表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱をあけよう  作者: ひろりん
第3章:港街騒動編
72/240

自覚たりませんか?

照が腕輪の中に帰って直ぐに、

私の部屋のドアがノックされました。


「はい」


返事を返すと、ドアがゆっくりと開き、

ベッドに座ってた私をみて、カースが駆け寄ってきました。


「もう、起きても良いのですか? 体の調子はどうですか?」


調子? 

寝ていただけですが。


カースの心配そうな顔が、私の顔を覗き込んだ。

カースの手は、私の額に触れ、

体温を確かめるようにじっと額から動かない。


「はい。大丈夫です。おはようございます」


にっこりと笑って朝の挨拶をしました。

なのに、カースは心配そうな光を目に湛えたまま、

口の端だけで苦笑した。


「無理はしてはいけませんよ。 

 貴方は、事件の日からほぼ一昼夜、意識が無かったのですから」


え?


「何度か声を掛けたのですが、目を覚まさなくて」


あらら。

起きたら、一日すでに経過してましたか。


「あんな事件に巻き込まれましたからね。 

 疲れたのだろうとのことでしたが、

 意識が戻らない貴方を、本当に心配していたのですよ」


カースの手が壊れ物を触るように、私の頬をそっと撫でる。

その手はかすかに震えていた。


「カース。心配させてごめんなさい」


私は、カースの手に頬を擦りつけるようにすると、

カースの手の震えが止まり、ほっとする体温が手から頬に伝わってきた。


暖かい。

その暖かさに思わず目を閉じた。


安心感で顔が緩んできた。


カースは、私の頬をそのまま撫で、瞼をなで、

最終地点である鼻の上で、最後にちょんと弾みました。


「メイ。先ほど朝食を頼みました。

 一時間もすると来るでしょう。

 降りてこられますか?」


ご飯?


