朝日が昇ります。
いつの間にか眠っていた様です。
床に差し込む朝日で眼が覚めました。
セイレーンはまだ眠ってました。
涙の跡の白い線が残るあどけない子供の顔。
私はセイレーンの顔を覗き込むように前屈姿勢で
眠っていたらしい。
かくんっと首が落ちて、はっと気がついた時は
私の頭はセイレーンの顔のすぐ近くにあった。
あぶないあぶない。
もう少しで眠っているセイレーンに頭突きするところです。
それに、よだれも少々。
まあ、誰も見てないということで。
朝日の光が斜めに挿し、セイレーンの金の髪をキラキラと輝かせます。
すこし手に取って、光にすかしてみる。
ああ、綺麗だな。
さらさらと手から零れ落ちる髪の感触が気持ちいい。
昨夜と同じように頭を撫で、もう片方の手で髪の感触を楽しんでいた。
しばらくすばらしい髪の感触で遊んでいたら、
膝の上から声がした。
「何やってるのよ。」
セイレーンにしては低い淡々とした声。
「あっ、起きた?
髪があんまり綺麗だから、お日様の光に透かして遊んでた。」
私の言葉にあきれた顔をしていたが、しばらくして我に返ったのだろう。
だんだん真っ赤になってきた顔と耳。
可愛いなあ。
それでも、セイレーンは膝の上から頭をどかすわけでもなく、
顔の向きを上から横に変えた。
「別に、いいけど。 まだ、眠いし。
もうちょっとだけ遊ばしてあげるわ。」
頬と耳は赤いままだ。
私の手は、セイレーンの頭を、そのまま撫で続けていた。
でも、セイレーンが頭の位置を微妙に変えたことで、
私の足がしびれ始めた。
うーん。
頭ってけっこう重いんだよね。
この痺れを感じなくなるまで忘れるには、
他の事を考えるしかない。
他の事、他の事。
楽しいこと、やりたいこと、今出来ること。
「そうだ、三つ編みしていい?
小さく沢山編んで、ドレッドヘアとか、してみたい。」
突然ひらめいた金の髪で遊ぶ欲求。
手がわきわきしてくる。
ぱちっと大きく眼を開けたセイレーンが
慌ててて体をおこした。
「なによ、ドレットヘアって。
良くわからないけど、嫌に決まってるでしょ。」
赤い顔が一気に普通にもどった。
ああ、せめてツインテールとかしたかった。
セイレーンは立ち上がって、大きく息を吸い込んだ。
そして、部屋の中のゆり椅子に眼を向けた。
顔が悲しそうにいがむ。
でも、泣いてはいなかった。
ゆり椅子の上にはおじいさんの遺体はなかった。
あるのは、砂とおじいさんの着ていた服。
遺体は無い。
でも、お墓はできないだろうか。
「セイレーン、この砂、触れても大丈夫?」
「今は、ただの砂だから、問題はないわよ。
どうするのよ。」
「レーンのお花の中に埋めてあげるの。」
おじいさんの服で包み込むように砂をかき集め、
一抱えの塊を抱いて外に出た。
レーンの花はすこししぼんでいたけど、
花畑の様子は変わっていなかった。
中央にぽっかりと空いた緑の葉の絨毯。
そこに拾った小石で穴を開け、
抱えていた塊を穴に納めた。
土を掛け、石をいくつか取ってきて、その上に乗せた。
セイレーンは私がすることをじっと側で見てた。
かつてのおじいさんであったものがここにある。
セイレーンは泣いてはいなかったが、顔をくしゃっとゆがめたままだ。
レーンの花畑の中央に置いた石をみつめながら、
ただ、たたずんでいた。
私は、セイレーンから一歩離れて、
レーンの花を摘み始めた。
ぷちぷちという音を聞きとがめたセイレーンが
ゆっくり振り返った。
「何してるの?」
「レーンの花の首飾り。
おじいさんに作ってあげようと思って。」
レーンの花を摘みながら、下を向いたまま答える。
「そんなことしなくてもいいわ。彼は嘘つきだもの。」
セイレーンの声が震えていた。
私が顔を上げると、金の眼と表情は
なげやりな怒りと悲しみをたたえていた。
「嘘? どんな?」
「ずっと側にいてくれるって言ったの。私を一人にしないって。」
「彼は人間でしょ。無理。」
「無理でも、いるって言ったの。」
「なら、いるんじゃない? すぐそこに。」
「何言ってるのよ。彼は死んだのよ。私と生きるのが嫌になったの。
だから、最後は私と話もしてくれなかった。
彼は、私を裏切ったの。」
なんだかなあ。
子供の台詞ではないよね。
考えなくても、私の手はレーンの花のネックレスを組み始めた。
何度も何度もつくったから自然に手が動く。
「ちがうよ。彼は貴方を見捨ててないし、裏切っても無いよ。」
ふいに、私の頭に白い髪の少年の台詞が翻る。
ああ、あれは、あの少年はおじいさんだ。
動けないおじいさんが私を呼ぶために
木霊になって現れたに違いない。
なんとなくだが、あってる気がする。
おじいさんの髪で見えなかった眼の色は
少年と同じ色をしていたのだろう。
「彼が私をここによんだの。
セイレーンを助けてくれって。
多分、彼は、自分が死ぬことを知っていたから。」
彼は苦しんでいたんだ。
自分のせいで多くの命が失われていくことに。
セイレーンがそのために、手を汚すことに。
「輪をセイレーンからはずしてくれって言ってた。
そうしないと、セイレーンは助からないからって。」
そうだ。確かに、そういった。
いままで、忘れていたのに、なぜかふいに思い出した。
「セイレーンを助けるために、私が来るのを待ってたって。」
「貴方を? そういえば貴方はナンなの?
