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箱をあけよう  作者: ひろりん
第3章:港街騒動編
58/240

誘拐されました。

突然、押しかけてきた人相の悪い男達。

その先頭に立っているのは、

市場で、私に絡んできた怪しい人攫いの男でした。


昨日、警邏に連れて行かれて、

お仕置きを受けたんじゃないかとか言われていたけど、

今見る限りでは彼はとっても元気です。


昨日の今日で、もう大手を振って歩けるってことは、

さては、コロンボ、詰んだか。

つまり、証拠不十分で釈放ってことでしょう。


傍若無人に振る舞う彼等は、

汚い土足でどかどかと部屋の中に入り込み、

リリーさんのいるベッドの側で大きな声で怒鳴り始めた。


「知ってんだろぅ?

 チェットはぁどこにいるんだぁ?

 素直に言えば、何もせずに帰ってやるよ」


巻き舌激しく三下の大道のセリフですね。

それも周りの怖い顔つきのお兄さん達のせいで、

威力倍増しているようです。


リリーさんは、真っ青な顔で震えながらも、

小さな声で反論してます。


「すいません。知らないんです。本当に。

 彼は、3日前に一度帰ってきたきりで、

 どこにいるのか、わからないんです」


リリーさんは、少しでも男達から距離をとろうと、

ベットの背まで後ろずさった。


私は、ベットの背側にまわってリリーさんの側に立った。



怪しい男は大きなぐりぐりの目に暗い光を宿しながら、

リリーさんの座っているベッドをガンっと蹴った。


「ふざけんなよ。3日前だとぅ。

 昨日、この辺でチェットを見かけたって

 いってる奴がいたんだよ!

 ここに、アイツは、帰ってきたんだろうが!」


怒鳴りながら、何度も何度も、ベッドの足を蹴りつける。


リリーさんは、その揺れに耐えるように、

ベットの背にしっかりとしがみついていた。


私は、少しでも揺れが少なくなるように、

背の木枠に両手を置いて体を押し当てた。


「本当に、本当に知らないんです」


リリーさんの灰色の目に涙が溜まる。

小さな声がベットの振動で更に震える。


男は、自分の足が痛くなったのか、

蹴るのをやめて、口の中の痰を床に吐いた。


「アイツには貸しが山程あるんだ。

 今すぐに返してもらわねえとぉ、気が済まねぇんだよなぁ」


そんなことを言われても、何を返すって言うのだ。

お金?

でも、この家にお金ってありそうに無いです。

どこからどう見ても質素其の物。

懐かしい貧乏の香りがします。

金金キラキラは、まったくありません。


「アイツがこのまま捕まらなければ、リリーさんよぅ。

 アンタはチェットの代わりに、

 俺達に貸しを返してもらうことになるんだよ」


男はにやにやと笑いながらリリーさんを見て、

そして私に視線を向けた。


「昨日のお嬢ちゃんじゃねえか。

 なんでここにいるのかわからねえが、

 これは俺には好都合ってもんだ。

 このやせっぽちの女じゃ、幾らにもならねえからな。

 警邏に売ってくれた礼に、いいとこへ連れて行ってやるよ」


にやにやと気味の悪い顔で、嫌な事を言い放つ。

いいとこって、確実に私にとって悪いとこのはずです。


「そんな、この子な関係ないでしょう。

 この子は見逃してください。お願いします」


リリーさんは、ベットの背に置かれていた私の手をぎゅっと握って、

男に懇願するように頭を深く下げた。


「なら、チェットの居場所を言えよ。

 それか、チェットから預かっているものを出せよ」


男の鼻息はどんどん荒くなる。

もはや巻き舌すらも無くなった。


男は部屋の中央に置かれていた水差しの水をコップに注ぎ、

一気に水をあおる。

 

「アイツが昨日この辺にいたことはわかってるんだ。

 アイツが、街から離れないのは、

 あれをアンタに預けてあるからだろう」


あれ?

リリーさんと顔を見合わせて首をかしげた?


「あの、あれってナンですか?」


私は、男に質問すると、


「俺達にとって、大金が絡む仕事の大事なものだ。

 チェットはそれを盗んで逃げやがった」


チェットさん、

こんな怖い人達から、何、盗みなんかしてるんですか。

本当に後先考えない人ですね。



「リリーさん。チェットさんから、何か預かってるの?」


リリーさんは、首を横に振り悲しげに答えた。


「チェットは、私には大事なことは何一つ話さないわ。

 ここにいるときも、いつか大金持ちになるって夢ばかり。

 チェットが私に大切なものを預けるなんて、ありえないわ」


その返事を聞いた男は、手に握られていたコップと水差しを、

勢い良く床にたたきつけた。


ガシャーン!


