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箱をあけよう  作者: ひろりん
第3章:港街騒動編
55/240

あこがれます。

いかにも怪しい壷売りの男。

その手に持ってる壷も、どうみてもガラクタもいいとこだ。

百円均一のお店の方が、よほど良いものが置いてある。


そんな相手から、怪しい壷を買うはず無いでしょう。


「いりません」


頭を左右に振って、激しくいらないって意思表示をした。


「神様の加護が、幸せが手に入るんだよ」


もう、しっかり持ってるから。

買わなくてもいいのです。


「いらないです。さようなら」


くるりと向きを変え、路地から広場に戻ろうとしたら、

いきなり、左腕をつかまれた。


「銀貨3枚じゃあ、高すぎか? 

 なら、銀貨2枚と銅貨8枚でどうだ」


男は、ぎらぎらした目つきで私をみて、

強い力で揺さぶってきた。


腕が痛いです。

男の目を睨んできっぱりと断る。

霊感商法おことわりは、きっぱりと。

って誰かに聞いたことがある。


「いりません。手を離してください」


さっきまで、買ってもらうために必死になっていた

男の鈍い灰色の目が、いきなり暗い色を見せ、

ニヤニヤと笑い始めた。


「へえ、よく見たら変わった顔立ちしてるな。 

 まだ、子供だけど好事家はいるかもな」


は?


「おとなしく言う事を聞いてたら、

 人買いに売られずに済んだのによ」


男のもう片方の手が私のほほを撫でた。



何、言ってるんだか。気持ち悪い。

この男は変態だ。チカンだ。人攫いだ。


そのとき、ピンと頭にきたのは、

チカン撃退法、その1。

(足の甲をおもいっきり踏みつけて、隙をつくり、逃げるべし。)


「離して!」

何も考えずに、男の足の甲を踏みつける。


「ぐあっ痛ってえ。 このガキ、なにしやがる」


腕をつかんでいた男の手が緩んだ。

右手で、男の手を下からすくい上げるようにはじいた。

その隙にきびすを返して、路地から飛び出した。


市場の混雑の中に紛れ込んだけど、

男はまだ追いかけてきたので、

思いっきり息をすいこんで叫んだ。


「キャー助けて!」


ぐるりと周りを見渡したら、

目の前のアクセサリー売りの女性と目があった。


私は、目の前の恰幅のよいおかみさんって感じの人に、

助けを求めるように寄っていった。


「なんだい。どうしたのかい?」


私の手を取って、おかみさんが私を背中に隠すように

男の前に立ちふさがった。


「おい、その子を渡しな」


男は、ぎらぎらとおかみさんを睨みつけた。

かなり頭に血が上っている様子だ。


「あの人、壷を買えって。

 買わないと、変な人に私を売るって脅した」


売るって言ってた。


言葉にしたら怖くなってきて、

体が震えて涙がじわっと出てきた。


「なんだって。アンタ、こんな子供を売り飛ばすって

 どういう了見なんだい。 親でも、許しゃしないよ」


おかみさんは大きな声で、男に怒鳴りつける。


「あの人、私の親じゃない。全然知らない人です」


私は涙目で彼女に訴えた。


「人でなしだけじゃなく、人攫いかい。

 あっちへ行きな。チンピラ」


おかみさんのドスの利いた怒声で、周りの人垣が一斉に、

男に向かって野次を飛ばした。


「人攫いが!こんな昼間から、この街をうろつくんじゃねえ!」

「恥知らず!子供を売るなんて、男のくずだ!」

「そうだそうだ。最低な野郎だ!」



男は、周りの攻撃に、少しずつ人垣から後ろに後退しはじめた。

きょろきょろと周りをうかがいながら私を指差し、

下卑た顔で笑った。


「そいつは、違法移民だぜ。 

 人買いに売られても文句ないはずだ」


男は、周りの人垣とおかみさんに向かって、

大きな声で言い放った。


その言葉で、彼女の顔がちょっと歪んだ。

周りの人垣も戸惑うようなザワメキがした。


おかみさんは私の顔を見て尋ねた。


「アンタ、身分証明書を見せてごらん。」


身分証明書?

今日もらったこれですか?


襟首から緑の皮ひもを引っ張って、

今日もらったプレートを皆の前に見せた。


「なんだ。ちゃんと持ってるじゃないか。

 どれ、見せてごらん」


おかみさんは、私の首に紐を残したままでプレートを引っ張る。


「16? もっと子供だと思ってたよ。

 でも、保証人も保護者もいるんじゃないか」


「ええ? そんなばかな。

 昨日チェットに聞いた話だと、違法移民だって…」


男が、あたふたと狼狽しはじめた。


うん?