普通の人間にしか見えないけど、私の術は効かないなんて。」
「私は普通の人間だよ。
ちょっと神様の加護なんてもの、もらっているだけだよ。」
「は? 神様の加護? 貴方、加護者なの?」
「そうみたい。でも、特別な力はまったくないよ。
しいて言えば、死なないことかな。」
「何それ。 人間なのに、死なないの?」
「怪我もするし、痛いし、血もでるよ。でも、死なないんだって。
だから、下手に崖から落ちて怪我とかすると、
ゾンビ状態でも生きてるって状態になるの。
痛がるゾンビだよ。ぞっとするよね。」
軽口を叩きながらも
手はもくもくと作業を進めている。
「輪をはずしてくれって言ったのね、あの人。」
「そう、真剣な眼で貴方を助けたいんだって。」
セイレーンは左手をすっと挙げた。
「::::::*****::****。」
なにを言っているのかわからないが、呪文のようだ。
セイレーンの左手に蔦の様な文様が浮かび上がった。
薄い青と金が絡み合った不思議な蛇のような絵の模様。
「これが輪よ。彼と交わした契約の輪。
ずっと一緒にいてくれる約束の印。」
日の光に照らされて、もともと薄かった青い線が
どんどんと薄くなり、消えていった。
と、同時に、金の蔦もはらはらと腕からはがれた。
蔦に見えていたのはセイレーンの髪の毛だった。
「彼は命をもってして、契約の解除をなしたとみなす。
もう、私を縛る輪は存在しない。
よって、私の存在が消えることは無い。」
セイレーンは私の側にきてしゃがみこみ、
同じようにレーンの花のネックレスを作り始めた。
「もう、いいの?」
セイレーンの中で彼は許されたのだろうか。
「ああ、私は、また、ひとりぼっちだ。」
「なら、私と一緒に行こうよ。友達になろう。」
寂しげな言葉と何かをあきらめた表情に、
とっさに答えていた。
「はあ? 貴方は加護者でしょ。私の何が欲しいのよ。
私は化け物なのよ。神様から見たら、異端じゃない。」
「セイレーン、私は貴方が化け物だから友達になりたいんじゃない。
そもそも、友達って一方的に頼る存在ではないでしょう。
友達はお互いの心を信じて、認め合う関係だよ。
だから、私は、貴方と友達になりたいの。」
セイレーンは金の眼を細めて、厳しい顔をして私を見据えた。
「でも、貴方は人間でしょ。
彼のようにいつかは死んでしまうのでしょう。」
そうだよ。だって、それが自然の摂理だもの。
逆らうことの出来ない運命。
「うん。でも、私が死んでも、私の子供が残るよ。
その子供がそのまた子供を生んで、未来に繋がっているの。
私の子孫なら、絶対、セイレーンと友達でいること嬉しいと思う。」
うん。セイレーンは究極に可愛いしね。
私の血筋ならば、絶対可愛がること間違いなしだ。
「子供? 貴方の? ずっと側にいてくれるの? 」
セイレーンは泣きそうになってる。
これは、うれし泣きだよね。
「うん。セイレーンが嫌にならなければね。
ずっと、友達でいられるように、私も頑張るから、
セイレーンも頑張ってね。」
泣き笑いのセイレーンの顔は綺麗だった。
セイレーンの笑顔が太陽の光で輝いて見える。
「どう頑張るのよ。私は貴方のような友達関係は初めてなのよ。
きちんと教えてちょうだい。」
それは、了承したということでいいですね。
丁度、レーンの花のネックレスが綺麗に出来上がった。
それを墓石代わりの小石の上に掛けた。
よし、完璧。
「それは、おいおいに少しずつね。まずは私はメイよ。
これが、私の名前。貴方じゃなくて、名前で呼んでね。
これから、よろしくね。セイレーン。」
片手を差し出した。
ここは握手です。
「わかったわ、メイ。 でも、私のセイレーンと言うのは
種族の呼び名なの。私には名前はないのよ。」
セイレーンの右手をしっかりと握り握手をかえす。
「じゃあ、私が名前をあげる。
うん。 照がいい。
暖かくて明るいお日様の光のことよ。」
「日の光っていいの? 私は……」
「日の光にあたってきらきら綺麗だから、似合ってるよ。
いいんだよ。こうゆうのは、言ったもの勝ちだから。」
セイレーンが嬉しそうに、しっかりと微笑んで頷いた。
「これから、よろしくね。照。」
風に乗って、あの少年の声が聞こえた気がした。
(ありがとう)
風が運んでくれたんだろう。
木霊になった彼の声を。
私は、しっかりと照の手を握り締めた。
そのとき、私の胸の上で一瞬、何かが熱くなった。
襟首から覘いて見ると、いつの間にか白い玉が戻ってきていた。
白い玉は以前の2色ではなくて、3色になっていた。
くっきりとしたオレンジが色づいていた。