残った水と、割れたガラスの破片が、辺りに散乱する。

私の足元にも大きめの破片が飛んできた。


「そんなことは、聞いてねぇんだよ。

 お前以外に、チェットに繋がる人間はいないんだ。

 チェットを捕まえるためのエサになってもらう。

 おいお前ら、女2人とも縄で括って毛布を巻きつけろ」


いかつい男達が、縄を両手に持って私達に迫ってきます。


私はとっさに、足元に落ちていたガラスの破片を

片手に握りこみました。


私もリリーさんも抵抗しましたが、多勢に無勢。

あっという間に、簀巻きにされてしまいました。


簀巻きにされたまま、誰かに担がれたようです。

体が持ち上げられ、激しく反転しました。


みぞおちに肩が食い込んで、微妙に痛い。


さっき、食べたご飯が戻りそうです。

そんなもったいないこと、死んでもしたくありません。


それに、このまま売られるなんて嫌です。


レヴィ船長やカースやセランにもう逢えないなんて、

絶対嫌だ。


体をもぞもぞ動かしていると、

低い声がぼそっと私の背中の上でつぶやいた。


「暴れるな。

 暴れるなら痛めつけないといけなくなる」


今の言葉で私の体はピタっと動きを止めました。


痛いのは嫌です。

基本、暴力反対です。


「後で、誰もいなくなったら逃がしてやる。

 それまでおとなしくしていろ」


ぼそっと声がしました。


目が一瞬ですが、点になります。

今の声の主は、多分私を担ぎ上げている人ですよね。


逃がしてくれるって今、言った?


ということは、この人はあの男の仲間じゃないの?


訳がわからなくて混乱してきたけど、

とりあえずおとなしくしていることにしました。


私の味方がいるのかも知れない。

希望が沸いてきた。





そうして、どのくらい経ったんだろう。

ぐるぐるに簀巻きにされていると、時間の経過がわからない。


私の頭に血が上って、

頭痛がしてきて、目の奥が痛くなってきた。


首を持ち上げようとするけれど、

簀巻き状態では満足に首さえ持ち上げられない。


手足がしびれてきて意識が飛び始めた。

体の感覚がどんどん麻痺してくる。


ああ、私、私は、何をするんだっけ?