どこを見たら、そのような表示が出ているんでしょう。


「チェット? あのほら吹き男に馬鹿を吹き込まれたのかい」


おかみさんは、あきれた顔で男に向き直った。

腰に手をあてて、片手を前に仁王立ち。


「か弱い女性に乱暴を振るって、挙句に人買いに売るだなんて

 鬼畜の所業だよ。 そこの人、警邏を呼んどくれ。

 最低な男だよ。皆で、そいつを捕まえて突き出すんだ。

 警邏にたっぷりとお灸をすえてもらいな」


男は、ひいっとおびえた声を出して逃げだしたけど、

すぐに市場にいた大勢の男の人たちに捕らえられ、

簀巻きにされた。



騒ぎを聞きつけて、やってきていた巡回の警邏の人達が

すぐにやってきて男を連れて行った。


「ちくしょう。覚えてろよ」


男は、大きな声で吼えながら警邏に連れて行かれた。


悪党の捨て台詞って、どうしていつも一緒なのでしょう。


男の行方を見送っていると、

警邏の人が一人残って、事情の説明を求められたので、

説明をしようとしてたら、

後ろから肩をポンと叩かれたので振り向いた。



「どうしたの?何かあったの?」


ミリアさんが、息せき切って立っていた。


「ミリアさん」


どうしてここに、ミリアさんがいるのでしょう。


「常連さんが店にやってきて、

 貴方が危ないって知らせてくれたのよ」


それで、そんなに急いできてくれたのですか。

ミリアさん。優しいです。

じんっと目じりが緩みそうになりました。


「おや、ミリアの知り合いかい?」


さっき私を庇ってくれたおかみさんも、警邏の人も、

どうやらミリアさんを知っているようです。


「ええ、昨日から、この子、

 ピーナさんのお店を手伝ってくれてるのよ」


ミリアさんは、私を庇うように私の肩を抱いた。


「へえ、ピーナの店でかい。

 手伝うって、リリーはどうしたんだい。

 確か夜はリリーと一緒に看板娘してただろ」


「リリーは当分働けそうもないの。

 足をくじいたみたいで。 チェットのせいよ」


「チェットかい。ろくなことしやしないね。

 いまの騒ぎも、元はといえばチェットが原因さ」


ミリアさんは顔に眉をよせ、

警邏の人に話した私とおかみさんの話をきくと、

とたんに火がついたように怒り出した。


「あいつもその男も、人間のクズだわ。最低ね。

 あんな奴ら、ちょん切ってギタギタにして、

 海に沈めばいいのよ」


頭から湯気が出そうです。

警邏のお兄さんは、かなり顔をひきつらせています。


「それにしてもなんだってまあ、この子が違法移民だなんて、

 言い出したんだろうね。 ちゃんと身分証明書も持ってるのにね」


おかみさんの手が、優しく私の頭を撫でてくれた。

優しい働き者の手です。気持ちいいなあ。


「この子の保護者はセラン先生よ。

 違法だなんてあるわけないじゃない」


ミリアさんの言葉で、おかみさんと警邏の人は、

にこやかに笑った。


「セラン先生かい。なら、間違いはないね」


セラン、街の皆の人気者なんですね。

絶大な信頼です。


後で話を聞きに、セランのところに顔を出すかもしれないって、

一言言ってから警邏の人は帰っていった。


私は、警邏の人にも、おかみさんにも、周りの人にも、

しっかりと頭を下げて大きな声でお礼を言いました。


「ありがとうございました。本当に助かりました」


おかみさんや皆は笑顔でこたえてくれました。


「大事にならなくて、よかったよ。

 これからは、あんな男に近づくんじゃないよ」


勿論です。

頼まれたって近づきません。


「はい」


しっかりと頷きながら答えた。






ミリアさんと二人でピーナさんのお店に入ると、

オトルさんがお店の椅子に座って、

今か今かと私達の帰りを待っていたらしい。

私達が来るとすぐに、椅子から立ち上がって走ってきた。


ほっとした顔で私をみて、

肩の力を抜き大きなため息をついた。


「よかった。メイちゃん、無事で」


オトルさんにもすごく心配かけたんだ。


「ごめんなさい。ご心配かけました。オトルさん」


オトルさんに謝りながら思い出した。


そういえば、カースにも今日、

