招待されます.
朝食が終わったので、汚れた食器を持って台所に移動しました。
主にこの家の台所は、お湯を沸かしたり、
温石を熱する時しか使われてなかったようで、
ぱっと見た感じでは、新品同様の食器や焦げ目の全く無い鍋が、
綺麗に棚に陳列していた。
お皿を洗って拭いて、棚に載せながら位置を覚えていく。
そうしていると、だんだんこの台所に愛着がわいてくる気がした。
船では、どこにどのお皿があるか、
鍋の位置から調味料の位置まできっちりと覚えていた。
そうして覚えた厨房は、私の居場所の一つとして、
私の中で認識されていた。
そんな風に、この家の台所も私の生活の一部になるといいなあ。
そう思いながら、鍋底の焦げを擦って落とした。
こんな作業も手馴れたものです。
何しろ船では、ほぼ毎日してましたからね。
残った食材での料理をしていたレナードさんが、
ねじり鉢巻きを解きました。どうやら一息ついたようです。
基本、レナードさんは余りご飯再利用のプロです。
それが、船のコックの常識だそうです。
船でも、前日の晩のスープが、
翌日のソースに変身していることはいつものことで、
それがとっても美味しいのは言うまでも無いことなのです。
ちなみに、本日の再利用の献立はサンドイッチでした。
具沢山の野菜たっぷりです。
大皿の上に、所狭しと乗せられてました。
レナードさんに、今日の料理のお礼をいいました。
本当に美味しかったこと、
そして、そこにあるサンドイッチが、とっても楽しみなことも全部です。
「ああ、メイの顔を見ればよくわかる」
レナードさんは、つぶらな瞳を嬉しそうに細めて、
私の髪を卵をかき混ぜるようにくしゃくしゃにします。
そのしぐさに懐かしさを覚えました。
船を降りてから、そんなに経ってないのですが、
なんとなく船での生活が恋しくなってきたようです。
レナードさんを見送った後、セランの部屋に行きました。
もちろん、手の傷の診察の為です。
傷口は完全に塞がっていたし、それほど痛みを感じなかったので、
包帯を取ってしまってるんです。
だって、お皿洗うのに邪魔でしたし。
お鍋磨くのも包帯汚れちゃうので。
包帯の解かれた私の手をみて、セランが再び、
大魔神のように怒ってました。
ですが、無事、抜糸となりました。
「本当に、治りが早いな。
それに、指の神経に問題が無くてよかった」
そういいながら、縫われた糸を切ってくれました。
糸の跡が、微妙に盛り上がって触ったらぼこぼこします。
手のひらをさすっていたら、
セランが軟膏をすりすりと塗りこんでくれました。
すうっとする軟膏が、とっても気持ち良いです。
「傷は完全に塞がっている。
今日は顔色もいい。
貧血もなさそうだし。まあ、問題ないだろ。
今日、気分が悪くなければ、店に行ってもいいぞ」
ほっとしました。
許可がでましたよ。
ミリアさんにちゃんと、今日行きますって言える。
よかった。
「ただし、無理だけはするな。
人間、気力で何とかなることはあっても、体がついていかないことはある。
疲れたと思ったら、10分でも5分でもいいから休憩を取れ」
セランは、真剣なお医者様顔で、
私の頭をガシッ掴み、上を向かせて真正面から言いました。
「はい」
私もそのまま、真っ直ぐに視線を返します。
「よし、良い子だ。 余り父親に心配かけるな」
そうでした。
セランは戸籍上、父親でした。
それに、こんなやり取りは親子の会話ですよね。
「はい。 お父さん」
口がつるっと滑りました。
セランの目が、一瞬、きょとんとしました。
あっけに取られたのでしょうか、固まってしまいました。
でも、自分で父親と言ったのですよ。
しばらくして、セランの目が細くなり、
目じりに皺をよせて微笑みました。
左手は腰に、右手は顎髭をせわしなくさすってます。
「いいもんだな。 娘かあ、実感したなあ」
その言葉が嬉しくなって、えへへと笑っていたら、
いきなりギュッと抱きつかれました。
その腕の強さに息が詰まりそうになり、
ぐえっと蛙のような声が出てしまいました。
部屋の外で、待機していたカースが、その蛙声を聞きつけて、
入ってきたときは、虫の息だったに違いありません。