自分という意識すら、うつろになる。


かろうじて意識を保っていられたのは、

右手に握りこんだガラスの破片のせい。


ガラスの破片が手のひらに食い込んで、

右手が熱を持ったように、じんじんと痛む。


右手が痛いという感覚がなくなってき始めた頃、

ぎぃぃっと扉が開く音がして、

どこかで甲高いねずみの鳴く声がした。


朦朧とした意識の中で体が再度反転し、

下から上に血が一気に逆流し眩暈がおこる。


お尻を下に、どさっと私の体が床に落とされる。


体中の血液が、一気に体を廻るのがわかる。

心臓の音が、どくどくと激しい音を立てて耳に反響する。



意識が朦朧としている中で、いくつかの足音が、

私から遠ざかっていくのが聞こえた。



それからしばらくして、耳鳴りが収まり頭痛もきえる。


体の機能が回復しているのがわかった。


手足のしびれも収まって、手のひらの開閉も問題なくできる。


体の機能が戻ってきたら、思考も戻ってきたようです。

そうしたら自分がどうなったのか、唐突に理解した。


そうだ。

浚われたんだった。


えーと確か、運ばれている時、

誰か知らないけど助けてくれるって言ってたけど、

いつ助けてくれるんだろう。


それまで、この状態は辛いです。


でも、本当に助けはくるのかしら。

あれは、私が朦朧としていた意識の中で聞いた

妄想かもしれないよね。


なんだか、自分の記憶が信じられなくなってきてます。

自分を疑いはじめたら、途端に心細くなる。


「誰もいないの?」


声を出して周りの反応を見る。

私の声は、小さく反響するが返答はない。


心細さが、じわじわと広がってきた。


胸の奥が、ずんと重くなる。


「駄目、止めて。

 自分で、自分を追い込んでどうするのよ」


はっきりとした声で自分で自分に言い聞かす。


気合を入れるため、

自分の頬をパンッと叩きたいところだけど、

いまはこのままで我慢する。


こういうときは、まず確かな現状確認ですよね。

刑事ドラマでも、誘拐された子供はしっかりしていたもの。

大人の私が、おたおたしてどうするのよ。




そういえば、リリーさんはどうなったんだろう。

この部屋に一緒に居るんだろうか。


うつぶせの状態のまま静かにして、

周りの気配を探ります。


埃と砂の匂い。

そして、私の右後方にかすかな呼吸音がした。


多分、リリーさんだ。



リリーさんも簀巻きにされていたから、

私と同じあの苦行にあったはず。

それならば、気絶しているのかもしれないです。


まずは、簀巻き状態からの脱出です。


後ろに縛られた手は痛いけど、体を横に転がしてみる。

そうすると、私にまきつけられた毛布が緩んだ。

そのまま、ごろごろと転がっていったら外れた。


あまりに勢いよく転がったので、

埃が、周りにもうもうと舞って咳き込みました。


埃を吸わないように、目をぎゅと閉じて、

口と鼻を毛布の端に押し付けました。


しばらくうつぶせになって、埃がおさまるのを待ってから、

周りを見渡します。


ここは、どこかの倉庫のようです。

周りには、乱雑に積まれた木箱に樽。


埃が上の方にもかなり積もっているので、

あまり使われてない倉庫なのでしょう。


まあ、そんなところだから誘拐犯が使うのだろうけど。


かなり高いところに、窓がありました。

そこから、太陽の光が入ってきてます。

そのせいで、かなり明るく視界は良好です。


見渡していると、私と同じような簀巻きにされている

リリーさんを見つけました。


まずは、私は、自分の縄を切ることにしました。


右手に握りこんでいた、ガラスの破片は、

私の血がついて滑ります。

が、やっとのことで腕の縄の部分にとがった部分をあてて、

縄を少しずつ切っていきました。


結構時間が掛かったし、破片を縄目に滑らせるのに

あちこちと余計なとこまで切ったようだけど、

何とか縄は切れた。


よく、サスペンスドラマでガラスの破片で縄を切るって

シーンがあるけど、割合すぐ切れてたよね。

でも、あれって、嘘ですね。

時間がかなり掛かりました。


でもとりあえず、手は自由になったので、

続けて体の縄と足の縄を切って、やっと自由になりました。


開放感で伸びをします。


今度は、リリーさんの番。

リリーさんの簀巻きに近づいて膝を突いた。



慎重に毛布をはがして、体を横にゆっくりと転がした。

出てきたのは、リリーさん。


では、ありませんでした。


はい?


リリーさん、いつから男性になったのですか?


その時、私の胸に下がっている玉が熱くなった。

この、一瞬でやけどしそうになる感覚。


まさか、この人が三人目?


蜂蜜のような明るい金の髪、

気絶している顔は、あちこちにあざが出来ている。


まあ、玉のことは後に置いておいても、

彼を助けるって、もう無理ではないの?


すでに、ぼこぼこにされた後にしかみえない。


左目の上なんかは大きくはれて、お岩さんのようだった。


これは、誰でしょう。


そして、リリーさんは、どこにいるのでしょうか。



再度、周りを見渡したけど、簀巻きは他にはいないようです。


まあ、あとでさがすとして、今は先にこの人、

何とかしたほうがいいわよね。


そうして、手のひらのガラスの破片に目をやると、

自分の手のひらから酷く血が出ている。

手から落ちた血が床にしみをつくる。


傷が痛むというより、じんじんと熱い。


このままだと血は止まらないし、

血のせいで手元がすべる。


何か、血を止めるものはないかと見渡したけど何も無い。

自分はと見下ろしたら、胸のリボンが目に入った。


ピーナさんがくれた大事な服だけど、

背に腹は変えられない。


それに、あちらこちらと血がついているうえに、

埃まみれにしているので、今更かもしれない。


リボンを解き、胸元から引き抜いた。

結構な長さがあるので、怪我をしている右手に

ぐるぐると包帯のように巻きつけ、

適当なところで結びリボンを切った。


手元に残ったリボンは20cm程。


それを胸元の一番上に通し、引っ張って結ぶ。


うん、十分に足りた。


胸無いから、これで十分なんだよね。


自分で言ったのに、ちょっとへこんだ。





そこに倒れている、ぼこぼこお岩の男の人の

縄を切ることにしました。


手と足と上腕と太もも。

合計4箇所の縄を切りました。


人の縄って、切るの簡単だね。

良く切れる刃先が見えると方向性がより確かになった。

それがを使って刃先を滑らせると驚くほど簡単に切れた。

自分のはあんなに大変だったのにね。


さて、意識の無いお岩な人。

普通ならば顔を軽く叩いて起こすんだけど、

この場合それは傷口に塩を塗りこむ行為にみえる。


それならばどうするか。


体を揺すってみた。


ううって、うめき声が聞こえた。


もしかして、顔と同じく体も殴られているのかも。


続けて揺するのは、ちょっと躊躇われる。


後、残すは頭かな。


見たところ、頭頂部には怪我はなさそうだ。


頭の部分に廻って、

頭頂部に左手でチョップをいれました。


「があっぐっ。」


おお、起きました。


アヒルのような鳴き声で目覚めた男は、

しばらくぼうっとしていた。


しばらくしたら、強く頭を左右に振って、

さらに痛むところがあったらしくて、

声にならない痛みに体を震わせていた。


この人、馬鹿だね。

ちょっと可哀相な気がしてきた。


側でじっと見ていた私に、彼がようやく気がついたのは、

本当にしばらく経ってから。


「大丈夫ですか?」


私から声を掛けて、始めて気がついたみたい。


「ああ、いや、えっと、あの、君、誰?

 めずらしい顔立ちしてるけど、どこの人?」


緊張感の無い、能天気な声が

私に返された。





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