リスニングを心がけます。
レヴィ船長に厨房で働く許可をいただきました。
でも、基本、ルディの下で、雑用を半分って言ってたけど、
どういう風に分けるんだろ。
レナードさんとルディが、私の仕事配分で
話をしているようで、机の上のお皿がたまってきました。
私は急いで、食堂に行き、空いた席に置かれたお皿をかたづけ、
窓口に運びはじめました。
できることはしなくちゃね。
私のための話し合いだものね。
でも、どんどんお皿をかたづけていくと、お皿が、朝のように
バベルの塔状態になっていく。
今朝も思ったんだけど、お皿は並べて置いて後で洗うより、
漬け置きして、汚れ浮かしてから洗うほうがいいよね。
早速、腕まくりして、海水の入った樽から、
海水を二つの盥にうつして、その中にお皿をつけておいた。
そうすると、お皿の容量分、水も少なくてすむしね。
貧乏人の知恵だね。
ある程度、お皿がたまったら、盥の中のお皿を
洗って、立てかけていく。
小分けにすると、私の手もしわしわにふやけなくてすむね。
半分のお皿をそうやって洗い終わったころ、
レナードさんとルディが帰ってきた。
帰ってきていたお皿の半分がすでに
洗い終えているのを見て、レナードさんのつぶらな瞳が
きらきらし始めた。
「おっ手際がいいな。やっぱりお前は厨房向きだ。」
貧乏人のうえ、時間にせわしない日本人の性のおかげでしょう。
ルディは皿洗いを一緒にはじめながら説明してくれた。
「食堂の手伝いは、一緒にしよう。僕が食堂でかたづけと掃除、メイが厨房で皿洗い。
家畜の世話は僕がするよ。 その代わり、メイは朝一番に食堂にいって、
レナードさんの手伝いをしてね。 洗濯物の集荷が僕がする。
メイは繕いものをして、洗濯は一緒に、干すのは僕がする。
甲板の掃除は毎日ないから、レナードさんや厨房の用事が無いときだけ
メイは参加。 洗濯物を取り込んで小部屋に持っていくから、
たたんでおいて。 後で、僕が配ってくる。その他の、
夜警の交代とかはしなくていいよ。 多分、夕食のあとの
明日の下準備とか遅くまで掛かるだろうから。」
全然半分じゃないような気がします。
「ルディ、楽、無い、ごめんなさい。」
ルディはため息をつき、ちょっと笑った。
「もともと僕一人でしてたことだし、気にしなくていいよ。
今朝からだけど、メイと仕事するのは、楽しいよ。
それに、裁縫とか皿洗いとかをメイがしてくれると、
ずいぶん楽になるよ。 それにメイは繕い物上手だしね。」
褒め上手ですね。
時間ばっかり掛かっていたような気がしてましたが、
裁縫の腕を褒められました。
ここでも、貧乏人のスキルが役に立ちました。
できることがあるっていうのはいいね。
背筋がぴんとしてきます。
お世話になっているばかりの私だけど、
お役にたてたら鶴よりも恩返しになるはずです。
「ありがとう、 ルディ、頑張る。」
にぱっと笑って、ルディの手を握った。
私を身長変わらないのに、大きな硬い手をしてました。
ルディは頷いて、私の手を握り返してくれた。
本当にいい子です。
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本日、午後より、厨房でお世話になることになりました。
厨房の下っ端2号に決定しました。
マートルは、自分より下ができるのが嬉しいらしくて、
マートル先輩と呼べって言ってたけど、
ラルクさんに後ろ頭たたかれて、なみだ目になっていた。
マートルは、船員見習いで、
半年前にこの船に乗ったばかりだそうです。
お皿洗いをすべて終えて、お皿をかたづけたら、
マートルと一緒に野菜の皮剥きです。
私はジャガイモの続きを、マートルは、料理人にしては
不器用な包丁の使い方で、緑色の大根もどきを剥いていた。
やはり籠一杯です。
