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箱をあけよう  作者: ひろりん
第2章:無人島編
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閑話: ある船員のつぶやき

「おい、コリン。どうだった?」


「お前、話したんじゃないのか。」


「怪我してるんじゃないのか?」




皆、口々にコリンに尋ねてくる。


何をって?

それは、メイについてだ。


あの奇妙な島で目覚めて、メイが帰ってきて、目覚めるまで

皆、それぞれにメイの安否を口にする。



自分もそうだが、皆の中で

ここまでメイの存在が大きくなっているとは

思ってなかった。


そのことに、ただびっくりしてた。



最初は、珍しい漂流者としか思ってなかった。

実は、一番最初に見つけたのは、コリンだった。



海で漂流することは、死に直結する。

それは、皆、良くわかってる。

助けられる漂流者は、大変稀だ。


だから、船乗りの間じゃ、漂流者は救い上げることが常識。

自分が漂流した時を考えたら、それは天啓に近い。


コリンはこの船に乗って、もう三年になるが、

その間に、多くの船員がいなくなった。


嵐の甲板で、波にさらわれた。

海賊におそわれて、命をおとした。

体調不良や怪我の様子で、船から降りるもの

その他いろいろな理由で。


そんな中、海で拾った漂流者。

それは、船乗りの間では、幸運の象徴。


その幸運に、あやかりたい船員はいるものだ。

それに、毎日同じ生活の中、違った顔が増えると

それだけで、話題になる。



その肝心の漂流者。


コリンが見つけたとき、

海の上で板切れの上に倒れていた。


夜で、視界がよくなかったこともあるが、

見つけたときは、もう船にとっては、眼と鼻の距離。

あっと言う間に、ぶつかってた。


同じ夜警をしていた船員に告げて、

あわてて、小船をおろした。


漂流者はまだ、木切れの上に体半分で乗っかっていた為、

すぐに見つかった。


引き上げたとき、随分小さいし、ふにゃふにゃと

柔らかい感触があった。

多分、子供なんだろう。

姉の子供を抱き上げた時と同じ感触だった。



こんな子供が漂流しているなんて、

親は何をしているんだか。

船に無事、積み終えた時、

見たことの無いこの子の親に、怒りを覚えた。


引き上げた時、一瞬開いた瞼は

しっかりと閉じられていた。



すぐに、医務室に連れて行かれ、それから三週間。

一度も部屋から出てきてない。


皆の興味はどんどん大きくなっていったようだ。




肝心の本人が姿を見せた時、ちょっと拍子抜けしたくらいだ。


コリンが見た感じ、やっぱり子供。


小さな身長に、細い体。


顔立ちはまあまあ可愛い子猫って感じだ。

大きな黒い眼が印象的だった。


いつも機嫌よく笑ってた。

表情がくるくる変わる。


それに、ちょこまかと本当によく動く。


下働きをすることになって、

あっちこっちで見かけたけど、

本当に、じっとしてない。


それに、皆を見上げる眼が真っ直ぐに向けられる。

そのまなざしがこの船の仲間達には好評だった。

ペッソって愛称で呼んでるくらいだ。


基本、船乗りは表面上の愛想はいいが、

信用した相手でないと、愛称なんて呼ばない。


大抵が、おい、とか そこの、とかで済ませてしまう。


下働き始めてすぐに、愛称でよばれているメイは

ちょっとした噂だったよ。


否定的な人もまだいたけど、おおよそは好意的。

もしくは、無関心だった。



あの嵐にあうまでは。




あの嵐の後、

レヴィ船長もカース副船長、セラン船医にバルト甲板長、

俺の直属の上司のアントンまで、メイを見る眼が変わった。


アントンは面倒見のよい俺の上司だが、

人を見る眼はかなり辛い。

良い所と悪い所を計って、天秤の傾いた方での人物評価をする。


その彼が、手放しで褒めた。

疑う余地がないとはこのことだろう。



彼のメイに対する評価で、皆の信用度がぐっとあがった。


それに、一生懸命のメイの仕事は、いい結果をだした。


俺も一度、洗濯物を出した。

洗われて帰ってきた洗濯物のシャツ。

今までに無いくらいに、綺麗に繕われ、

ほつれていた襟元に、脇がキチンと修繕されていた。


丁寧で、丈夫な仕上がりに感心する。


ハロルドのシャツは、大きな穴が裾付近

にあったのに、洗濯から帰ってきたシャツは

当て布をあててあり、綺麗に繕ってあった。



その出来栄えに皆がこれはいいと口々に褒めた。


自分の母親ですら、ここまで綺麗に繕えたためしは無い。


男にこんな丁寧な仕事できるものなのか?

皆が疑問に思ったらしい。

まあ、でも、アントンや職人たちは総じて器用だから、

男であっても不思議はない。


が、

それに付け加えて、メイの容姿から、

もしかして、メイは女の子じゃないか?


一部の船員はそう思ったらしい。

俺も、そう思った。


まあ、見た感じ15歳以下の子供だし、

手を出すことはないだろう。

色気も皆無に近いしな。



俺も、下積時代は雑用に明け暮れた。

今、メイがしている雑用とほぼ同じくらいのきつい仕事。


それを、小さな女の子が文句も言わずに、淡々と毎日こなしている。

そりゃあ、応援してやりたいって思うのが男だ。


だから、時々、重そうな荷物とか抱えてたら、

手伝うことにしている。

ハロルドやゾルダックも同じ様に、考えたみたいだ。


船の皆は大方、メイが女の子だって気がついてる。


多分、船長も皆が気がついているってわかっているはず。

だから、メイを船長達の側から、あまり離れない距離に置いている。


それに、メイは緊張感が薄れると、

隠し事が出来ない性格らしく、

いつの間にか、自分の名称が僕から私になってた。


最初は言葉が不自由だから、言い間違えたのだろうって

思っていたが、違和感があったんだろう、自然に私で落ち着いていた。


俺達も、そっちのほうがしっくりなじむなって感じてた。





あの奇妙な島で、メイが俺達を助けるために、

あんな岩場まで登ってくれた。


命の危険があったはずなのに、

大の男でも恐れている奇妙な現象を

解決するために、立ち向かった。


目覚めてすぐ、セランが皆に、簡単な説明をしてくれた。


多分、メイがいなかったら俺達は皆、眠ったまま、

死んでいたかも知れない。


そういわれて、心から感動した。


メイに最大の感謝を。

俺と仲間の命を救ってくれて、ありがとうって言いたかった。



メイはすぐ寝ちゃったから、言えなかったけどな。



メイを女じゃないかって、追求するより、

仲間って認めたい。


眼を見れば、わかるさ。

ずっと一緒に船に乗ってきた仲間だ。


多分、皆、同じ気持ち。



もうじき、俺達の国に帰り着くらしい。

そうしたら、メイはこの船を下りてしまうんだろう。


ちょっとだけ寂しくなるな。

そう思ってる。











明日から新章に入る予定です。

お楽しみにしててくださいね。



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