副船長、甲板長、船医の印を
覚えておいて。
これが、そうだよ。」
船長は黒の糸で、一文字 かな?
副船長は青の糸で 一文字。 ちょっとまるっこい。
甲板長は茶色の糸で、一文字。 模様みたい。
船医のセランは赤の糸で、一文字。 三角かな?
そういえば、文字はまだ教えてもらってなかった。
わかんない。
「ルディ、これ、なに、読む?」
「船長のはレヴィウスのレ、
副船長のはカースのカ、
甲板長はバルトのバ、
船医のセランは医者のマークだって言ってたよ。」
へえ、こんど五十音表を作成してみよう。
よし、覚えましたよ。
彼ら四人の服を抜き出しました。
レヴィ船長とカースの服は
仕立てが良いですね。
同じ木綿でも、良いものを使っているのでしょう。
手触りが全然他とは違います。
じっと、印を見ていたら、
ひとつ、気になりました。
「私、メイ、印、なに?」
私も洗濯物に刺繍しなくちゃ駄目だよね。
ルディは、少し笑って、たたむ手を止めた。
「メイのメはすでに使われているから、他のマークがいいかもしれないね。
何か、使いたい絵柄とかある?」
簡単でなにかないかな?
「星、いいかな?」
「星のマークだね、いいと思うよ。
どんなマーク?」
ルディの手のひらを取って、
五つ角の星のマークを指で描いた。
「じゃあ、仕事が終わったら、
ここにある好きな糸で、その印の刺繍するといいね。」
裁縫箱の下の段を引くと、
色とりどりの糸が見つかった。
ルディは服を、手早く4つ折にしていきます。
4つ折が正しいのでしょうか?
ためしに、日本にいたときのように、
服の襟が正面になるように、
左右を折りたたみました。
違うのは、裾を見せるように、
襟を内に折り込む様にして3つ折。
「ルディ、これ、駄目?」
「メイ、器用だね。 どっちでもいいよ。 着れればいいし。
あと、ボタンは留めないでね。
着るときにいちいちはずすのが面倒だから。」
あら、あんなにてきぱきしてるのに、
めんどくさがり屋なのですね。
男の人ってそうなのかな。
4つ折だと手の部分が簡単に
出てきちゃうんだよね。
日本風アレンジで、どんどんたたんでいく。
それを、ルディが、順に籠に詰めていって
最後にレヴィ船長の服を一番上に置いた。
「最初に。レヴィウス船長に持っていくから、一番上だよ。
その下は副船長と甲板長、船医。
それからは、部屋ごとに分けていくんだよ。
メイには、船員の名前も、誰がどれの印かも、
まだわからないだろう。
だから、他は、裾の印が見えるように、
たたんでおいてくれれば、あとは僕が持っていくから。」
ふむふむ。
ルディのはあるのかな?
「ルディ、ある?」
「ないよ。3日前に洗ったから。
普通は一週間に一度くらいだよ。」
そうだよね。
水は貴重だし、毎日洗濯だししたら、
洗濯の量はこんなものじゃないよね。
今更ながら、ここは陸地じゃないいんだ。
海の上って実感してます。
「時には、刺繍がほつれてしまっているものがあるんだけど、
それは、洗濯前に確認することで、直せるから。
メイが繕い物をするときに一緒に点検してね。」
なるほど。
「うん。 わかった。 点検する。」
ルディは洗濯籠を持ち上げて、出て行った。
私の服は、セランが用意してくれたものだけど、
裾にはまだ印が入ってない。
新品だったのかな?
私は、裁縫箱から緑色の糸を取り、
私の服の裾に星の刺繍をいれた。
レヴィ船長の瞳と同じ緑で。
ちょっと、うふふって感じ。
ファン心理かなあ。
マートルに感化されたのかも。
それから、夕食の支度をするために
厨房へむかった。
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