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箱をあけよう  作者: ひろりん
第3章:港街騒動編
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助言はさっぱりわかりません。

「いい加減、口を閉じたらどうですか?」


カースの一言で我にかえり、

言われたとおりに口をしっかり閉じます。


でもとりあえず、疑問は聞いておく事にします


「なんで、セランの家にいるんですか?」


「ここは正確には、レヴィウスの家ですよ。

 そして我々も、もちろんセランも居候です」


「だからここが、俺の家だ」

セランは、当然のような顔をしてます。


セラン、お医者さまなのに居候なんだ。


「俺らは、一年の半分以上は海の上だ。

 家とか持ってても管理できねえ。

 家族がいれば話は別だがよ」


バルトさん、ご家族いないんですね。


「だから、この街にいる他の船員は皆、

 安い契約宿を取るか、商会が探してきた下宿先に

 留まるかどちらかなんです」


で、ここが、その下宿先なんですか?


「ここは、俺の持ち家だ。

 俺のいない間は、商会に適当に管理と掃除を頼んでる」


レヴィ船長。大家さんだったんですね。


「メイ、お前は今日からここに住め」


レヴィ船長の言葉は、家なき子な私には

とってもありがたい提案です。


セランの家の隅っこに寝かせてもらう

つもりでここまで来ましたけど、

レヴィ船長の家に私まで下宿。


一つ屋根の下です。

いいのでしょうか。


そこまで考えたら、いいような気がしました。


だって、今更です。

船の中はまさしく一つ屋根の下でした。


それに、私にはお金もなければ寝る所も無い。


素直に好意に甘えましょう。

頭をちょんと下げました。


「ありがとうございます。 

 レヴィ船長。お世話になります」


頭を上げてにっこりと笑うと、

レヴィ船長の目が満足そうに微笑んでいた。






「3階の一番端の部屋が空いてます。

 掃除は適当にしておきましたから、

 後は自分で好きなようにしてください」


カースに部屋まで案内されて、

三階まで階段を上がります。


今頃になって、足と体が微妙に重いです。


遅れて階段をゆっくりと上がる私を振り返って、

カースは一つため息をつきました。


「本当に、貴方は。

 今日、船を降りたばかりなのですよ。

 どうしてそんなに疲れているんです」


えっと、働いてきましたって言ってもいいのかな。


「えーと、いろいろありまして」


人差し指同士をあわせて、人って字をつくりながら、

カースの目線から目をそらしました。


「いろいろですね。 いいでしょう。

 あとで、セランにでも聞きましょう」


そうですね。

そうしてください。


私の説明だと、おそらくカースは呆れて物も言えなくなるでしょう。

多分。


うんうんと頷いていたら、

不意に私の視界が反転しました。


ふえ?


何事?