皆に迷惑をかける行動はするなって言われたばかり。


それなのに、あんな変な男につかまるなんて。

私って大馬鹿です。


反省します。

心の底から。


ずーんと肩を落とし暗い顔をしていたら、

ミリアさんが背中をバンと叩いて励ましてくれた。


「メイのせいばかりじゃないわ。チェットの奴が、

 馬鹿でアホで、しょうもないことしかしない、

 ろくでもない奴だからでしょ」


俯いていた顔を上げると、

ミリアさんの顔が、先程と同じく般若のごとくに怒ってた。


「チェット? 彼が何かしたのかい?」


オトルさんは首をかしげて聞いてきた。


ミリアさんは、怒りながらことの顛末を、

一息もつかずに一気に話した。


顔を真っ赤にして、かっかと怒ってくれるミリアさん。


そんなにまで怒ってくれるミリアさんに、

私は猛烈に感動してきた。


姉御!私の為に!


ミリアさんが、すべて話し終えて息を整えている時に、

その感動を伝えました。


「ありがとうございます。ミリアさん」


ミリアさんの両手をぎゅっと握って、

真っ直ぐに目をみてお礼を言った。


「へ? メイにお礼言われるようなこと、

 私、何かいったかしら」



ミリアさんは、きょとんとした顔をしていたけど、

その一瞬で、怒りがどこかに反れたらしい。


それに、店にはまだお客さんがいたのに気がついたみたいで、

ミリアさんは、今更ながらに我にかえって耳まで赤くなった。


「やだ、私ったら、もう。行くわよ、メイ」


照れたミリアさんに引っ張られ、

奥のピーナさんのいる離れにずんずんと歩いていった。





ピーナさんの部屋で、赤ちゃんとピーナさんと対面しました。


小さな手、ふにふにのほっぺ。

大きな頭に柔らかい体。

暖かい体温にミルクの香り。


生まれたてで真っ赤だった赤ん坊は、

一日で可愛い天使のような赤ん坊に変わってました。


「ピーナさん。体の調子はいかがですか?」


私が尋ねると、ピーナさんはゆるく笑いながら答えた。

顔色はまだびっくりするほど白いけど、

昨日よりはずっといい。


「ああ、大分いいよ。 

 まだ体は重いけど、昨日から一日中寝てるからね。

 この子も夜鳴きを3回しただけで、

 ずっと眠ってる。 本当にいい子さ」


「そうなんだ。いい子ですね」


にっこり笑って、赤ちゃんの小さな手のひらをさすった。


そうしたら、眠っていた赤ちゃんの目がぱちっと開いた。


「ばう」

(こんにちは)


何? 赤ちゃん言葉が二重音声に聞こえる。


「うぶ、ばう、むにゅむにゅ」

(あえてうれしいです。かみさまのしゅごしゃ)


なんで? 動物の言葉がわかるだけじゃないの?


「んちゅ。うなう、んだ」

(おかあさんとわたしを、たすけてくれてありがとう)


赤ちゃんはまだ開かない両手を必死に動かして、

私に言葉を送ってくれた。


「会えてうれしい。

 無事に生まれてくれて、本当によかった」


にっこりと笑って、

赤ちゃんの両手を軽く握って答えを返す。



私の言葉を聞いたピーナさんが、

私の方を向いてお礼を言った。


「メイちゃん。本当に、ありがとう。

 お店のこともだけど。

 貴方がいてくれたから、この子は生まれることが

 できたような気がするのよ」


私は、首を左右に振って否定した。


「いいえ、ピーナさんとこの子が頑張ったからです。

 それに、セランや産婆さんも」


あんなに苦しんで、ものすごい痛みの中で、

子供を産んだピーナさんは本当に凄いと思った。

おかあさんって偉い。


ちょっとだけ故郷の母を思い出した。

おかあさん、元気にしてるかな。


その時、赤ちゃんが大きな声で泣き出した。


「いぎゃーああああ」

(おなかがすきました。おかあさん)


私はちょっとだけ笑って、ピーナさんに告げた。


「どうやら、お腹がすいたらしいです。ピーナさん」


オセンチになった気分が、どこかに飛んでいった。





お昼のお客が完全にいなくなり、

下の片付けが大体終わったのだろう。

オトルさんが、ピーナさんの部屋に顔を出した。


「ピーナ、調子はどうだい?

 気分は悪くないかい?