その言葉で、私のお腹が大斉唱を始めました。


きゅーぐううううううっぐうぐぐううーー。


カースの前なのに、実に可愛くない腹の虫。

顔が、だんだん熱くなってきました。


血液が、頭に集まっている気がした。

多分、今、私の顔はまっかっかだろう。


今までの音の中では、最高に長く大きな音です。

何も、今、この場で、最高傑作を披露しなくてもいいのに。


無駄にサービスがいいです。私のお腹。

だけど、女性として失格ですね。


真っ赤になったまま、顔を俯かせてしまいました。

カースの顔が見れません。



「雄弁な返事ですね」


カースは、小さく笑いながら、私の髪をつんっと引っ張って、

部屋を後にしました。




私は、顔をパンと叩いて、熱気を顔から飛ばして、

ベッドから勢いよ、跳びおりた。


部屋のクローゼットを開けて、代えの服を出して、

お風呂に向かいます。


その時は、鏡の前を通り過ぎますが、

わざと見ないようにしてます。


見なくてもわかる、脅威のゴルゴンヘヤー。

横目でみる、髪の跳ねっぷりは健在だ。


そして、二日間寝倒した後の酷い寝起きの顔。


近所の野良猫よりも酷い顔に違いないのです。


あえて鏡で確認して落ち込むのは、

すでにカースの前で失態を冒した後では、

気力ともに酷く削られる追い討ちだと思うからです。


洗面台の前に立ち手を持ち上げると、

大げさに巻かれた包帯が目に入りました。


そうでした。

自分で、手のひら切っちゃったんだよ。


縛られた紐を切るために、ガラスを握りこんだ時の傷だ。


お風呂にこれから入るのに、

このままだとこの包帯は濡れちゃうよね。


傷口の確認もかねて、包帯をしゅるしゅると解いていく。


縫い目があるところは塞がって、肉が盛り上がってます。

その傷口の周りは、血色の良いピンクに。

他の小さな傷口は、紫とまだ赤みが混じった斑になってます。


多分、軟膏の跡だろう。

ぬるっとした感触とぴりぴりとした痺れがあり、

なんとなく、手に違和感があります。


その違和感を払拭するべく、にぎにぎと開閉を繰り返しました。

痛みはさほど気になるほどではありませんが、違和感は消えそうもありません。


縫われた傷が、引きつっているからでしょうか。


いつまでもそうしていては時間ばかりが過ぎていくので、

お風呂に入ることにしました。


ポンプの取っ手を何度も反対の手で押して、水を壁のタンクに溜めました。

そして、先ほどカースが持って来てくれた温石を

壁の小さい窓にぽいぽいと放り込んでいきます。



この部屋でのお風呂は、だんだん慣れたものになってきたようです。

じゅわわーと水が熱で沸騰した音を確認した後、シャワーを頭から浴びました。


ああ、気持ち良いです。

髪に体にお湯が当たるたびに、体の細胞が活性化していくようです。


目に入らないように閉じていた瞼を、下に向けて開けると、

足元に流れ落ちるお湯が、透明でないことに気がつきました。


埃でしょうか、黒とか、グレーっぽい汚れがお湯を染めて、流れていきます。


汚いですね、私。

そういえば、絨毯みたいなものにくるまれ、

挙句に、倉庫で埃の中を転がりました。


あの絨毯、蚤とかダニとかいないといいなあ。

よし、髪の毛を2度洗いしておこう。

念入りに石鹸を泡立ててしっかり洗おう。


あ、もしかして、さっき私の頬をカースの手に擦りつけた時、

ペンキ塗りたての様に汚れがべったりついているかもしれません。


後で、謝っておかなくてはね。


石鹸で、体、髪と念入りに洗い終わったら、

タオルを巻いて、風呂桶の中から出ました。


今度は、風呂桶の中にさっきまで着ていた服、

ピーナさんにもらったワンピースを漬け込みました。


脱ぐ時にも思ったのですが、やはりかなり汚れていました。

それに、気になったのは血の跡です。


血液って、なかなか落ちないんだよねー。

石鹸で、ごしごしと擦っていきます。

気になる汚れには、念入りに石鹸をつける。


とりあえず、漬け置き洗いかな。


(無理じゃない? 労力の無駄よ。 

 あきらめて、新しい服買うといいわ)


照。


(もっと、明るい、可愛い色の服とかいいと思うわ)


照さん。


(あの服よりもっと、素敵なデザインの)


待ちなさい。 照さん。


(何よ)


そんな事は言わないで。

この服は、大事なものなの。

簡単に捨てたりしてはいけないの。


手を止めて、腕輪の方に目を向けた。

そして、濡れた手のまま腕輪の模様を軽く押さえた。



(……怒ったの?)


「怒ってないけど、照にも理解して欲しいから、きちんと言うね」


声にだして、照に、しっかりと聞いてもらう。

これからずっと一緒にいる照には、解って欲しい。


腕輪から手を離して、言葉を選びながら、

洗濯の続きをする。


お風呂の中の服に、石鹸をこすり付けて、

汚れている箇所をもみ洗いして、汚れを落としていきます。


「この服はピーナさんにとって、大切な思い入れのある服だったのに、

 私に贈ってくれたの。

 それは、ピーナさんからの好意と信頼をもらったことと同じなの。

 だから、大事にしたいって私は思う」


やっぱり、落ちないな。

血の汚れは、厄介だ。


(たかが服一枚で、そんな風に思わなくてもいいんじゃない。

 くれたってことは要らないってことでしょ。

 そんなに恩に感じることもないわよ。

 それも古着じゃない。たいして高価なものでもないし、

 新しいのを買って、

 それは捨てるなりなんなりと好きにすればいいわ)


再度、石鹸をこすり付けてから、水の中に浸しておく。

うーん。


ミリアさんに、血液落としとかの洗剤あるか、聞いてみよう。


もし、落ちなかったら、上から刺繍とかかな。


「ねえ、照。 たかが、服一枚、されど、服一枚なのよ。

 私にとって大事な物が照にとっては違うことは解ってる。

 自分の価値観や思い出を全ての人に理解してもらおうとは思ってない。

 その結果、無下に扱われることがあるってこともちゃんと解ってる。

 だけど、だからと言って誰かの大切な物を踏みつけたくない。

 ねえ、照。我儘かもしれないけど、聞いてほしい。

 私が、大切にしたいものを、照にもわかって欲しい」


(大切にしたいもの……)


「そうだよ。

 それに、照が、大切にしたいものも私に教えて欲しい。

 それを、お互い大切にしていけば、沢山の嬉しいものが増えると思うの」


(沢山の嬉しいもの?)