私の体はカースに抱きかかえられていました。

まさに、お姫様抱っこっていうものです。


「少しは私を頼ってください。

 一応、兄のつもりではいるのですから」


カースは私の目をじっとみつめて、

ちょっと悲しそうに目を細めました。


嬉しいなあ。

カースの時々見せる兄としての優しさが心にしみます。


「はい。ありがとう。カース」


にっこりと笑って、

私の右手を左肩付近にあるカースの左手の上に乗せました。


私の手の温かみで感謝の気持ちが伝わったのか、

カースが嬉しそうに微笑みました。







部屋まで楽々お姫様抱っこで運ばれて、

お部屋のドアをくぐりました。



部屋は、普通の6畳ほどの部屋ですが、

ベットもあり小さな丸テーブルに2客の椅子。


枕元にはランプが置いてあり、

部屋の中を明るく照らしてました。


クローゼットもあり、壁には20cmくらいの鏡までありました。


縦長長方形の窓が一つ。

窓から月の光が差し込んでます。


部屋の隅には、いつの間にかセランが持って帰ってくれてた私の荷物が置いてありました。



「綺麗な部屋です。 

 お掃除ありがとうございます。カース」


「いいえ。簡単な掃除しかしてませんよ。

 商会の管理者が、綺麗にしてくれてましたからね」


そう言いながら、私をベットへ下ろしてくれました。


「ありがとうございます」


カースに目を見て、にこって笑顔で返しました。

お姫様抱っこは、とっても楽でした。


「軽くは無かったですよ」


うっ。

ぐさっと来ました。


今日のうなぎ様が、頭の中で勢い良く泳いでます。

うなぎ様の容量だけ、増えてるってことかしら。


カースが、クローゼットの横の小さな扉を開けると、

そこには、お風呂と洗面所がありました。

勿論トイレも。



ちなみにトイレは水洗です。


ここは、水路が発達した町だけあって、

ポンプ式の井戸とか普通にあった。


広場には噴水もあったし、

水圧を使った生活様式は、

普通に普及している。


さすがに水道は無いけどね。


ピーナさんのお店で借りたトイレや、

お店に設置してある、ポンプからは、

湯水のように水がでてた。



だから、この街のトイレやお風呂の水なんかは、

びっくりするほど水洗でした。


勿論、ポンプでがしゃがしゃと漕がないと

出ないんだけど。


電気があるって、実は凄い事だったんだよね。

日本の生活はまさに、至れり尽くせりだったんだ。


まあ、こっちの生活もこれはこれで慣れたけど。

 

うーん、難しいこと考えたら眠くなってきた。



「ここに、お風呂はありますし十分でしょう。

 もし、困ったことがあれば、私の部屋は真下ですから、

 いつでも訪ねていいですよ」



そういって、振り返ったカースが見たのは、

ベットの上にうつぶせになるように倒れこんでいるメイの姿。



近くによると、すでに、

すーすーと気持ちよさそうな寝息を立てている。


カースは大きなため息をついた。


ちょっとだけ、メイの体を抱き上げ、

毛布とシーツを持ち上げベットにメイを寝かせた。


すでに、眠りが深くなっているらしく、

どんなにしても目を覚まさない。



子供のように無防備な寝顔。

警戒心をまったく感じさせない。


その顔を見ていると、カースの心の中に、

暖かい何かが存在しているのを感じる。


「本当に手のかかる妹ですね。貴方は」


寝入っているメイの頬に沿って、指を滑らせ、

髪を指ですき頭を撫でて手触りを楽しんだ後、

そっと額に唇を寄せ、優しくキスをした。


ずっと、側にいて欲しい。


たとえ、肉親の情に過ぎなくても、

今のカースの唯一の灯り。


「どこにも行かないでくださいね。 貴方は」


そうして、枕元に置いてあったランプの光を消し、

そっと出て行った。





階段を降りて、一階の居間に戻ると、

全員まだそこにいた。


時刻はそろそろ真夜中になる。


全員そろったところで、レヴィウスが口火を切った。


「セラン。 なにがあった。 話せ」



セランは、中央のテーブルに置いてあったワインのビンを持ち上げ、ワイングラスにとくとくと注いで、それをぐいっとあおった。



「先日話したメイの身分証明を得るために、

 俺の娘に登録するって件だ。

 手っ取り早くするために、

 ビシンのところに二人で顔をだして、

 手続きをする旨を頼んできたんだ」


「そうだな。 手続きには時間が掛かる。

 早いに越したことは無い」


レヴィウスはそのまま、目線でセランに話の続きを促した。


「そこで、セフィーネのドレスに見とれているメイの様子を見て、

 給料もでたし、ここは服でも買ってやろうと、

 職人街に行く途中で腹が減ったんで、

 ピーナの店に食事に入ったんだ」


「ピーナさんの店に? まさか、お酒の相手をさせたのですか?