セランお父さん。
貴方の新しい娘は、三途の川を渡りそうです。
「セラン、メイが死にます。
医者が殺してどうするんですか」
カースが、セランから引き剥がした時、
私はすでに白目を向いていたようです。
覚えてないんですが、
乙女として、これってアウトですかね。
セランから、無事に許可もでたので、
さあ今から家の掃除に、箒とちりとりを持ってまわります。
以前に決めたとおりに、恩返しをこつこつと始めたいと思います。
朝ごはんで、豪華充電されたので、エネルギー有り余ってます。
本当にレナードさんのご飯は十万馬力を呼び起こしそうです。
頭に髪を覆うように手ぬぐいを巻き、袖をぐいっと捲り上げます。
居間と食堂、廊下と玄関。
掃除するところは沢山あります。
今、掃除は各部屋、個人個人でしている状態です。
だから共同部屋は、今現在は誰も手をつけてません。
そして、この家は基本土足仕様なので、土ぼこりが凄いのです。
玄関からの埃がかなり、玄関マットにたまって塊で見えるくらいです。
掃除しがいがあるでしょう。
玄関付近のドアや窓を全部開けて、上の方の埃を棒と布で作った、
即席はたきで叩き落とし、箒で一斉に掃いていきます。
埃でむせてきたので、
口の周りに手ぬぐいを巻きなおし、
どんどん掃きだしていきます。
玄関ポーチ横に小さい穴を掘り、
そこに集めた埃と砂を落としていきます。
掃き掃除がすんだら、濡れた雑巾に水の入ったバケツを持って、
順繰りに拭いていきます。
玄関周りの飾り棚、居間の椅子と机の足、窓際と窓枠、
置いてある家具の足周りを中心に拭いていきました。
お掃除の方法の幾つかは、居間にいたカースと
レヴィ船長に教えてもらいました。
まず、暖炉の灰をすくって、暖炉横に置いてある金属の箱に移し変えます。
綺麗になったら、暖炉の石積の上に新しい薪を置いておくこと。
灯り取りにたまっている、油のすすの掃除とランプの掃除。
油を容器に移し替え、すすで汚れた部分をふき取り、再度油を注ぎ、
短くなった芯を付け換えます。
そして、蝋燭の蝋が解けてたまっているのを、
フォークのような二股の道具を使って回収し、
一つの袋にまとめます。
回収した灰と蝋はあとで業者が取りに来るそうです。
ですので、裏の納屋に置いておきます。
これらは再利用されて、船のドックとか、いろいろな設備で
別の用途で使われるそうです。
蝋は、ロープの上や麻紐に塗られたり、
灰は固めて、海水をろ過するタンクに設置されるそうです。
エコですね。
無駄が無いのはいいことです。
貧乏人としては心が痛みません。
次は窓枠と窓のガラス。
乾いた布と濡れた布を交互に動かして掃除していきます。
頑固な汚れは、レナードさんにとっておいてもらった、
オレンジのような果物の皮を使います。
オレンジの皮で擦ってから、濡れた布、乾いた布と順に拭くと、
綺麗に落ちるのです。
船にいるときに、ルディから教わったのですが、
ガラス磨き洗剤より綺麗に落ちるかも。
難点は、皮がすぐにぼろぼろになることくらいかな。
きゅきゅと音がし始めたら、はあって息をかけます。
白く曇ったガラスの窓を見てると、子供の頃を思い出しました。
三角傘や口に出せない言葉を、指で書いちゃったりしたよね。
「レヴィウス」「大好き」とか。
キャー、言ってみたいかも。
興奮して書いた後をごしごし擦っていたら、
そこだけやけに綺麗になりました。
そういえば、神社の境内に落書きしている人達、
いるんだよね。 あれ、落とすの大変なんだよ。
こんな風に、ガラスで遊ぶくらいにしてくれればいいのに。
全ての窓掃除が終わったので、階段をバケツを持って降ります。
二階に上がるときは基本空なので軽いバケツですが、
真っ黒の埃まみれの汚い水は、洗面台に流したくありません。
汚い水がいっぱい入ったバケツを持って、
下りは結構大変です。
えっちらおっちらと運んでいたら、
レヴィ船長が、すっとバケツを持ってくれました。
「庭だな」
私の行動を見守っていてくれたんでしょう。
優しいなあ。
そんな気遣いされると、どんどん好きになっていきます。