「そう、増えればそれは幸せに変わるの」


(よくわからない)


どまどったような照の声が、頭に小さく残る。


「今は、わからなくてもいいの。

 でも、一緒にいるのがもっと楽しくなるように、

 照は私の言った事を考えてみてね。

 

 何か気になることがあったら、いつでも話しをしよう。

 私は、照の考えてることが知りたいし、

 照にも、私の考えを知って欲しいから」


ざばっと服を風呂桶の中から引き出し、手できゅきゅっと

絞っていきます。


うーん。

船の中では、ルディが絞ってくれていたから、

絞りは得意じゃないのよね。


その上、微妙に手のひらの傷がひきつる。


(わかったわ。 考えてみる)


「うん。 

 友達は相互理解から始まるのよ、照」


(と、友達初心者なんだから、その……)


「毎日、いろいろお話しようよ。

 いろんな事を知って、経験して、

 一緒に大切なものを増やしていこう。

 ね、照」


(そうね)


「ところで、照」


(何よ)


「出てきて、服の水切り手伝ってくれない?

 一人だと、なかなか絞りきれないのよ」


(……。)


一呼吸置いて出てきた照は、ちょっと怒った顔をしていたが、

服の前にさっと手をかざした。

目がきらっと光ったと思ったら、

服の脱水が綺麗に出来ていた。


というか、乾いていました。


ぜっ、全自動乾燥機?


「だれが、乾燥機よ!」


あら、口にでてた?


「照、便利な能力だね。

 ついでに、シミ取り能力ない?」


「あるわけないでしょ!!」


金の目に剣呑な光がよぎる。


あ、もっと怒った?


「聞いてみただけだよ。

 手伝ってくれてありがとうね。

 凄いね、照、助かったわ」


私の褒め言葉に、怒りが反れたらしい。


「まあ、いいわよ」


顔を赤くして、横を向いてしまった。

照れている照の頬をつんっと突付くと、

直ぐに腕輪の中に入ってしまった。







乾いて、綺麗になったワンピース。

ばさっと広げてみる。


お尻の部分とか、背中の部分、手首の縁あたりとか

結構血の跡がついている。


刺繍するにしても、お尻にだけ模様があるのって、どうなの?

いや、模様を全体に散らせば、何とかいけるか。


うーん。



ぐうーーーーきゅるるるうう。



ご飯の後で、考えようと思います。

空腹では、良い考えも浮かばないのです。


お風呂場と洗面台を片付けて、

船で着ていた服に着替えてました。


手のひらの、斑な色と引き攣れた傷跡が目に入り、

もう一度、包帯を簡単に巻きました。


傷口はもう開かないとは思うけど、

転んだりして二次災害を防ぐには、包帯しておいたほうがいいよね。


鏡の前にたち髪を櫛で梳き、部屋を出ました。





部屋から出てすぐに、ふわっとした、

途轍もなく良いにおいが、鼻と心臓をくすぐります。


こ、この匂い。


心臓の鼓動が早くなり、

階段を小走りで転げるように降りていく。


居間に入ると、食堂の机の上には、美味しそうな朝食が

所狭しと並んでました。


先日までいただいていた、配達されたご飯とは雲泥の差。


「おう、メイ。 目が覚めたか?

 なら、食事にするか」


バルトさんが、居間の椅子から勢いよく立ち上がり、食堂に向かいました。

 