 メイの体から、お酒の匂いがぷんぷんとしてました」


カースの表情が厳しくセランを批判する。


「そうじゃねえよ。いや、結果的にはそうなったかもしれねえが」


ちょっと、しどろもどろになりかけたセランの言を

続けさせるべく、レヴィウスが片手をすっと上げた。


「それで?」


「ピーナが妊娠してたのは知ってるか?」


「おう、そういえば出航の時、腹が大きくなり始めてたな」


バルトの目が、昔を思い出すかのように、

ちょっと見上げ半眼になった。


「そうだ。今日、尋ねた時はまさに臨月状態。

 その上、逆子で出産はかなり厳しい状態だった」


「逆子? そりゃあ、大変だ」


「俺達の目の前で、産気づいた」


「なんてこった」

バルトが大げさに両手を上に上げた。


「俺は手術道具を取りに走り、メイはずっとピーナの側で

 ピーナを励ましていたらしい」


「メイらしいですね」


カースの目が嬉しそうに細くなる。


「俺や産婆が着いた時は、すでに産まれかけていて、

 ピーナは息も絶え絶えで、危険な状態だった」


「ピーナと子供は、まさか、亡くなったのか」


恐る恐るといった感じで、バルトが低い声で尋ねた。


「いや、不思議なことに、子供は逆子ではなかった。

 だから無事産まれた。ピーナも生きてる」


「なんでえ、産婆の見立て違いかよ」


「そうじゃないらしい。 

 産婆が言うに、子供が自分で動いたんだろうと

 いうことだった。 不思議なことがあるものだと

 産婆も首をかしげていた。

 あの産婆はこの街でもう40年、産婆をしてる。

 見立て違いはありえない」


「それで、メイの話にどう繋がるんだ?」


レヴィウスは膝の上に両肘を乗せて両手を組んだ。


「一応、正常出産だったが、

 逆子の名残で、ピーナの体にかなりの負担がかかった。

 ピーナの体は、しばらく絶対安静が必要だと話したら、

 店の従業員が足らないって話になった」


「まさか…」


「そう、メイがいきなり自分が手伝うって言い出した」


セランの顔は面白そうに笑ってた。


「二人には、渡りに船ってもんで大賛成だ」


軽口に弾みがかかる。


「しかし、メイは就労許可を持っていないでしょう」


カースが眉間に皺を寄せる。


「だから、俺は再度ビシンのところにいって、

 申請の書類を全部用意して、役所が閉まる寸前に

 出してきた。 ああ、久しぶりによく走った」


「申請中の札を取ってきたのか」


レヴィウスは、にやりと口の端で笑った。


「ああ、もちろんだ」


セランは自身のワイングラスにもう一杯ワインを注いで、

目の前に高く掲げる。


「今夜は良く眠れそうだ」


セランはかなりの上機嫌だ。


それに対してカースの目は冷え切っていた。


「何も、メイが手伝わなくても、

 他の女性を商会から手配するとか出来たでしょう」


「他の人を手配しようって話をしても、ピーナの旦那のオトルは、

 初対面の人間は絶対に雇わない。人一倍警戒心が強いんだ。

 そんなオトルでさえ、メイにはかなり気を許していた。

 会ったばかりのメイを、オトルがすんなり受け入れた」


レヴィウスは机の上から、自分のワイングラスを取って、

セランの前に差し出した。


「メイを拒否するのは難しいだろうな」


セランは、そのグラスになみなみとワインを注いだ。


「ふん。可笑しなことじゃねえ。

 船の中でも、そうだっだじゃねえか」


バルトも、グラスをセランに差し出した。


「あの子は、馬鹿正直で顔にすべて出てますからね」


カースも、グラスをもってきてセランの前に置いた。


セランは、二人のグラスにワインを注ぎ、

自分の分にも最後の一滴を落とす。


「今日一日、メイはピーナの店で働いてた。

 船の中にいるときのようにな。

 ピーナやミリアにも気に入られたようで、

 土産に服まで持たせて、俺の株を奪っちまった」


「なるほど、だから風呂にも入らず寝てしまうくらいに

 疲れていたのですね」


全員が、ワイングラスのワインを揺らして、

匂いが膨らむのを楽しむ。


「明日から2週間はピーナの店に行くらしい」


「ふん、よくやるな」


全員がお互いの顔をそれぞれ見比べる。


メイが現れてから、明らかに変わったと思っていた。


誰のどこがどうというわけでもないが、その変化は心地いいものだ。


自分にも相手に対しても。



レヴィウスが右手でワイングラスを捧げ持つ。


「メイの奮闘に乾杯だ」