レヴィ船長は、バケツをさっさと持って降りてくれました。
はっ
もしかして、さっきの一人で興奮していた窓拭き
見られたかしら。
うう、恥ずかしいかも。
自分の妄想で顔が一瞬で沸騰し赤くなりました。
綺麗になった居間で、カースが、ばさばさと大きな海図や地図、
他の書類を広げてます。
机の上には収まりきらず、すでにソファの上や床にも落ちてます。
2人はここで、これからの航路や
仕事の内容などを話し合いしてました。
その内容は、3ヶ月後に出航すること。
そして、行き先と寄港地、船員のこと、交渉相手のことなどなど。
話の内容にちょっぴり落ち込みました。
だって、わかっているのです。
次の航海には、私は、あの船には乗れないだろうって。
2人が口に出して言うわけじゃありません。
でも、なんとなくわかります。
男の人だけの船に、女の私を乗せるわけにはいかないってこと。
この街で生きていけるように、いろいろ手を打ってくれたこと。
セランの娘にしてもらったり、身分証明書を作ってもらったり。
自分達の出航の時までに、すべて終わらしてしまおうと
足早に手続きされていたことも。
それらはすべて、自分たちがいなくなってからも、
私が困らないようにしてくれている事だって。
本来なら不審者として警邏に突き出され、
不法入国者として扱われても仕方ないはずなのに、
私は、彼らに守られ、こうして、今後のことまで手配してくれる。
その優しさが嬉しくて、でも同時に
やがて来る別れが寂しくて、泣きそうになります。
ああ、駄目だ。泣いても時間は待ってくれない。
解っているでしょう。
時間は誰の上にも平等なのだから。
私は、目を瞑って深呼吸して、気を切り替えます。
まだ、三ヶ月一緒にいられるんだから。
その時間を大切にしよう。
うん。
いやな考えを振り切るように、頭を再度ぶるぶると振りました。
次は、庭に出て、納屋から外用の箒と熊手を持って掃き掃除です。
この庭は、落葉樹が殆どなので、落ち葉かかなり落ちます。
熊手でそれを一つにかき集め、箒とちりとりで回収し、
ほっていた穴に落としていきます。
そして、庭の備え付けてあったポンプからバケツに水を汲み、
ひしゃくで庭に水をまき、最後に穴を土で埋めました。
あらかた終わったら、太陽の位置はかなり真上です。
今、10時くらいでしょうか。
ほうっと一息つき、中に入りました。
掃除が終わったら、なんとなく気持ちがすっきりしました。
それに、綺麗になった部屋を見ると、
一仕事終えたって、満足感みたいなものがあります。
居間では、真剣な顔で、
カースとレヴィ船長が、書類を片手に難しそうな顔をしてました。
まだまだ、終わりそうにありません。
私は、台所に行き、竈に火をつけてお湯を沸かし、
紅茶を用意しました。
レナードさんが帰るときに、私が気に入ってるからと
ミルクリームをすこし残してくれてました。
上の戸棚をあけると、ビスケットのようなものがあったので、
それにミルクリームをはさんでお茶請にしました。
2人に、紅茶とビスケットを持っていき、声を掛けました。
「すこし休憩しませんか?」
2人が、机の上を片付けてくれたので、その上に紅茶を置きました。
そして、3人で紅茶を飲みながら、はふうと息をはきました。
「部屋が、明るくなりましたね。
ご苦労様です。メイ」
カースが窓を見て、褒めてくれました。
「本当に、ちょこまかと良く動くと感心していました」
ちょこまかとって、その表現は微妙です。
でも、ミルクリームをはさんだビスケット。
結構沢山用意したのに、2人とも綺麗に完食してくれました。
甘いもの、好きだったんですね。
朝食のとき余り食べてなかったのは、私に遠慮してくれてたのかな。
レナードさんのご飯が美味しすぎて、皆のことを気遣う余裕ないって
女性としても反省すべきだよね。
次回から、美味しいものは、皆で分けれるように気を配ろう。
うん。反省しました。
正午近くになると、オーロフさんとミリアさんが尋ねてきてくれました。
部屋で出迎えて直ぐに、ミリアさんが私に向かって
いのししのように突進してきました。
「メイ。 貴方。もう起き上がって大丈夫なの?