「メイ、体調はどうだ。 気分の悪いところは、無いか?」


セランは、真剣はお医者さんモードの顔です。


「メイは消化の良いものを作ってもらいますか?」


その言葉には、もちろん強く首を横に振る。

カース、そんな重病人ではないのですよ。

こんなに美味しそうなご飯を前にして、それは悲しいです。


「大丈夫そうだな。 さあ、皆、食事にしよう」


レヴィ船長は、私の側にいつのまにか立っていて、

食堂へと背中を押してくれました。

その大きな手が背中に当てられている。

なんとなく、嬉しかった。



食堂には、やっぱりレナードさんがいらっしゃいました。


「レナードさん。 嬉しいです。 

 レナードさんのご飯、ずっと食べたかったんです」


嬉しい笑顔で、レナードさんの側に駆け寄る。


「おう、メイ。

 今回、大変だったってな。 聞いたぞ。 

 今日は、その労いも兼ねて俺の食事で振舞おうって言う事だ。

 美味いもの食べて元気になってくれ」


レナードさん。


腕もよければ心根も優しいお人柄に、

心から、いえ、お腹の底からも感謝します。


「ありがとうございます。 レナードさん」


さっきから、お腹の音を抑えるのに苦労してます。


カースの前での失態。


あれを、レヴィ船長の前で再現するのだけは、

絶対に避けたいです。

お腹に手を置いて、腹筋に力を思いっきり入れます。


匂いが、部屋に充満して鼻をひくつかせる。


「昨日、船長から話を持ちかけられたから出来合い色が強いが、

 お前が満足できるように精一杯の料理を用意した」


レナードさんは、それぞれの机に、注いだばかりの、

ほかほかと湯気をたてているスープを並べていた。


オレンジクリーム色のスープです。


レヴィ船長が、わざわざレナードさんに頼んでくれたんですね。


レヴィ船長の緑の目を、じっと見つめました。


そらされない緑の瞳に、その優しい光に、

胸の奥が、ぽわっと暖かくなってきます。


皆が席についたのを確認して、私は皆に深くお辞儀をしました。


「レヴィ船長、バルトさん、セラン、カース、レナードさん、

 本当にご心配かけました。 そして、ありがとうございます」


暖かい思いやりに、涙がじんわりと出てきました。


私は、このやさしい人たちに、いつかきっと恩返しをしよう。

そう思いながら、涙をにじませながらの笑顔で皆の顔を見返しました。


見渡す顔は、本当に温かな家族を連想させる。

その表情を向けられている私も、家族なんだ。

その想いに浮かれそうだった。



「メイ、席につけ。

 食事にしよう」


レヴィ船長の号令で、私は席について、スプーンを手に取りました。


まずは、スープです。

目の前の深皿に、スプーンをいれ、そっとすくいます。

スプーンの上でも、色は変わらず濃いオレンジ。


このオレンジ色のスープは、人参のようで、りんごのような味がしました。

中に浮いている、オリープのような実はカリカリに素揚げされ、

口にいれたら、ぽわっとかりっと体がぽかぽかしてきます。


「美味しいです。 これは、新作ですよね」


スープを飲み終えて、

次の食事を配膳してくれているレナードさんに聞きました。


「ああ、船には日持ちしない野菜は基本置かないからな。

 だから、帰ってきたら基本使わない野菜を多く使って見ることにしてる。

 これはまあ、試作品だな」


試作品ですか?


響きは悪いけど、それでもいいです。

毎日でも食べたい一品です。


次は、魚と蛸のから揚げもどきをぶつ切りにして、

生野菜のサラダに混ぜてます。 

この掛かっているソースは、オレンジソースですね。 

フルーツの酸味とお酢と油の組み合わせが

たまりません。


船の中と違って、一品一品がそれぞれのお皿に綺麗に盛り付けられ、

まるで、芸術品のように目を楽しませるのも楽しいです。


メインのお皿は、卵料理に、スペアリブ。

蒸し野菜のベーコン巻き、芽キャベツチーズ和え。 


スペアリブは、お酒と香味とトマトの風味がしました。

骨の周りのお肉が、程よい弾力です。 

卵はそぼろ状になっていて、スペアリブの上にかかってました。

ベーコンはカリカリ、中の野菜は味がしみこんだカブかな。

芽キャベツは、焼きチーズが絡んで、もう、もう最高です。


フランス料理のように、一品ずつ出るけど、

違うのは、この量です。

さすがに、私のお皿は山盛りではないですが、

他の方々のお皿は山盛りです。


朝から、こんなにいただいていいのでしょうか?


ちょっと、乙女として躊躇してみますが、

手はまったく止まりません。


口は本能のままにもぐもぐと咀嚼し、舌で美味しさを楽しんで、

ごくんと飲み込むと、喉と胃袋で、歌いだしそうです。



幸せ瞬間です。


出されたふわふわの焼きたてパンを口にちぎって口に入れると、

目の前に小さなお皿が出されました。


お皿の中身は、白いクリームのようなもの。


これは、なんですか?


レナードさんを見上げる。


「昨日、安息日だったんでな。

 家族で、郊外の農場に遊びにいったんだ。

 そこで、上質なミルクを手に入れたから、ミルクリームを作ってみた」


すくって、パンにつけて口に入れます。


これは、生クリーム?

それとも、チーズクリームですか?


甘いです。お砂糖です。甘味です。


「美味しいです。甘くて、とってもまろやかです」


「そうか。この後、これを使ったデザートも用意してる」


うふふ、甘味、あったんですね。


基本、甘党ではないのですが、

時々、あると嬉しい甘味くらいには好きかな。


今までも、飴とか、蜂蜜とかで、大抵は満足できていたので、

不満はないのだけど、あると欲しくなるのが人間なのかしら。


デザートの器が、きらきら輝いて見えます。


中は、白い中に、同じく白い小さな塊が浮いてます。

スプーンで口に入れると、ふわふわの食感。

この塊、バターですか?