全員が、グラスの縁をあわせて、チンっと鳴らした。


「「「メイに」」」


あおったワインは、気持ちよい眠りを呼びそうだ。







********






真っ白な、ただただ真っ白な世界です。


この空間には見覚えがあります。


この先に待っているのはと考えたら、

ちょっとだけ嫌な気分になりました。


たださえ、疲労万倍なのに、

夢の中まで疲れるとはこれいかにって言いたいよ。



でも、いつもと違うことが一つありました。


音楽が流れています。


以前に聞いたことのある綺麗な旋律。

弦がところどころ、爪弾くようにはねる音楽。


うーん。

この音楽、癒されるね。


いつ聞いても体が軽くなるような気がするよ。


ヒーリングミュージックってやつだね。


このままこの曲をききながら、ずっとここにいたいです。


目をつむって音に身を任せて、

ゆっくりと体を揺らしました。


アローハーとか、いいよね。




「いいから、早く上がって来て下さいね」


案の定、頭上から声がしました。


上を見ないようにしてたのに。


頭上には「龍宮古書店」の看板が掲げてある店。


ため息がでそうです。



あきらめて店への道を進み、自動ドアのボタンを押した。



以前と変わらない、怪しい微笑み。

何か企んでるんじゃないかって狸顔だよ。


「怪しくないでしょ。 別に。

 失礼だね。これが、地顔だよ」



そうなの、そんなことはどうでもいいよ。

折角、癒しの空間に浸ってたのにねえ。

はあ、ところで、コーヒーだしてよ。


「どうでもよくないけど、コーヒーだね」


狸と呼ばれた春海は、軽く手を振ると、

丸机の上に2客のコーヒーが現れた。


「さあ、召し上がれ」


そういって、オレンジ色の皮のソファに座るように勧める。


そういえば、このソファの色って変えたの?


「いいや、このソファはいつでも、いろんな色に変わるんだ。

 この空間は、君の夢と繋がっているし、基本君仕様だからね。」


私の頭がオレンジだと言いたいわけ。


「いいや、お祝いもかねて、明るい色がいいなって

 選択をしたら、この色になったんだよ。」


ふうん。


まあ、ソファの色がどう変わろうとソファはソファだ。


座るのに問題はない。はず。


「そうだよ。 いやだね。そんな警戒心満載で」


警戒しないってのは、無理でしょう。


以前は、幽霊だとか散々、脅かしてくれたからね。


「でも、心つもりができたでしょ。感謝してほしいね」


そりゃまあ、その通りかもしれないけど。


「僕の事前情報があったから、芽衣子さんは逃げたりしないで、

 彼に立ち向かえたんですよ。 全部、僕のおかげです」


そこまで言われると、その通りのような気がしてきた。


眉がちょっと、右下がりになる。


そうか、狸男のおかげだったんだ。


がくっと肩が下がる。


「でもまあ、無事、二つ目を手に入れられたから、

 コーヒーでお祝いしようと思って呼んだんですよ」


そうですか。


まあ、コーヒーは素直に嬉しい。


夢だけど、夢なのに、こんなに美味しい。


「お楽しみだけど、そろそろいいかな?

 本題に入りたいんだけど」


コーヒーが不味くなる話はご遠慮ください。


「あれには本当がちょっとだけで、あとは嘘だからね」


あれってなんなの。


50年連れ添った夫婦でもないのに、あれそれ言葉ではわかるもんか。


「それに、壷、売ってないからね」


壷? なんで? どこの?

骨董品かなにか?


「大丈夫。 多分、芽衣子さんは、

 嘘も本当もわからないだろうから」


どこを、どうしたら大丈夫なんだ。


「でもほら、芽衣子さんは一応女の人だから」


そうだよ。そこはその通り。


「芽衣子さん、何か護身術とかした記憶ある?」


あるわけないでしょ。


そんなもの必要ない一般貧乏人なの。


「だよね。 まあ、そんなわけで、頑張って」



全然、助けになってないような気がするんですが。


「大丈夫だよ。僕は信じてるよ」


いや、意味わからないし。


「でももうじき、芽衣子さん目が覚めるみたいだからね」


いい逃げ!


いつもながら、言い逃げですね。


あわてて、手の中のコーヒーカップを見ると、

薄く消えかかっていた。


いやーまだ、全部飲んでないのに。


もうちょっとだけ、寝ててもいいじゃない。私。


馬鹿ーーーー。




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