怪我は? 体調はもう良いの?」
矢継ぎ早に質問され、肩をがしっと掴んで揺さぶられました。
あう。頭シェイク。
「おい、ミリア、落ち着け。
それじゃあ、答えるものも答えられないだろう」
オーロフさんが、ため息をつきながら、
ミリアさんの腕を押さえてくれました。
私は、かくかくする自分の首を
手で後ろから押さえながらも返事を返しました。
「ミリアさん、もう大丈夫です。
怪我も体調も問題ありません。
今日から、またお店に働きに行きます」
ミリアさんの心配そうな顔に、大丈夫ですと
満面の笑顔で答えることができました。
セランの許可が出て本当によかった。
「そうか、良くなって本当にほっとした。
昨日は、メイさんの意識が戻らないと聞いたので、ミリアに殺されるところだった」
オーロフさんは、ややうなだれながら眉を斜めに下げ、
目じりに皺をよせて頭をぼりぼりとかいている。
「殺されるって、大げさな。
そんなことするわけないでしょ」
ミリアさんは、頬をちょっと赤く染めながら、
オーロフさんの言葉に反論してます。
「警邏に怒鳴り込んで、俺の上司を罵倒して、蹴り倒して、
踏みつけたのは、どこの誰だ。
ちなみに、上司は丸一日、うなされてたらしいぞ」
その言葉に目を瞬かせます。
ミリアさん。
今のは本当ですか?
「もう、アイツが大げさなのよ。
ちょっと、足が当たっただけじゃない。
あとは、勝手に転んで、何処かの角で頭でも打ったんでしょ。
うなされたのは、夢見が悪かったのよ、多分」
ミリアさんは、笑顔を引きつらせながらも、オーロフさんの
わき腹にすっと手が伸びているのが見えました。
「いてえ、やめろ。 ミリア」
ミリアさんは、うふふと笑いながら、
何のこと?って……
オーロフさん、乙女に逆らってはいけないのですよ。
「だって、メイやリリーを囮にしたって聞いたから、
つい、ぷちっと切れちゃって」
えへっと可愛らしく首をかしげているミリアさん。
可愛いですが、言っていることが物騒です。
「囮ですか?」
さっきまで、黙って聞いていたカースが口を挟んできました。
その顔は、だんだんと冷たく硬くなり、
オーロフさんを見る目が、鋭くにらみつけるようになった。
こ、これは、かなり怒ってます。
「ああ、馬鹿な上司が下手な思いつきでやったことだ。
本来なら、メイさんやリリーはこの件に
関わることはなかったはずだった。
それに関しては、俺からも謝罪したい。
すまなかった」
オーロフさんが、ずんぐりとした体をぐっとまげて、
頭を下げてくれました。
「そんな、オーロフさんは助けに来てくれたじゃないですか。
頭を上げてください」
あわてて頭を上げてもらうために、言葉を返します。
「メイ、彼は、貴方に謝罪を受け入れて欲しいんですよ」
カースの厳しい声が、部屋に響きます。
目つきが怖い程冷たいです。
「一般市民を囮だなんて、警邏の所業とも思えません。
その上司は、告訴されても可笑しくないですよ」
オーロフさんの下げたままの頭が、ビクッ震えた。
そのまま頭をあげようとしない。
「私からも謝るわ。
貴方が、あいつらに狙われているかも知れないって、
スミフも、市場の皆も言ってたのに、
貴方に気を配らなかった、私が悪いの」
ミリアさんが、オーロフさんの横で頭を下げました。
「狙われてた? 本当ですか?」
カースの問いにミリアさんの顔が泣きそうに歪みます。
「昨日の今日で、もう、あいつらが動くと思わなかったの。
私のせいよ。
オトルさんやピーナさんからも、注意してやってと頼まれていたのに。
スミフが、店に知らせに来てくれるまで、のんびりと構えてたの」
ミリアさんは、悔しそうに口を引き結び、俯いてしまいました。
ミリアさんの両手はぎゅっと力の限りで握り締められ、
関節のあたりの皮膚が白くなっていた。
「警邏に行っても、仕事の邪魔になるだけだからと、
じっと店で待っているしか出来なくて、悔しかったわ。
カゼスやスミフたちが、貴方達を、無事保護できたと言いに来てくれるまで、
本当に、息もつけなかったの」
仕事を一人でこなしていたんだから、本当に大変だったはずです。
それなのに、私のことをそんなに心配してくれて。
本当に、ミリアさんは、なんてかっこいいんでしょうか。
ぎゅっと脇で握り締めていたミリアさんの手を、
私はそっと取り、両手で包み込みました。
「ミリアさん。 自分を責めないでください。
貴方のせいでは、ないんです。