 我慢なんかしないでくれよ。

 君になにかあったら、僕は生きていけないんだからね」


矢継ぎ早に尋ねるオトルさんに、

ちょっとだけ嬉しそうにピーナさんが答えた。


「そのセリフ、昨日から何度も聞いてるよ。

 だから、返事はいつもと同じさ」


なんだか、甘甘な雰囲気が漂ってきた。


ミリアさんに目配せをして、私達は立ち上がった。


「それじゃあ、私達は下に行きますね。

 ピーナさん、赤ちゃんも、お大事に」


ミリアさんと二人で、部屋をでて店に戻った。




まだ夕方の開店まで時間があったので、

ミリアさんがお茶とお茶請けに、

ラスクのようなものを出してくれた。


誰もいなくなった厨房のテーブルで、

お茶を飲みながらミリアさんがいろいろ話してくれた。


「メイ、知らない人にはついていっちゃいけないわよ。

 それから、チェットには気をつけなさい」


「チェット?」

ラスクを割って、ひとかけらを口の中にいれる。


甘くないです。


どちらかというと、煎餅。

甘塩がふってあるので、塩ラスクですね。


そういえば、この世界にきて、

甘味はフルーツしか食べてない。

砂糖はあるはずだけど、高いのかな。



「リリーの旦那よ。 私の幼馴染でもあるんだけど、

 とにかく、どうしようもない男なの」


「ああ、リリーさん。

 そういえば、足の怪我大丈夫だったの?」


「ええ、ここに来る前に家に寄ってきたの。

 足をひどく、くじいたらしいわ。

 全治2週間ですって。

 チェットをとっちめてやろうと思ったのに、

 アイツ、昨日から帰ってないんですって」


ふうん。


「チェットは無駄に顔はいいから、

 だまされて近寄っちゃあ絶対に駄目よ」


チェットさんは、ハンサムさんなんだ。


でも、大丈夫です。


船で、レヴィ船長とカースに、

無駄に挟まれていたわけではないですよ。


美形には、耐性がついているはずです。


それに、知らない人にはついていかない。

心に刻み込まれたはずです。


今日は心から反省したんです。

二度と繰り返しません。

多分、きっと。


「リリーは、あの顔に騙されて結婚しちゃったのよ。

 挙句に親の信託財産をすべてなくしたわ」


金遣いの荒い男の人なんですね。


「チェットは、まじめに働くのが大嫌いなの。

 いつも、楽に稼げる儲け話に乗っては失敗して、

 すぐに借金しては逃げ出すの」


駄目男です。


「リリーには、何度も離婚しなさいって言ったけど、

 あの子、あんなチェットでも愛してるのね。

 絶対に別れないの」


ふうん。

絶対に別れないってことは、

そんなチェットさんもリリーさんには優しいのですね。

オトルさんがピーナさんを見るように。


「浮気もよくあることだし、今も変な奴らとよくつるんでる。

 ほら今は、メイを浚おうとした馬鹿達よ。

 リリーの今回の怪我はそいつらのせいみたい」


変な奴?

壷の人?


「騙しただのなんだのと難癖をつけて、

 リリーの家に来たらしいわ。

 ずっと帰ってないって言ったら、

 暴力を振るってきて居場所をいえって」


ヤクザだ。チンピラだ。

悪の世界の人達はどの世界にもいるんだ。


ヤクザを騙したのか、チェットさん。

後が怖いね。


「リリーさん。大丈夫なの?

 その人達がまた来るのではないの?」


「ええ、そう思ったから、警邏に保護をお願いしてきたの。

 今頃、リリーは警邏の宿舎でおとなしくしているはずよ」


ああ、それならば安心だ。

やっぱりミリアさんは、素敵な姉御です。





リリーさんとチェットさんの話が終わり、

ミリアさんの恋の話を延々と聞かされた。


実は、ミリアさんはカゼスさんを好きなのだそうです。

キャー。

両思いです。



あんな頭でも、カゼスさんは実は船大工。

見習い時代からミリアさんに惚れてくれていて、

最初は誘われて好条件で船に乗る予定だったのを、

ミリアさんの両親が亡くなったりいろいろあって、

ミリアさんのために工房に勤めることにしたんだって。


来年、カゼスさんは親方から工房を一つ譲られるらしい。

それを機に、ミリアさんはプロポーズを受けるらしい。


頬を染めて、嬉しそうに話すミリアさんは

とっても綺麗でした。



結婚かあ、私もいつかしたいなあ。

ミリアさんのように思い思われての

ピーナさんのように慕い慕われて結婚。


憧れます。



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