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箱をあけよう  作者: ひろりん
第2章:無人島編
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ここにいます。

大きな音を響かせて木のドアが乱暴に開かれた。

ドアを開けると、一間しかない部屋。

隠すものの遮るものもない部屋だ。


そこには、私が朝、部屋を出る時にみた光景と同じもの。

ゆり椅子に寝ているおじいさん。


太陽が窓から差し込んで、おじいさんの顔を照らしていた。

白いお髭に白い髪、そして、血管がすけるように白い肌。


セイレーンは戸口で立ち止まったまま、動かなかった。

多分、動けなかったんだろう。


真っ直ぐにおじいさんを見つめている。

その眼は恐怖と困惑に彩られ、どうしていいのかわからない

そんな思いがあふれていた。


私は動けないセイレーンの代わりにおじいさんの側にいった。

寝息は聞こえない。

口の前に手をかざしたが、返す息吹は無かった。

心臓に耳をあて、鼓動を確かめる。

本当ならばとくとくとリズムを刻む器官は音を発していなかった。

手首を取って、脈を確かめる。

しばらく待ってみたけど、血管から伝わる脈は一度も音を立てることはなかった。


蝋人形のように白い肌。

ああ、彼は死んだんだ。


こっちを見ているセイレーンの顔をみながら、

横に首を振った。


「嘘、駄目よ、ずっと側にいてくれるって言ったのよ。」


放心したセイレーンがおじいさんの顔を見ながら、つぶやいた。



セイレーンはこのおじいさんの寿命を伸ばすために力を使ってる。

それは、セイレーンが彼に執着しているからだ。

そんなセイレーンに、今、なんて声を掛けたらいいのだろう。

私には、わからなかった。


「嘘つき。嘘つき。嘘つき。」


セイレーンは大きな金の眼に涙を一杯に浮かべて、

子供が駄々をこねるようになき始めた。


「帰ってきて。お願い。約束したじゃない。」


セイレーンはこわばっていた体が崩れるように、床にしゃがみこんだ。

セイレーンの涙がポタポタと落ち、床にしみをつくった。


そのしみが少しずつ靄に変わる。

金の髪が、生き物のようにうごめき始め、靄を伸ばすかのように、

四方に広がり、靄と一体化し始めた。


セイレーンはまだ、なき続けている。

多分、自分が何をしているのか解っていないのかもしれない。

能力が暴走し始めている。


私は直感した。

セイレーンの能力の暴走。

何が起こるかわからない恐怖が一瞬、体を通り抜けた。


「一人にしないで。」


セイレーンが泣きながら叫んでいた。

セイレーンの心が切なかった。

胸が締め付けられるような痛み。

同時に、息が出来ないような悲しみに押しつぶされそうになった。


この感覚は知っている。

私は知ってる。

忘れられない思いの重さ。


ならば、すること、出来ることは一つだけ。


大きく息を吸い込んで、泣き続けているセイレーンの

背中に私の背中を押しつけるように座り込んだ。


セイレーンの肩がビクッと動いた。

でも、涙はとめどなく流れ、靄を出し続けている。


怖くないわけじゃない。

眠り続けている船員達、砂になった他の知らない犠牲者達。

その仮定、結果を知ってる。


でも、ここで逃げたら、見捨てることになる。


友達になりたいって思ったんだ。

助けたいって思ったんだ。


その思いを捨てちゃいけない。

捨てたら、私は私でいられなくなる。


私は、何も出来ない。

神様の守護者とか言われていたってただの人間だ。

でも、ただの人間の私が出来ることがある。

それを捨てちゃいけない。


言葉は出てこなかった。

でも、触れている背中は温かさを伝えていた。




周り一面が靄で覆われていたが、

何も感じなかった。

セイレーンに対する同情とか哀れみとかすら持っていなかった。


私は彼女のそばにいたい。

そう思ってそこに居続けた。








そうしてどれくらい経ったかわからないが、

いつの間にか背中越しに聞こえていたセイレーン泣き声、

引きつるような息が、静かな寝息に変わっていた。


周りの靄が少しづつ薄くなっていき、

窓から差し込む月の光の筋が、床を照らしていた。


完全に部屋から靄が無くなったのを期に、

背中に凭れ掛かって寝ているセイレーンを

私の背中からゆっくりとずらした。


そのまま、倒さないように私の体の向きを変えた。

セイレーンの頭が私の太ももの部分に来るように

簡易膝枕を実行した。


セイレーンの頬にはくっきりと涙の跡。

さっきまで靄と一体化していた金の髪は

もとのさらさらの髪に戻っていた。



金の髪をそっとなでる。

眠っている間だけでも、いい夢がみれるといい。

そう思って撫で続けていた。


私が苦しんだ時、私には母が側に居てくれた。

今のセイレーンみたいに泣いて泣いて寝てしまった時、

同じように、こうして頭を撫でてくれた。


私は、セイレーンの母ではないが、

すこしでも、セイレーンの心が安らかになればいい。












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