こうして、私は無事なのは、ミリアさんやカゼスさん、スミフさんや、
オーロフさん、レヴィ船長やカースにセランや
沢山の人が、動いてくれたからだとわかっているんです。
私が、皆さんに感謝をするほうなんです」
そうです。
奴らに捕まったのは、ミリアさんのせいではないのですよ。
ミリアさんの、顔が上げられます。
その目には、涙がにじんでました。
「ミリアさん、怒ってくれて、私を気にかけてくれて、ありがとう。
とっても、嬉しい。 それだけでもう十分です」
今は、本当に感謝の気持ちだけでいっぱいだ。
「メイ、警邏の謝罪はどうする」
ずっと黙って聞いていたレヴィ船長の声が、部屋に響きます。
オーロフさんを見たら、まだ頭を下げたままだ。
そんなオーロフさんに向き直って返事しました。
「オーロフさん。頭を上げてください。
もういいんです。 間に合ったんですから。
私はあの時、オーロフさんの声で心からほっとしました。
本当に、必死で駆けつけてくれたって顔もちゃんと見ました。
わかってます。 だから、もういいんです」
オーロフさんは、ゆっくりと頭を上げた。
その表情は、ちょっとほっとした感じでした。
囮にした作戦も、自分のせいじゃないって知ってるのに、
謝ってくれるオーロフさん。
責任感の強さに感服する。
自分じゃないって逃げない姿勢は、どこかのだれかさんに
見習って欲しい。 とくにその馬鹿な上司とかに。
それに、奴らのアジトまで乗り込んだのは、
明らかに警邏のせいじゃない。
自分からリリーさんを助けに行ったんだから、
オーロフさんのせいと責められないし、
如いて言うなら、自分のせいだよね。
オーロフさんの肩をポンポンと叩いて、顔を上げてもらいました。
「ありがとう。メイさん。
謝罪を受け入れてもらえて感謝する」
オーロフさんは、目じりに皺をよせながら微笑みました。
だけどそのまま、真剣な顔つきになって小言を言い始めました。
「だけど、危ないところに、助けも呼ばずに単身乗り込むのは、
無謀としか言いようの無い行動だ」
ぎくん。
何で、今それを言うんですか。
「リリーが心配だったのも、チェットに頼まれたのもわかるが、
君は、ただの一般人だ。
次回から、巻き込まれないうちに警邏に知らせに走れ、いいな」
オーロフさんは、目をあわせられない私の顔を覗き込み、
いいなと再度の確認をしました。
私は深く頷きましたが、
背中に、氷柱が乗っているような気がしてます。
「メイ。 今の話は、本当ですか?」
怖くて後ろを振り返ることが出来ません。
カースの方から、猛烈な寒波が吹き荒れているようです。
冷や汗がたらりと背中を流れていきます。
「そうそう、メイ。
貴方、チェットとリリーに何やったの?」
ミリアさんが、話題を変えてくれました。
勿論、直ぐに乗ります。
「お二人が、どうしたんですか?」
ミリアさんは、面白そうな、かつ 嬉しそうな顔で教えてくれました。
「人が、全く変わったようになっちゃったのよ。
2人ともよ。もちろん、いい意味だけど」
変わるとは?
「昔に戻ったっていうのかな。
2人とも、なにか吹っ切れたようで、いい顔してるのよ。
だから今日は、貴方にお礼も言いたかったの」
私は、首を振って否定します。
「私は、何もしてません。
多分、雷のせいだと思います」
人間、死にかけたら、改心するっていうものね。
実際、黒こげになるところだったわけだし。
オーロフさんは、ぷはっといきなり笑い出しました。
「雷ね。 まあ、いいさ。
本人たちは、わかっているだろうから。
メイさん、君に、俺達はただ感謝してると伝えたかったんだ」
結果として、良くなったってことかな。
それなら、ぱっちりだね。
幸せドンと来いだよ。
「はい。よかったですね」
2人が、幸せになる。
それは、とっても幸先がいいことですよね。
お茶を、ミリアさんとオーロフさんにご馳走した後、
オーロフさんは、帰るときに胸元から手紙を一通取り出して
渡してくれました。
真っ白な封書に、赤い蜜蝋が押してありました。
これは、くるくる巻いてある巻き手紙ですね。
「これは?」
「中を開けて、確認してくれ。
もし異存があるなら、警邏の俺のところまで知らせてくれ」
いや、だから、これは何ですか?
レヴィ船長が横から、すっと封書を取り上げました。
「王城の招待状? メイに? 」
はい?
今、耳慣れない言葉を聞きました。