これがなんの料理になるのでしょう。
緑の大根はやはり大根の味なのでしょうか。
つらつらと考えながら剥いていると、
マートルが本当にいろいろと、
話しかけてきます。
わからない言葉は聞き返したいのですが、
あまりにも早口というか滑らかというかの
おしゃべりで、かんたんリスニング状態です。
でも、そのおかげで、いままで知らなかった
この船のことや、船長さんのことや他の船員さんの
ことを知ることが出来ました。
まず、
この船は、これから向かうイルベリー王国の商船だそうです。
王国の、ハリルトン公爵の傘下にある貿易船だそうです。
ちょっと他の商船と違うのは、
この船の船員は戦闘員も兼ねていること。
横行する海賊たちに対抗できる装備と
船員をのせていること。
大型船の倉庫の中身は積荷。
大きい船だから、乗組員もそれなりにいる。
人数も多いので、食べ物をしっかりつんでいること。
何度も航海をしてきているので、安心であること。
この船のレヴィウス船長は、海賊も、
苦い顔をするくらいに腕が立ち、
船長としての腕前は並ぶものなし。
また、男ぶりもよく、気前がいい。
貴族の雇われ船長なのに、理不尽な雇い主の
要求には応じない。
けっして驕ったところがなく、
貧しいものにも態度を変えない。
まさに、理想の騎士像。
そんな船長のしたで働きたくて、
マートルはこの船に乗ったんだって。
へえ。ずいぶん崇拝してるなあ。
レヴィ船長の顔がふっと浮かんで、
こころの中がなんだかほわほわする。
かっこいい容貌だけじゃなくて、
やっぱり皆に慕われる素敵な人なんだ。
嬉しくなって思わず顔がにやける。
マートルは船長のそばで働きたくて、この船に乗ったのに、
乗ってすぐに、そのまま厨房に行かされたんだって。
もともと、厨房見習いを募集していたのを見てなかったって。
でも、船員募集だと、マートルは雇ってもらえなかっただろうから、
これはこれで良かったのだと、言ってた。
そうだね。
この船の人達って、ルディ以外は無駄にマッチョだと
思ってたよ。
だってレナードさんですら、コックっていうより
プロレスラーかなにかと、間違われること疑いないもの。
ラルクさんはマッチョに見えないけど、
脱いだらすごいんです、かも知れないしね。
カースは副船長なんだって。
あんなに意地悪なのに、えらそうだったのは
その為か。
でも、かなり有能なんだ。
だって、航行計画、ルート、海図、測量計算。
積荷の計算から、税の計算まで、カースがしてる。
すべてのこの船のお財布はカースが握っているらしい。
この船のお母さんなのですね。
それから、彼は海賊が大嫌いなのだそうです。
そういえば、海賊って言葉に、すごい反応してたなぁ。
子供のころに家族を海賊に殺されたらしい。
トラウマにもなりますね。それは。
私のこと海賊の仲間かもって疑ってたからの
あの態度だったんだろうな。
しかたがないよね。
ちょっとだけ、カースの態度は大目に見れる気がした。
そんな船長と副船長を頭に、
優秀な船員を数多く抱えているこの船は、
めったに人事募集をしない。
だって、やめないからね。
そういった安全かつ、金払いの良い就職口である、
この船の船員になるには、本当に選考基準が高いんだって、
マートルが教えてくれた。
マートルは、たまたま戦闘でケガをしたコックが、
何人か退職したところの募集に引っかかったそうです。
あと、辞めたコックの親類だったことで、
雇ってもらえたそうです。
うん。
今日一日で、沢山の新しいことを知ったよ。
ありがとうマートル。
ところどころわからない単語と言葉があったけど、
今日はもういいや。
だって、ジャガイモも大根もにんじんも玉ねぎも
あらかた向き終わった。
そこで、ルディが呼びに来てくれた。
洗濯物たたみにいってきます。