バターの塩味とふわふわのミルクムースの甘味が絶妙にマッチしてます。


「へえ、これは、旨いな」


セランですら、感動してます。


「レナードの料理は、いつも見たことねえものばかりだが、

 これは俺でもいけるな」


バルトさん、その伸ばされた手は、お代わりを要求してますね。


レナードさんが、わははと笑いながら、レードルで、

ボウルに入っているムースのお代わりをすくい、

バルトさんのお皿にどさっと盛り付けました。


その豪快さは、船にいたときのようですね。

羨ましいけど、もうお腹が張り裂けそうです。


最後に、食後の紅茶です。

カースが皆に入れてくれました。


レナードさんも、一緒に居間で、皆で飲むことにしました。




ふう。


一息ついて和んでいると、カースが、

昨日の出来事を教えてくれました。


「昨日、警邏のオーロフさんと姪のミリアという女性が尋ねてきました」


昨日って言われても、私にとっては、昨夜あったばかりで、

正直、実感わかないのですが。


でも、ミリアさんで思い出しました。


「ああ、私、二日続けて無断欠勤だ」


なんてこと。 

無責任にも程があります、私。


「いいえ。

 昨日は一週間に一度の安息日ですから、お店もお休みのはずです。

 ですので、二日続けての欠勤にならないですよ」


安息日?

日曜日みたいなものかな。


レヴィ船長が、私の方を見つめて言いました。


「メイ。 後で、セランに診察をしてもらえ。 

 許可が出ないと、働きには出さない」


診察?

ああ、手のひらの傷ですか?


ささっと包帯を解き落とします。


「もう、大丈夫です。 ほら」


ぱっと手のひらを見せ、斑模様のひらひらさせました。


途端に、セランの目が剣呑な目つきで睨みました。


「メイ。 お前、何勝手に包帯取ってるんだ。

 医者のいうことを聞かずに何してる」


あう?


「えーと、痛みもないし、きちんと動くし、いいかなーって」


ひきつった笑いを浮かべながら、セランの言葉に首をすくめました。


「そういうのは、医者の判断を待ってするものだ。

 素人の浅知恵がどれほど危険か知らないのか。

 勝手に包帯取って、何かあったらどうするんだ!」


「ご、ごめんなさい」


私は、セランの怒声に身を小さくして俯きました。

そんな私の頭の上にセランの手がポンと乗せられ、

いつもの様に上で数回弾みます。

   

「……だが、まあ、昨日見たときよりも数段良くなってる。

 診察後、問題なければ抜糸する。 

 仕事云々はそれからだ」


「はい」


セランの怒りがおさまったのを確認して、カースが言葉を続けます。


「話を戻しますね。

 本日、彼らはもう一度来られるそうです」


その言葉にちょっと首をかしげました。


ミリアさんはともかく、オーロフさんはどうしてくるのでしょう。

犯人達は捕まったし、まあ、一人は黒こげのはずだけど。


「なにやら、伝えたいことがあると言ってました。

 今回は、レヴィウスと私が同席をします」


ああ、前回はオーロフさんに追い出されたからね。


「俺はドックに行かなくちゃいけねえからな。 

 セランは、面倒な患者が待ってるらしいし。

 だから、2人によっく見張ってもらえ。いいな、メイ」


バルトさんが、紅茶をぐびっと飲み干して、立ち上がりざまに言いました。


「まだ、怪我人なんだからよ」


その目は心配している目だ。

クシャと乱暴に頭を撫でてくれるその手は、大きく優しい。


「目を離すとお前は、

 どこで何に巻き込まれるかわからない」


バルトさんの手の後は、レヴィ船長が私の肩を優しく抱え、

目じりから耳に掛けて、優しく髪を撫でてくれます。

大きなごつごつした手なのに、壊れ物を触るように、

優しく丁寧に髪を撫でつける。

キモチイイですね。猫になった気分です。


って、レヴィ船長。

心配って、そっちなの?

警邏が来ることじゃなくって?


「何度言い聞かせても、自覚が足りないですからね。

 もう、見張っているしかないでしょう」


カースは私の鼻をむぎゅっと掴んで、指でピンと軽く弾きました。

その力加減が絶妙で、痛くもなんともない。

どちらかというと、衝撃に目を瞑っただけと言う感じです。


自覚って、不審者に近づかないってことでしょう。


「今回は、近づかないではなくて、

 気がついたら簀巻きだったというか。

 えーと、回避不可能だったというか……」


小さな声で、ぼそぼそと言い返しながら、

人差し指で人の字を作りながら、もじもじしてました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